第十六話 ソリアン国へ出発
大騒動が起きた日から一週間が経った。この間に、貴族達で行われた会議で、満場一致で私の婚約が可決されたことで、無事に私が婚約者として国を出ることが決まった。
そのことを伝えるために出かけていた宰相様が、先ほど戻ってきたのだが、なんとソリアン国の人と一緒に私の元にやってきた。
「突然の来訪をお許しください、セリア様。私はソリアン国の王家の使いです」
「はじめまして。セリア・カルネシアラと申します」
宰相様の意向で、ここ最近はそれなりの身支度をしてもらっていて、本当に良かった。そうでなければ、あの汚い服で彼を出迎えることになっていた。
「本日は、どのようなご用件で?」
「祖国の王子である、アルフレッド様より、すぐにセリア様をお迎えしろとの事でして、お迎えに上がりました。是非、我々と一緒にソリアン国にお越しいただけないでしょうか?」
「それはもちろん。ですが、まだ身支度が……」
「えっ? その……あまりにもお綺麗なので、既にご準備されているのかと……」
……お世辞なんて言われた経験、初めてかもしれない。なんともいえないこのくすぐったさ、ちょっぴり苦手かも。
「では、すぐに準備をしてまいりますので、お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「はっ! 私のことはお気になさらず、ごゆっくりどうぞ!」
ソリアン国の使者は、見張りをしていた兵士と共に、私の前から去っていった。
まさか、急に来てほしいといわれるなんて、さすがに驚いた。それに、先程の使者の態度……あれが、本当に野蛮な国の人の対応なのかしら?
もしかしたら、今日のためにたくさん練習して、紳士らしい振る舞いを身につけたとか? 可能性としては、全然ありそうだ。
「ではセリア様、出発のご準備を」
「はい」
使用人達の手によって、身支度が行われる。綺麗にお化粧をしてもらい、髪飾りをつけ、いつも降ろしている髪を、ハーフアップにしてもらった。
随分と気合が入っているなと思い、途中で話を聞いてみたところ、どうやら宰相様に、ちゃんとやるようにと、釘を刺されていたそうだ。
私は国の代表としてソリアン国に行くのだから、汚い格好をさせるわけにはいかないということね。仕事熱心な彼らしい考え方だ。
「あ、あの……お、終わりました」
「ありがとうございます。とても綺麗ですわ」
自分で言うのはおこがましいのは重々承知なうえだが、姿見に映る自分の姿は、とても綺麗だ。仮にも、彼女達は長年ここで仕事をし、お義母様やお姉様の身支度をしてきたのだから、腕は確かなのだろう。
「その腕を、もっと私に振るってほしかったところですわね」
チクチクと嫌味を言いながら、一旦部屋を後にした私は、例の小屋へとやって来て、大切なぬいぐるみや本をササッとまとめた。もちろん、埋めて隠しておいたものも、しっかり回収している。
「これでよしっと。さあ、早く使者の方と合流して、ソリアン国に出発しませんと」
綺麗に掃除をしておいた小屋とさよならをした私は、先程の使者の方と、一緒にいた宰相様と無事に合流することが出来た。
「お待たせいたしました」
「…………」
「どうされました?」
「はっ!? 大変失礼いたしました! その、先程もお綺麗でしたが、更にお綺麗になられていたので、言葉を失ってしまっておりました! うぅ、こんな綺麗で素敵なお方と結婚できるなんて、アルフレッド様は幸せ者です……!」
「え、えぇ……?」
私の姿を見るや否や、使者の方は頬を赤らめたり、感動して涙を流したりと大忙しだ。この豊かな感情表現に、どう返せばいいのかわからないのだけど……。
「ぐすっ……度重なる失礼をしてしまい、申し訳ございませんでした……」
「いえいえ。すぐに出発しましょう」
「そうだ。アルフレッド様から、従者を連れて来ても良いと言付かっておりますが、いかがいたしますか?」
「お気遣いいただき、ありがとうございます。ですが、今回は私一人で向かいたいと存じます」
私の境遇や、ソリアン国のことを考えたら、私についてきたいなんて言う方は、この国には誰一人としているわけない。
それ以前に、私はこのお城にいる方達の中に、一緒に来てもらいたいと思える方は皆無だ。
……唯一、彼女なら一緒に行っても良いと思えるが、既に彼女はお城にいないから、連れていくことはできない。仮にお城にいたとしても、危険と思われるソリアン国に、彼女を連れていくのは憚られる。
「ではセリア様、私は仕事が立て込んでおります故、これにて失礼します。向こうでも、お元気で」
「ええ。あなたも色々大変でしょうけど、お元気で」
馬車が用意されている外までやってくると、宰相様は手短な別れの言葉を残して、お城の中へと戻っていった。
彼には、お父様達が起こした問題を解決しなければならないから、見送りなんてする時間なんて無い。
それに、彼が私を監視下に置いていたのは、あくまでせっかく決まったアルフレッド様の婚約者である私に、なにかあっては大変だからであって、私のことを思っての行動ではない。そんな方が、見送りなんてするはずがないでしょう?
「…………」
「どうかされましたか?」
「あ、いえ……その、見送りはいないのかと、思いまして」
「ええ。お別れの言葉を伝えたい方もおりませんので、このまま出発していただいて構いませんわ」
「は、はぁ……わかりました。ではお乗りください」
少々引き気味な使者の方は、私を馬車の中にエスコートした後、別の馬車へと乗りこんでいった。
今の彼の反応は、特におかしいことではない。仮にも一国の王女である人間が、お城を出ていくというのに、誰の見送りもないなんて、普通はあり得ない。
……そのありえないが、ずっとまかり通ってきたのが、私の周りの環境なのだが。
「ついに、あの地獄から抜け出せたのですね……なんだか、いまいち実感が沸きませんわ」
つい最近までは、全部を諦めて受け入れていたというのに、予知を見てから私の人生は、大きく変化した。こんなの、少し前の私が聞いても、絶対に信じないだろう。
って、感傷に浸っている場合ではない。国を去ってめでたしめでたしなのではない。これはあくまで私の目標の過程に過ぎない。
私の目標は、家族への復讐。そして、戦争のきっかけを作ったソリアン国の王家への復讐。家族への復讐は一度成功したとはいえ、この程度で満足なんて出来ない。
家族の元を離れる選択をした以上、今までのように気軽には復讐は出来ない。私がいない間に、更に落ちぶれてつらい目にあうかもしれないが、それでは爽快感が無い。やはり、目の前で酷い目にあう姿をもっと見たい。
「急ぎというわけでもありませんし、ゆっくり考えて――」
「そ、そこの馬車~! 待ってくださ~い!!」
「……? 後ろから声が……なにかしら?」
キャビンの窓から顔を出して後ろを見てみると、そこにはなんと実家に帰ったはずのリズが、全力で追いかけている姿があった。
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