808:ハングパレス-2
「見事に砂漠ね」
「砂漠でチュねぇ」
「見渡す限りの砂漠ね」
「毛皮を捨てたくなるな……」
「……。剥ぐか? いや、冗談だ」
飢渇の眼宮に私たちは侵入した。
侵入時の伏呪付き『飢渇の邪眼・3』についてはシロホワの呪術によって防いだので問題なし。
そして、周囲の光景だが……まあ、基本的には虹色の砂で構成された砂漠が広がっており、時折だが虹色の光沢をもつ岩が立っている。
降り注ぐ日差しは真昼の砂漠であり、空気は非常に乾燥していると共に熱い。
私にとっては何の問題もない環境であるが、適性を有さないプレイヤーにとっては厳しい環境になるだろう。
「そう言えばクカタチは?」
「クカタチ他数名は、この環境がどう考えても合わないと判断して、別の眼宮に行ってます。例のトンネルの先を確認だけしてくると言ってました」
「タル様。生放送もしているみたいですので、URLを送っておきます」
「なるほど。それはありがたいわね。あ、コメントで問題がなさそうなら侵入してもいいと言っておきましょうか。行って帰ってくるだけなんて時間の無駄だし」
ちなみに私はこの時点で気づいたのだが、クカタチ含めて数名のプレイヤーは『恐怖の眼宮』に行っている。
うん、私に代わってあの先を確かめておいてもらえると助かる。
「お前ら、そろそろ来るぞ。例のミイラ壺だ」
「あ、最初にちょっと試したいことがあるから、一体目は鑑定以外はしないでおいて」
「分かったわ」
マントデアが言葉を発すると近くの地面から砂柱が立ち上る。
どうやらミイラ壺が出現したらしい。
「「「ディル……」」」
現れたミイラ壺の容姿は試練で戦った時とほぼ同じだが、一回りほど小さい。
そして霧骨巨人はまだ出現していないのだろう。
ミイラ壺はこちらに向かってゆっくりと転がってきている。
「鑑定成功! 名称は渇猿の竜呪、レベルは40だ! 弱点は氷結、浄化、水!」
「「「ディル!?」」」
検証班の眼鏡の男性が鑑定結果を告げる。
で、鑑定されたためだろう、ミイラ壺改め渇猿の竜呪は霧骨巨人を出現させたらしく、独特の軌道を描きつつ男性に襲い掛かり始める。
「おっと、させるかよ!」
「助かる!」
「捕縛だけはします!」
「攻撃はするなよ! タルの確かめたい事が優先だ!」
「「「ハンガァ!?」」」
とは言え、愚直な攻撃などこのメンバー相手に通じるはずもない。
すぐにマントデアが割り込んで攻撃を防ぎ、他のメンバーが回復をすることで傷を癒す。
そして、複数の拘束を目的とした呪術によって、渇猿の竜呪はガチガチに固められた。
「宣言する。渇猿の竜呪、貴方を一撃で深き深き闇へと飲み込みましょう。pmal『暗闇の邪眼・3』」
では、お膳立てもしっかりとしてもらったので、全力で……乗せられる呪法を全て乗せた『暗闇の邪眼・3』を撃ち込もう。
勿論、『呪法・逆残心』も乗せ、私は全ての目を閉じ、ミイラ壺に背を向け、片腕をまっすぐ上に伸ばす。
また、他のプレイヤーたちも流れを察して拘束を解除、敢えて渇猿の竜呪を自由にさせる。
「「「ディルァ!!」」」
「堕ちろ。黒の火の炉へ」
開眼。
『暗闇の邪眼・3』効果が発動。
私に飛び掛かろうとした渇猿の竜呪の全身が鉄紺色の蔓に覆われ……黒い炎に包まれて燃え上がった。
「「「ーーーーー!?」」」
「たまやー、いだぁ!?」
「はぁ、兄ぇ……」
「なんかいつものブラクロで安心するわね……」
「……」
「まあ、イベント中、五日目はずっと気味が悪いぐらいでしたからね」
「お前らひどくね!?」
黒い炎の柱の中で渇猿の竜呪は悶え苦しみ、やがて動かなくなった。
それと同時に炎も燃え尽きて、中から全身がふやけて、浜に打ち上げられた海月のようになった渇猿の竜呪が現れた。
うん、仕留める事に成功したようだ。
「ハイ回収」
「燃やしたのにふやけるとか奇妙でチュねぇ」
「それぐらいのおかしな事は今更だろう」
「タル様。一応ですが、説明をお願いします」
「分かってるわ」
では、仕留めた渇猿の竜呪の死体をドゴストに入れたところで、私が何をしたかったのかを説明しよう。
「簡単に言えば、今のは渇猿の竜呪討伐の別解ね」
「別解ですか」
「ええそうよ」
私には『飢渇の邪眼・3』習得の為の試練で渇猿の竜呪と戦った時から、少し気になる事があった。
それは乾燥を利用した攻撃手段を有さないプレイヤーが渇猿の竜呪と戦う場合にどうするのかという点だ。
何かしらのアイテムによって補えば問題ないとも思っていたが、乾燥を利用した攻撃手段は決してメジャーなものとは言い難いものである。
なので、何かしらの別の討伐手段があるのではないかと思っていたのだが、私の考えは正しかったらしい。
「渇猿の竜呪の壺部分は攻撃を受ける度に体内でダメージを水に変換し、その水によって巨人部分が生成される。このプロセスによって渇猿の竜呪は実質的にダメージを無効化している」
「そうみたいね」
「だから試練の時は乾燥を伴う攻撃によって壺と巨人を切り離すことで、壺へダメージを通せるようしたの」
「ふむふむ」
「で、ここで一つ疑問。ダメージ変換に上限や所要時間の類はあるのだろうか?」
「なるほど。限界以上のダメージ……即死するような攻撃を与えれば、ダメージ変換を許さずに倒せると言うことか」
と言うわけで渇猿の竜呪の別解は、超強力な攻撃によって一撃死させることではないかと思い、私は今それを試して、正しかったと実証したのだった。
「でもタル様。こうなると逆パターンも気になりますね」
「まあそうよね……」
「逆パターン?」
そして、この別解が正しかったからこそ、もう一つ浮かび上がってくる別解がある。
「壺にひたすら少量のダメージを与えて、巨人の方に大量の水を供給したらどうなるのか、と言うことね」
「ええそう言う事よ。ザリア」
巨人に水をあげ続ける事で何かしらの変化が生じて、討伐できるようになるというパターンだ。
これが本当に存在しているかを確かめるのは、色々な面から重要だろう。
「「「ディルアァ!」」」
「さて、おあつらえ向きに二体目が寄ってきたようだし、試してみましょうか」
「そうね。試してみましょうか」
では、渇猿の竜呪、二戦目である。
今度は全員で仕留めてしまわない程度に仕掛けるとしよう。




