第92話『鶯谷トンネルの霊界門』
岐阜県の山あいにひっそりと佇む、鶯谷トンネル。
昼間はただの古ぼけたトンネルだが、夜になると誰も通らなくなる。
「なんで夜は誰も通らないんだろうな……」
修がトンネル入り口の古びた黄色い街灯を見上げながら言う。
白い灯がぽつぽつ並び、赤い消火栓の赤色灯も鈍く光っている。
「もの好き以外はね」
愛菜が肩をすくめて笑った。
「好奇心で来たボク達は、まあ“もの好き”に分類されるよね?」
結が手すりを撫でながら言う。
「でも、昔からここで変な事があったらしいわ。人が突然消えたり、夜になるとどこか違う世界に繋がるって……」
浜野先生は懐中電灯を片手に真剣な顔をしていた。
「さあ、肝心の現場だ。お前ら、気を引き締めろよ」
四人はトンネルの入口をくぐった。
ひんやりとした空気に包まれ、黄色灯の薄暗い明かり が壁に影を落とす。
歩を進めると、壁の落書きが目についた。
「またこういうイタズラか……」
修が指差したのは、「○○参上!!」と、どこかコミカルな文字。
愛菜が笑いながら言う。
「こういうの、幽霊の仕業だったりして」
トンネルの中ほどで、四人は足を止めた。
外の街灯の明かりが、トンネルの出口の先に小さく見える。
結が言った。
「見て、外の世界はあんなに明るいのに……トンネルの中はまるで別の空間みたい」
修が頷く。
「実は、このトンネルは霊界への入り口なんだ」
「はあ?」
愛菜が目を丸くした。
修は説明する。
「ここを通る者は、現世と霊界の狭間に迷い込む。帰れなくなる人も多い。だから、誰も夜は通らないんだ」
浜野先生が懐中電灯をトンネルの壁にかざしながら言った。
「光が揺れてる……あれ、壁に何か映ってるぞ」
壁に薄く浮かぶ霧のような人影。
ゆらゆらと動くそれは、誰かがトンネルの向こうからこちらを見ているように見えた。
「幽霊……!?」
結が震える声で言った。
ノクスが「にゃあ……(気をつけろ)」と愛菜だけに囁く。
突然、トンネルの出口の明かりが一瞬消え、辺りは闇に包まれた。
パニックになる皆を、修が落ち着かせる。
「大丈夫、俺達は一緒だ。焦るな」
暗闇の中で、かすかな囁き声が聞こえ始める。
「こっちにおいで……」
結が耳を塞ぐ。
「やめて……そんな声、聞きたくない」
愛菜がノクスの声を聞き取りながら言う。
「にゃあ……(出口は罠だ。帰るなと叫んでるにゃ)」
修は懐中電灯を必死に振り回しながら進む。
「霊界の門は、このトンネルのどこかにある。俺達で見つけて、閉じなきゃ」
激しい足音が後ろから迫る。
皆振り返ると、無数の影が彼らを囲んでいた。
「助けて……」
声は次第に大きくなり、絶叫に変わる。
絶望的な状況の中、愛菜がノクスの声を頼りに出口を目指し叫ぶ。
「みんな、走れ! にゃあ……(出口は右だ! こっちに来い!)」
必死に走った先で、光が戻りトンネルの出口が見えた。
四人は息を切らしながら外に飛び出す。
外の街灯の明かりが、現実の世界へ彼らを引き戻した。
「ふう、やっと戻れた……」
修が深く息をつく。
結は震えた声で言った。
「鶯谷トンネル……霊界の入り口だったんだ」
愛菜がノクスを抱きしめながら仰天。
「怖すぎだよここ!!」
次回予告
第93話『三雲トンネルの封印』
除霊されたはずの三雲トンネル。
何も起きないその静けさが、逆に怪異の“気配”を濃くしていく。
修達が辿り着いたのは、封印されたまま眠る“何か”だった。
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