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 その日以来、また以前のようにトゥーイは朝食を食べるし夕方には帰るようになって、留衣を避けることはなくなった。

 そんなある日、夕食後に二人は思い思いに過ごしていた。

 留衣は応接間でトゥーイが貸してくれた初歩の魔法教本を読みながら、ちらりと向かいの長椅子に座って魔道具らしい何かの塊をいじっている男を盗み見る。

 ルービックキューブのような箱をさっきからしきりに弄りたおしている。

 魔道具をいじるトゥーイは、目をキラキラさせていて見た事のない顔だ。

(なんか子供みたい)

 鳶色の目がわくわくとした色をたたえていて、普段の差になんだかドキリとしてしまう。

 それを不思議に思い、そんな考えを振り払うように首を一度振ったときだ。


「うっ!」


 ばしゃんと音がして顔を上げると、何か魔法を使って失敗したのかトゥーイの上半身がぐっしょり濡れていた。


「わあ!大丈夫?」


慌てて腰を浮かしかけると、トゥーイが立ち上がった。

髪も着ていた黒いシャツも水浸しだ。

幸いなのは下半身は無事なので、長椅子が濡れなかったことだろうか。

 はあ、と溜息を吐いてトゥーイは前髪をかき上げた。


「もうそのままお風呂入っちゃったら」


 魔法で乾かしてもいいけれど、もういい時間だしとそう提案したら。


「そうですね、そうします」


 うっとおしそうに張り付いたシャツのボタンを開いた。

 顔に似合わずほどよく筋肉のついた均整の取れた体が晒される。

 その体には縫い傷や火傷のあと、切り傷などが所狭しとありとても痛々しかった。

 どれも古そうな傷跡だ。


「わあ!」


 思わず目を逸らして留衣はあわあわと口を開いた。

 持っていた本がバサリと床に落ちてしまう。


「ま、前止めて」

「濡れて気持ち悪いんですよ」

「じゃ、じゃあお風呂準備してくる」


 ちら、とトゥーイを見やるとシャツをすべて脱いでいた。

 背中には大量の裂傷の跡があり、トゥーイの体は肌が白いので大量の傷跡はひどいくらいに目立った。

慌てて立ち上がると目が合い、留衣はびくりと肩を震わせた。


「……気になりますか?」

「当たり前でしょ」


 問われて即答したら、何故かトゥーイの眼差しが一瞬苦みのようなものを見せてから何の感情も浮かべていない冷めたものになった。

 けれど。


「男の人の裸なんて近くで見るの初めてなんだから!」

「は?」


 力いっぱい言い切った留衣の言い分に、トゥーイが僅かに首を傾けた。

 濡れた長い髪が張り付いて、なんだか色っぽい。

 とてもいけないものを見ている気持ちにさせられる。


「いや、裸恥ずかしいからシャツ着てよ」

「そっちですか?普通は傷跡を気にされるんですけどね」


 言ったトゥーイにチラリと目線を向けると、確かに体の見える範囲は傷だらけでものによっては肉が盛り上がっていたり、色が変わっていたりグロテスクだ。

けれど留衣はぽり、と指先で頬をかきながら。


「……痛そうにしてないから、気にしてなかった」


 塞がっているのならば、騒ぐ必要はない気がする。

 おずおずそう言えば、トゥーイが喉でくっと笑った。

 何の笑いだと思えば。


「大雑把ですね」


 どこか楽しそうに言うと、風呂に入ってきますとトゥーイは応接間を後にしたのだった。


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