65:1stナイトメアヒート-5
本日二話目です
「ふわっ……」
『チュウ……』
はい、予選開始から4時間経過、4度目の縮小が起きました。
で、予選マップは最初の状態から16%縮小、呪詛濃度は7になりましたとさ。
陽はだいぶ傾いていて、この分だとあと2時間もすれば陽が沈むかもしれないが……『CNP』の夜は月の影響もあって結構明るいので、たぶん大丈夫だろう。
ちなみに残り人数は100人少々で、だいぶ減っている。
「暇ねぇ……」
私は欠伸を噛み締めるように呟く。
呪詛濃度の高まりによる視界の悪化もあって、私が居る鉄塔の上にやってくるプレイヤーは居ない。
そもそも此処に私が居ると気が付いているプレイヤーも殆ど居ないだろうし、鉄塔の下のエリアが清流と岩場が入り組んでいて人気が無いためか、誰も近づいてこない。
ぶっちゃけ暇なレベルである。
とりあえず次回以降のイベントで同じようなバトルロイヤルをするなら、この辺は改善点でなかろうか。
後で公式サイトのご意見・ご要望で私の意見を送っておこう。
「んー?」
うん、本当に暇である。
暇であるが、予選の最中であるので、最低限の警戒は保っているし、いざという時の為に周囲の地形の把握を疎かにする事もない。
そして、私の場所から二つほど離れたエリア、湿地帯を挟んで平原のようになっている場所に、そのさらに奥にある森林のようなエリアから飛び込んでくる複数の影があった。
「あら大きい」
『チュー』
まず私の目を惹いたのは、影の一つが異様に大きい事。
私の目が間違っていないのであれば、10メートル近い身長をその影は持っていた。
基本的なシルエットは人間のそれだが、右腕が二本あるように見えるし、背中では雷のような発光現象が時折起きている。
ほぼ間違いなく高異形度プレイヤーだろう。
「へぇ……」
そして、大きな影の周囲には小さな影が複数。
こちらは普通のサイズのプレイヤーたちだろう。
「一体の巨大な相手を倒すために即興のパーティを組んだ、と言うところかしらね」
どうやら普通サイズのプレイヤーたちは巨大なプレイヤーを倒すべく、10人以上で徒党を組んでいるらしく、攻撃は巨大プレイヤーにだけ飛んでいる。
まあ、別に卑怯な事ではないだろう。
あの巨大プレイヤーは、その巨躯に見合うだけのHPを持っているようで、攻撃を重ねられてもさほど痛そうにはしていない。
攻撃力も見た目相応で、腕が振られる度に普通サイズのプレイヤーがまとめて吹き飛ばされてダメージを負っている。
おまけに見た目に反して巨大プレイヤーは中々に機敏で、集団相手にかなりうまく立ち回っており、プレイヤースキルの高さが窺える。
アレを一対一で制せと言われても、大抵のプレイヤーは一蹴されるだけだろう。
だから重ねて言うが、別に即興のパーティを組んでも卑怯ではないのだ。
「んー……」
『たるうぃ?』
そもそも今はルール無用のバトルロイヤル中。
何かを言う権利があるとすれば、それは運営と勝者のみである。
「いえ、どちらに加勢する方が面白いかと思ってね」
『チュア!?』
裏を返せば、私が今ここから何をしようとも咎められる謂われはないと言う事だ。
「じゃあ始めましょうか。『毒の邪眼・1』」
私の『毒の邪眼・1』が飛んでいく。
巨大プレイヤーに挑んでいた普通サイズのプレイヤーの一人に。
「アハッ」
そして直ぐにその場に倒れた。
当然だ。
私が今与えた毒は、理論値で言えば104、重症化ラインである100は超えている。
もしかしたらHPや耐性の有無、運次第では重症化しない可能性もあるが、いずれにしても致死レベルの一撃に変わりはない。
「さあ、HPが自然回復する範囲で、ゆっくりと、場を混沌とさせるように浸食していきましょうか。『毒の邪眼・1』」
『チュ、チュウウゥゥ……』
私の毒が戦況を動かしていく。
普通サイズのプレイヤーたちは巨大プレイヤーが何かをやったと思ったのか、先程よりも攻撃が激しくなっている。
倒れた仲間を救う動きは流石に無い。
巨大プレイヤーは私の存在に勘付いているのか、先程よりも多少首振りが激しくなりつつも、普通サイズのプレイヤーを無視することなくしっかりと対処し続けている。
「ああっ、楽しい。これ、すごく楽しいわ……」
普通サイズのプレイヤーにとっては今までの巨大プレイヤーでも難敵に違いなかっただろう。
それが突然致死レベルの毒を使い始めた。
