843:タルウィボンド・3-1
「これでよし」
素材として安定させた淀みの見た目は、黒を主体とした色合いの、手とも海藻とも炎とも取れるような形をしている。
手触りは柔らかめ、臭いはなく、外部に何かが漏れ出るような変化はとりあえずはなし。
と言う訳で、『竜活の呪い』の効果時間とその後のデメリットが終わった後、下処理として『淀縛の邪眼・2』を使って干渉力をマイナスに到達させ、手で粉砕していく。
ちなみにだが、『風化-排斥』はきっちり使っているというか、使わないと消滅してしまう状況である。
「色々取ってきたし、買ってきたでチュよ」
「ありがとうザリチュ」
「さて、どう作っていくでチュか?」
と、ここでザリチュ操る化身ゴーレムが帰ってくる。
その手に持っているのは私が回収を頼んだ『ダマーヴァンド』の各地に生えている各種の香草と、魅了の眼宮で売っていた品々である。
「まずは調合ね」
「でチュか」
では、作業を進めていこう。
まずは各種香草、淀み、喉枯れの縛蔓呪の棘、磔刑の樹呪の槍の穂先を削ったものと言った素材を正確に測り取り、処理し、混ぜ合わせていく。
こうして出来たスパイスに魅了の眼宮で売っていた普通の玉ねぎを合わせ、炒め、追加の香草も投入し、他にもまあ、色々な物品をタイミングを見計らって入れていく。
なお、その中には竜たちの脂身、削って粉にした竜の角や鱗も含まれている。
「待つでチュ、たるうぃ。なんでさも当然のように、武器の表皮と言う訳の分からない物を入れているんでチュか。竜たちの体や淀みよりも訳の分からない素材でチュよ」
「相性が良さそうだったから? 後、残しておいても使い道が思い浮かばない感じだったから」
「それでいいんでチュかぁ……」
「いいのよ。とりあえず香りはいい感じになってきたわね」
いい感じにドロドロとしてきたところに、私の血と『ダマーヴァンド』の毒液を投入して伸ばしていく。
なお、香りがとても良いのは言ったとおりだが、色は淀みのクソが足を引っ張っているのか、黒い。
それもイカ墨のように美味しいと思わせるような黒ではなく、ドブのような黒である。
滅びればい……いや、止めておこう。
淀みには構うだけ損だ。
アレはそういう物なのだから。
「じゃ、色々と投入っと」
なんにせよ、これで見た目は真っ黒だが、匂いはカレー以外の何物でもない液体が出来上がった。
と言う訳で、処理をした竜の肉、魅了の眼宮で買ってきた普通の野菜、『ダマーヴァンド』の飢渇芋、ハオマが作ったばかりの満腹の竜豆呪と言った具材を投入して、よく煮込んでいく。
「で、十分に煮込めたところで水に溶いた寄生毒の片栗粉も投入」
「一気に粘性が上がったでチュねぇ」
十分煮込んで火が通ったところで寄生毒の片栗粉を必要量投入。
これまで適度な粘性を有していたカレーは、一気に……主観だが二倍から三倍程度には粘っこくなっていく。
なお、匙から垂れるルーが、トラペゾヘドロンに似た形を取りながら垂れていくのはいつもの事なので気にしないことにする。
「では火を止めて少し待ちましょうか」
「直ぐには呪わないんでチュね」
「味を染み込ませるのも大事なことよ」
なお、この待ち時間中に、特別な処理を必要としない安全な素材だけを使って作ったカレーを、エヴィカや妓狼の竜呪、ザリアたちに振舞っておく。
カレーの匂いは魅惑的なものであるため、こうしておかないと余計な恨みを買う事になるからだ。
ちなみに妓狼の竜呪たちは、狼の奴は被り物に過ぎないためか、狼と名に付いてはいるが、玉ねぎやカカオを食べても大丈夫らしい。
「さて呪っていきましょうか」
「分かったでチュ」
では、十分に味が染み込んだところで、呪怨台に乗せよう。
「私は第三の位階、神偽る呪いの末端に触れる事が許される領域へと手を伸ばす事を求めている」
呪怨台に虹色に輝く呪詛の霧が集まっていき、呪怨台の上に乗る鍋の姿を隠していく。
その鍋に対して、『七つの大呪』をほぼ排した私の力で干渉していく。
「得るを望むは、幾度も何時でも阻み纏わりつく淀み。切れども切れども縋り付き、絡みつく愚者の糸。唾棄すべき、けれど切り離しきれぬ人の性。清算されるべき業」
呪詛の霧に黒が混ざっていき、蜘蛛の巣のような幾何学模様を形成していく。
私はそれに干渉し、呪詛の霧を虹色に染め直し、蜘蛛の巣に似た幾何学模様を鮮やかな姿に変えていく。
「私の淀みをもたらす黒の目よ。深智得るために正しく啓け」
蜘蛛の巣にかかった獲物のように、幾何学模様の上に虹色の球体が形成されていく。
その内には黒い結晶体が存在しているが、干からび、潰れ、やがては球体ごと消え去っていく。
「望む力を得るために私は淀みを己が身に取り込む。我が身を以って渾然一体に見えつつも、そうではなき淀みを知り、撃ち破り、己が力とする」
幾何学模様全体が丸まっていき、その中心にあるものを絞り上げるように縮めていく。
周囲に漂う香りが濃くなり、様々な気持ちを湧き立たせる。
では、仕上げといこうか。
「宣言しましょう。黒き淀みの星よ、蔓を伸ばし、縋り付き、囁き続け、混沌に形を与え続けろ。raelc『淀縛の邪眼・2』」
各種呪法と伏呪を乗せた『淀縛の邪眼・2』が発動し、虹色の球体を包み込むように……いや、織り込むように黒い蔓が伸び、新たな文様を形成していく。
そして限界まで収束した一瞬後、静かに割れて中から真っ黒なカレーが現れた。
では鑑定。
△△△△△
呪術『淀縛の邪眼・3』のカレー
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:140
浸食率:100/100
異形度:20
呪われた素材を精密に組み合わせ、加工し、出来上がったカレー。
覚悟が出来たならば、好きなものにかけた上で、よく味わって食べるといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、心して挑むがいい。
門は開かれているが、奴らの愚かさは我々の想像のはるか斜め下を行き、隙あらば良きものに食らいつき己がものにしようとする、真に唾棄するべきものなのだから。
さあ、貴様の力を以って完膚なきまでに降せ。
▽▽▽▽▽
「うわぁ……」
「『悪創の偽神呪』もやっぱり嫌いなんでチュねぇ……」
此処までやって、塗りつぶし切ったと思ってもなお、淀みの影響がもろに出てくるのか。
本当にろくでもない素材のようだ。
「とりあえず米にかけて食べましょうか」
「ちなみに魅了の眼宮で売っていた“にじひかり”と言う品種の米らしいでチュ」
「へー、そうなの」
とりあえず炊き立ての米にカレーをかけて、食べ始める。
うん、味は悪くないし、いい感じのとろみが付いていて、いい意味で後味も引いている。
これならば、竜の肉でカツでも作って、一緒に載せてもよかったかもしれない。
「さて、何が来るかしらね?」
「碌な相手とは思えないでチュねぇ」
そうして食べ終えたところで、私の前に枠が虹色の門が現れ、開かれる。
門の向こう側は真っ黒だが、いつもの闘技場に繋がっているのは感覚的に分かった。
なので私はザリチュをその場に置くと、動画の撮影を開始しつつ門の向こう側へと移動した。




