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 教会はリタリストの野望を筆頭に、今までの悪事が白日のもとに晒された。

 ニッポリアの指示で縮小され、治癒者も教会に拘束されていた者は解放された。

 教会の運営のために働いていたのは信者ではなく強制された人間が多かったので、ほとんどの治癒者がいなくなった教会は、ほぼ機能停止らしい。

 本当に名もなき神を崇めている者だけが残っているそうだ。

治癒者は希望があれば騎士団に就職も推薦してもらえるそうで、希望者は結構いたらしい。

 おかげで団員が怪我を負っても、治してもらえるからとても喜んでいると聞いた。

教会の幹部はほとんど財産没収や投獄された。

 ベロニカもそのなかに入っているし、トゥーイの母親もだ。

 トゥーイのことが少し心配だったけれど、いつもの澄ました顔をしていたので、その心情はわからなかった。

壊されてしまったニーナも無事に元通りになった。

蝶々の依り代とトゥーイの魔力があれば、すぐに復活できるのだと聞いて安堵した。

そして留衣は以前のようにトゥーイの屋敷に住み、時々ニッポリアのお茶の相手をしている。

 長かった髪は、肩口で切り揃えられていた。


「ルイが残ってくれたのは本当に嬉しいよ」


 ティーカップを口元に運んでニッポリアは笑った。


「トゥーイにもやっと大切なものが出来た」


 なんと返していいやらで、留衣は困ったように笑って持っていたティーカップをテーブルに戻した。


「ニッポリア殿下も、トゥーイさんは大切だと思いますよ」

「そうかな」


 きょとりと小首を傾げるニッポリアに、ふふっと留衣は笑った。


「だって殿下のお茶の相手をしてほしい、なんてわざわざ自分から言うと思います?」

「君の気分転換につきあってほしいと私は言われたぞ」


 驚いたようにあんぐりと口を開けたあと、ニッポリアはがしがしと髪に指を入れてかきまわした。


「素直じゃないですね」

「まったくだ」


 二人して顔を見合わせたところで、ノックの音が響いた。

 入れとニッポリアが入室を許可すると、トゥーイが入ってくる。

 そして悪戯気に笑う二人に眉をひそめた。


「何です、二人して」

「何でもないさ、なあ?」

「はい、何でもないですよね」


 笑い合う二人にトゥーイがますます眉間に皺を寄せる。


「そろそろ帰りますよ」


 うながされて留衣は、はあいと立ち上がった。


「それじゃあな、二人とも」

「はい、また」

「失礼します」


 ひらひらと手を振るニッポリアに二人は頭をぺこりと下げて、退室した。

 廊下を歩きながら、隣をちらりと留衣が見やる。


「今日は何の話をしていたんです?」


 前を向いたまま問いかけるトゥーイに、くすりと笑みを浮かべて。


「トゥーイさんは優しいって話」


 留衣の言葉にトゥーイはぱちりとひとつ瞬きをして、立ち止まった。

 同じように立ち止まった留衣の顔を、身を屈めて覗き込む。

 サラリと蜂蜜色が音をたてた。


「私を優しいなんて言うのは、あなたくらいですよ」

「私には優しいもん」

「あなただけです」


 トゥーイの言葉が嬉しくて、くすぐったそうに留衣は満面の笑みを浮かべた。


「ね、手を繋いでいい?」


 留衣が手を差し出すと。


「少しなら」


 トゥーイが手袋をした手で留衣の華奢な手を握ってくれる。

 スキンシップなんて滅多にしないけれど、それでも留衣が望めば叶えてくれる。

 いまだにトゥーイから触れてくることはほとんどないけれど、留衣はそれで満足だった。

 ほんの少しの時間、手を繋いで二人は帰路についたのだった。


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