普通サイズのプレイヤーはこう思ったはずだ。
今何としてでもこの場で倒さなければ、自分たちが予選を勝ち上がれる目は絶対にない、と。
「如何なる手を尽くしてでも生き残り勝ち残る事を目指す普通の人々の強さも、圧倒的な個の力によって群衆を薙ぎ払い勝利を収めようとする英雄の強さも見れる。惜しむらくは望遠鏡の類が無い事かしら。流石に500メートルも離れていると、詳細に姿を見る事が出来ない。イベントが終わったらどうにかして手に入れておきたいところね……『毒の邪眼・1』」
巨大プレイヤーにとっても今の状況は理解しがたい物だろう。
自分の敵が姿も見えなければ、どうやって仕掛けて来ているかも分からない毒によって次々に倒れていくのだから。
巨大プレイヤーはきっとこう思っているに違いない。
助かりはするが、その力が何時自分に向けられるかと思ったら、恐怖でしかない、と。
「ああ素晴らしい。英雄同士の戦いを安全圏から観賞し、干渉し、感傷していられるなんて。そんな機会、未知、滅多に味わえるものではないわぁ……」
当然戦いは激化する。
数が減った普通サイズのプレイヤーたちの被弾は大きく、多くなり、倒れていく。
巨大プレイヤーも安全圏に逃げたいと思って行動が荒くなる分だけ、ダメージは受けやすくなる。
「ああ、森の方に逃げるとか許す気は無いわよ。『毒の邪眼・1』」
私の『毒の邪眼・1』が巨大プレイヤーに突き刺さり、一瞬動きが止まる。
さて、これで普通サイズのプレイヤーも気づいただろう。
毒は巨大プレイヤーが使っている物ではない、第三者が何処からか撃ち込んでいる物である、と。
しかし、身体のサイズが大きいためなのか、やはり斉射一回で重症化とはいかないようだ。
「んー、ちょっと急ぎましょうか。『毒の邪眼・1』」
此処が死地であると悟ったためか、巨大プレイヤーも普通サイズのプレイヤーの生き残り三人ほども平原から逃げ出し始める。
全員を仕留める事は流石に難しいだろう。
コストであるHPの消費も馬鹿にならない。
ただまあ……
「うん、ちゃんと倒れたわね」
この距離と私の邪眼術では巨大プレイヤーはどうしようもない。
きっちり斉射二回で逃げる暇も隠れる暇もなく仕留めさせてもらった。
『チュ、チュア……』
「いやだって、アレと真正面からやり合ったら勝てないし、仕留められるときに仕留めておくのはバトルロイヤルの定石よ」
ただまあ、あの巨大プレイヤーの腕が届く範囲で私が戦ったら……たぶん負ける。
私のプレイヤースキルはそれほど高いわけではないし。
≪タルのレベルが10に上がった≫
「あ、レベル上がった」
『チュ』
と、ここでレベルアップの通知が入った。
どうやらイベント中であっても、レベルアップはしっかりするらしい。
まあ、イベントに参加せず、稼ぎ専用のマップで稼いでいるプレイヤーも居るらしいし、そちらとの差を少なくあるいは無くすためには当然の仕様か。
「これは美味しいわね。一気に体が軽くなった」
『それは良かったでチュ』
「あ、ザリチュの言っている事が分かるようになってる」
『チュア!?』
だが、この場で何より大きいのは、私の装備しているアイテムの推奨レベルを満たしたことでペナルティが解除された事。
おかげで体は軽くなっているし、ザリチュの言っている事も分かるようになっている。
これはこの先のバトルロイヤルを生き残るにあたって、大きな助けになる事だろう。
「一応鑑定っと」
私は一応自分のステータスを鑑定しておく。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル10
HP:652/1,090
満腹度:72/100
干渉力:109
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・1』
所持アイテム:
毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』
▽▽▽▽▽
「ふむ、ザリチュ。私は暫く寝ているわ。何かあったら起こして」
『本気でチュ?』
「本気よ。たぶんだけど……」
私は満腹度を回復させるために垂れ肉華シダの葉団子を一つ食べておく。
そしてギリースーツも兼ねた毛皮にくるまると、全ての目を閉じる。
「ここで仮眠を取っておかないと死ぬわ」
『チュア!?』
で、驚くザリチュは放っておいて眠り始めた。
04/08誤字訂正




