916:タルウィペトロ・3-6
「ブタレットオオォォ!!」
「……」
「ちっ、だいぶ増えてきているな」
地竜は元気に走り回り続けている。
走り回り、時々進路をスクナに向けて、攻撃を仕掛けてきている。
そして、走り回るのに合わせて、甲殻をばらまき、ばらまかれた甲殻はガスを放ち、そのガスによって闘技場の大半が覆われてきている。
スクナは何かしらの手段で自分の周囲のガスを抑えているようだが、それでもだいぶきつそうだ。
おまけにガスのせいで周囲の視認性が悪くなってきていて、スクナの位置からでは地竜の居場所が分かりづらくなってきているようだ。
「ふんっ!」
「ブモウウゥ!?」
だがそれでもスクナはまだまだ元気である。
地竜の攻撃を紙一重で避け、すれ違いざまに武器を切りつけ、噴き出す石化ガスから逃れて、地竜のHPを少しずつ削り取っている。
とは言え、地竜の再生力の前では焼け石に水のようだが。
「ブモオオォォ!」
「分かってはいたけれど、私メタが酷いわね」
「そうだな」
で、私はと言えばだ。
CTの都合で邪眼術を使えない私は『熱波の呪い』を利用した呪詛による攻撃を行っているのだが、効果が薄い……と言うか無い。
呪詛の剣は地竜の甲殻を貫けず、呪詛の鎖は容易く千切られる、呪詛の槍と弾は弾かれる。
邪眼術も自己加速に使われてしまうし、出来る事がまるでない。
私の攻撃能力に対するメタの酷さは、ムミネウシンムの怨みか何かだろうか。
「まあいいわ。ルナアポを使うのは無しだけど、だったら別の物を撃ち込めばいいのよ。『竜息の呪い』-射出方法1-蛇界の竜呪の紫角」
「!?」
このままでは色々な意味で拙いだろう。
私はそう判断すると、蛇界の竜呪の紫角を地竜に向けて射出する。
射出された角は地竜の前足に突き刺さり、甲殻を食い破り、脚を押し潰しながら、胴にまで達した。
普通ならこれで動けなくなるだろうが……。
「ブモオオォォ!」
「本当に回復が早いな」
「うーん……あの回復力を潰す方法が必要ね……」
地竜は動きを止めず、貫かれた脚が千切れると、素早くその足に食らいつき、食べ、再生してしまう。
この動作を殆どスピードを落とさずに実行してきたのだから、自分の強みをよく分かっていると言うか……いや、本当にどうしたものだろうか?
「ブッコオオオォォ……!!」
「「!?」」
と、ここで地竜が新たな動きを見せた。
口を地面から離し、空気だけを大きく吸い始めたのだ。
その動作に私とスクナは地竜の口の直線上から急いで離れる。
「ガアアアアァァァァァ!!」
放たれたのはライムグリーン色のブレス。
そのブレスは進路上に存在していたものを吹き飛ばす事は無かったが、代わりにブレスに触れたものを全てオパールへと変えていく。
竜呪である以上は何処かでブレスの類が使われるとは思っていたが、やはり持っていたか。
そして問題なのは、このブレス攻撃もまた足を止めることなく放たれたと言うこと。
「ぐっ……流石に避け切れんか」
地竜の首はそれなりに動かせる。
そのため、流石のスクナも避け切る事が叶わず、体が半分ほどオパール化してしまっていた。
「ブモオオォォ!」
そのスクナに向けて地竜が突進していく。
食われればどうなるかは考えるまでもない。
「スクナ!」
「分かった!」
なので私はスクナに向けてゲーミングジャーキーを投擲。
輝く肉の塊をスクナは食べ、飲み込み、石化が解消される。
「助かった!」
「!?」
「うわっ、眩しい……」
そしてスクナの全身が、その装備品も含めて約1680万色に輝き始める。
その輝きは知っている私にとってもなお眩しいものであり、予期していなかった地竜にとっては一種の閃光のようなものであったようだ。
地竜は進路を変え、スクナの横を通り過ぎていく。
「今がチャンスかもしれないわね。CTも明けたわけだし……noitulid『石化の邪眼・2』」
私はこれを好機とみて動いた。
伏呪付きの『石化の邪眼・2』に『呪法・感染蔓』も乗せて放つ。
ただし、地竜に対してではなく、地竜がばらまいた甲殻に対してだ。
「ブモッ!?」
「ほう……」
ライムグリーン色の蔓が甲殻の間で走り、虹色の甲殻を石灰質の物に変化させる。
ガスを放っているのは同じだが、石化した甲殻は地竜がばらまいたものとは全くの別物だろう。
スクナの閃光で目が潰れ気味だった地竜は、そんな甲殻を飲み込んだ。
するとこれまでは一気に加速していたのだが……。
「ブ、ブギイイィィ……」
「これほどに変わるものとはな」
「なるほど。これが正規の攻略手段と言う事ね」
地竜の動きが一気に鈍る。
それこそ普通の人が歩く程度にまで。
それでもなお止まらないのは流石だと思うが、こうなればスクナにとっては止まっているに等しいだろう。
「では、遠慮なく切らせてもらうとしよう」
「!?」
スクナが地竜に肉薄し、四本の腕を何度も振るう。
地竜の首が飛び、脚が飛び、甲殻が切り離され、胴と尾が引き裂かれ、地竜が己の身体をもう一度食らう暇もなくバラバラにされていく。
そしてバラバラにされた地竜の身体は『石化の邪眼・2』の伏呪の効果によって石化。
その動きを止めていく。
「なるほど、これが本体か」
そうして最後に残ったのは、胃袋のような部位だった。
胃袋のような部位は周囲の呪詛を取り込み、胃袋だけになってもなお周囲の呪詛を取り込んで、肉を増やそうとしている。
ある意味でそれは地竜がどのような存在であるかをよく表しているような光景だった。
「すぅ……九十九断ち」
「お見事」
胃だけでもまだ生きているのが地竜だった。
だが、その胃がスクナによって切り裂かれ、命が潰え、周囲の石化した部位も含めて風化して消滅していった。




