24(※トゥーイ視点)
王城から数分で駆けつけた教会の入口に来ると、トゥーイは扉の番をしていた男二人に令状を突きつけると、動揺しているあいだに中へと推し入った。
どうせすぐに騎士団の部下が来るので、ニッポリアが責任を持つと言った言葉に甘えて、さっさと廊下を走る。
留衣がどこにいるかわからないので、上層部の人間を捕まえて聞き出そうととにかく上階へと昇って行った。
帯剣はしているけれど、さすがに血を流すわけにはいかないので騒ぎそうな人間は手刀で気絶させてしまう。
最上階だろう近くまでくると、廊下の先に人影が見えた。
「トゥーイ様……」
固まって立ち尽くしていたのはベロニカだった。
「ちょうどいい、彼女はどこです」
「どうしてここに」
「質問しているのは私ですよ」
「あの子を助けに来たの?」
ありえないと書いてある顔で、呆然と問いかけてくるベロニカにトゥーイはあからさまに眉をひそめた。
その顔色は化粧をしていても悪いとわかる。
「なんで、どうして、あの老婆といいあの女といい、私達が呼び出したのに邪魔ばかりする!」
「呼び出した?なるほど、あなたが元凶ですか」
トゥーイが目を細めて冷たい眼差しを向ける。
ゆっくりとベロニカに近づいても、ベロニカは髪を振り乱して声を荒げるばかりだ。
「あなたにはあたくしがいるのに!あたくしだけが理解できるのに」
「勝手に決めつけないでいただけますか、反吐が出ます。彼女を使って何をするつもりです。答えなさい」
刃物のような鋭利な声に、ベロニカは唇を噛みしめた。
まるで絶対に喋らないと言うように。
けれどそんなベロニカに付き合う義理はなく、トゥーイはおもむろにベロニカの細首を右手で掴んだ。
「あ、う」
呻くベロニカに触れたところから、手袋越しに魔力がトゥーイへと流れていく。
自分の魔力が奪われていることにベロニカは、真っ青になった。
胸で揺れている赤い石をぎゅっと左手で握りしめる。
「何で、魔力を奪えないはずじゃ」
「残念ですね、無意識に奪うことは出来なくなりますが、やろうと思えばいくらでも奪えますよ」
ごくりとベロニカの喉が動く。
どんどん力を吸われる感覚に、ベロニカははくはくと喘いだ。
その様子を見て、トゥーイが彼女の目を覗き込む。
「死にたくはないでしょう?」
鳶色の瞳には躊躇はなかった。
観念したようにこくこくとベロニカは頷くと。
「大魔法を使える魔道具が発見されたのを、お母さまが十年かけて魔力を注いだもので、一人目を呼び出したわ。お母さまはそれで力尽きて亡くなった。次はあたくしが十年かけて魔力を注いだ。それを使ってあの子を呼び出したわ」
「なるほど、確かにフミと彼女のあいだの期間は十年以上空いていますね。それで?何が目的です」
「その魔動具に大量の魔力を注いで騎士団を一掃するためよ」
ベロニカが話すあいだも魔力は奪われ続けている。
どんどん顔色が悪くなっていくベロニカは、かなりの量の魔力を奪われたことで最後の方は悲鳴じみていた。
「それを効率よく行うために魔道具に魔力を簡単に注げる人間を呼び出したと。くだらない」
ベロニカの首を掴んでいたトゥーイが手を離すと、その場に彼女はくず折れた。
自分の首を押さえて、真っ青な顔で震えている。
「フミは魔力なんてほとんどなかったのに、そんなことのために」
奥歯をギリと噛みしめるトゥーイに、ベロニカは何も言わずに俯いた。
「最後の質問です。彼女はどこに?」
「……最上階の部屋よ。魔道具に魔力を注がせるとお父様が」
それだけ聞くと、トゥーイはベロニカに興味を失ってその場を後にしようとした。
「あたくしだけが……あなたを怖がらずに理解できる、特別な人間なのよ……」
ポツリとベロニカの言葉がその場に零れた。
「そんなもの求めていません……それに、そんなことをあなたよりも簡単にしてしまう人間だっていますからね」
そのままトゥーイは走り出す。
彼女だけが、その場に残され見えなくなるまでトゥーイの姿を見ていた。




