第二十四話 君には幸福に
「朝からさすがに食べ過ぎすぎてしまったかしら……あなたもそう思う?」
アルフレッド様と共に朝食をいただいた後、一旦自室に戻ってきた私は、少し大きくなったお腹をさすりながら、ベッドに置いてあるぬいぐるみを撫でた。
今日も朝から随分と気合が入った食事だった。種類もさることながら、その量も凄くて、どう頑張っても一人で食べきれるわけがない。
……残ったのって、どうしているのかしら? もし捨てているのだとしたら、絶対に許せない。食べ物は粗末にしてはいけないなんて、子供でも知っていることなのだから。
「セリア様、アルフレッドだ。少しいいかな?」
「少々お待ちくださいませ」
私は、ぬいぐるみを元あった場所に戻してから、アルフレッド様を出迎えた。相変わらず、とても爽やかな笑顔を浮かべている。
「どうされましたか?」
「君に、まだ城の中を案内していなかったからね。食後の運動を兼ねられるし、どうかな?」
「…………」
相変わらず、この方の考えていることはよくわからない。一緒に行動していれば、わかるかもしれないわね。
「案内といっても、恐らく君が住んでいた城にあったものばかりだと思うけどね」
「あるものは一緒でも、どこにあるかは違いますもの。迷子になってご迷惑をおかけしないためにも、今のうちから覚えておきたいですわ」
「わかった。それじゃあ、いこうか」
アルフレッド様は、何のためらいもなく、私に手をそっと差し伸べる。それに対して、一瞬躊躇したものの、私は自分の手を乗せると、アルフレッド様は嬉しそうに表情をほころばせた。
「近い場所から案内しよう」
アルフレッド様と共に、私はソリアン国のお城を色々と見て回った。行ったことがある応接室に始まり、食堂や厨房、謁見の間に兵士や使用人の厩舎といった、様々な場所を案内し、丁寧な説明もしてくれた。
その道中で、私はとある場所に連れてきてもらった。それは、見上げるほど大きな本棚がひしめき合っている書庫で、その光景は、まさに圧巻だった。
同時に、本が好きな私にとっては、文字通りよだれが出てしまうほど、魅力的な空間でもあった。
「うわぁ……うわぁぁぁぁ……!!」
「ふふっ、気に入ってもらえたようだね。ここにある本は、いくらでも読んでくれて構わないよ」
「本当ですの!? 借りるのに、なにか大きな代償があるとかは……!」
「あはは……随分と物騒な言い方だね。まったく、一体どんな生活をさせれば、こんなふうになるんだ……カルネシアラ王家め……」
「アルフレッド様?」
どうしたのだろう。なにか小声でブツブツ言っているみたいだけど、小さくて何を言っているかは聞き取れない。
「なんでもないよ。読むのに何か必要なものも、してほしいことも無いから、自由に読んでいいよ。ああ、外に持ち出す際には、入口の所にいる司書に声をかけてね」
「はい、わかりました!」
ここにある本を、全て読んでいいの!? 一体どこから読めばいいのか、目が回ってしまいそう――じゃなくて! 好きなものを目の前にぶら下げられて、本来の目的を見失うところだったわ!
「さて、これで一通り城の中は案内したけど、何か質問はあるかな?」
「特にございません。ご丁寧に案内していただき、感謝いたしますわ」
「どういたしまして。そうだ、公務までもう少し時間があるから、朝の散歩に付き合ってくれないか?」
「ええ、わかりました」
本当は、ここの本を見て回りたいところだけど、まだアルフレッド様の真意はわからない以上、共に行動できるこのチャンスを、逃すわけにはいかない。絶対にその思惑を暴いてみせるんだから。
「ありがとう! それじゃあ、行こうか」
アルフレッド様に手を引かれて中庭に行くと、そこには色とりどりの花がたくさん咲き、小鳥や野生の動物達が楽しそうに遊び回る、とても美しい場所だった。
「お城の窓から見えておりましたが、こうして改めて近くで見ると、本当に綺麗な庭ですのね。ここにいるだけで、心が洗われるような気分になります」
こんな素敵な庭で、お花の甘い香りに包まれながら読書をしたら、どれだけ気持ちが良いだろう。考えただけで、心がウキウキしてくる。
「僕のご先祖様に、大層花が好きなお方がいたようでね。そのお方が自らこの庭を作ったそうだ。それからずっと、王家や城のみんなで面倒を見ているんだ。おかげで、僕も花が好きになってしまったし、花言葉を色々覚えてしまったよ」
「素敵なことだと思います。私の故郷には、花や動物を愛する人は、あまりおりませんでしたから」
私の家族の話になってしまうが、彼らは愛するどころか、花を踏んでもなにも思わないみたいだし、よく動物を狩りに行き、散々逃がして怖がらせてから殺してやった、なんて話を何度も聞かされていた。
……これでは、まるで立場が逆じゃないの。祖国の方の方が、よっぽど野蛮じゃない……。
「ところで、君はぬいぐるみや読書が好きなのか?」
「えっ、どうしてご存じなのですか?」
「とある人物から教えてもらったんだ」
……そんなの、リズしかいないじゃないの。別に知られても問題ないことだから、全然良いんだけどね。
「ぬいぐるみは、私のお友達です。私は人生で一度も、人間のお友達が出来たことがありませんでした。今は、リズがお友達になってくださいました。それと本は、唯一私を現実から逃がしてくれるので、コツコツ集めて、時間がある時に読んでおりましたの」
「そうだったのか。君は、本当にずっと苦労してきたんだね」
これは、私の身に起こった出来事。私の人生だ。それなのに、どうしてアルフレッド様が、そんなつらそうな顔をするの? あなたには関係のないことなのに……。
「どうして、アルフレッド様がそんな悲しそうなお顔をされているのですか?」
「どうしてって……誰かが悲しい目に遭ったら、僕だって悲しい気持ちになるさ。だって、みんなには笑顔で幸せになってもらいたいからね。婚約者の君なら、なおさらだよ」
「そう、ですか……」
ああ、頭が混乱する。一体何が本当で、何が嘘なのか全然わからない。頭がパンクしそうだ。
そんな私を見かねてか、アルフレッド様は、ちょっと待っててと私に伝えると、一人で中庭のとある場所に行き、一輪の花を持って帰ってきた。
「はい、これを君に。ああ、もちろん今回は変な魔法はかけていないよ」
「可愛らしいお花ですわ。これは、チューリップ?」
「そう。ピンクのチューリップには、幸福という花言葉があるんだ。これからの君の未来に、悲しいことなんてすべて忘れてしまうくらい、多くの幸福があることを願って、君に贈るよ」
「アルフレッド様……」
「もちろん、君が幸せになるために、僕も協力は惜しまないつもりさ。手始めに、君が欲しいぬいぐるみや本の調達から始めるとしようかな?」
だから、どうして私にそんな優しくしてくれるの? そんなに優しくされたら……私の決意が、復讐の心が鈍ってしまう。
「失礼します。アルフレッド様、そろそろお時間の方が」
「もうそんな時間かい? 楽しい時間というのは、あっという間に過ぎてしまうな。セリア様、自室まで送っていくよ」
「……ありがとうございます」
「セリア様、そちらのお花は、私めが花瓶に生けておきます」
私は、声をかけてくれた初老の使用人にお花を渡すと、アルフレッド様にリードされたまま、私は自室に向かう。
「……うっ……!?」
もう少しで自室に着く。だというのに、私は突然強い眩暈に襲われると同時に、目の前が真っ暗になってしまい、その場に座り込んでしまった。
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