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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第65話『無念の群像、語られざる叫び』

 夜の延命寺。


 街の灯りすら届かない場所で、蝉の声も止み、ただ風の音だけが低く唸っていた。


 懐中電灯の光が揺れる。

 小塚原刑場跡の土の上、まるで“何か”を起こさぬように慎重に。


「さっきの……一体だけじゃなかった」


 修が足を止めて言った。


「……うん。霊感無い私にも、何人も見えてる」


 結が絞り出すように応じた。


「ニャウゥ……(この土の下には、無念が埋まっている。たくさん。名前もない者達の……)」


「ノクスが言ってる。ここ、ヤバい。深く掘っちゃダメなとこ」


 愛菜が抱えるノクスの体が小刻みに震えていた。

 いつもは不敵な真祖な猫の彼が、明らかに怯えている。


「あれ?浜野先生はどこ行ったの?」

「売店。UFOグッズの。千住限定らしいよ」

「うわマジか。あの人、空気読まなさすぎる」


 と、突如――


 耳鳴り。鼓膜を揺らす低い“呻き”のような音。


 そして、地面が……揺れた。


 いや、違う。


 地面の“下”から、何かがこちらを見上げている。


「出るぞ……!」


 修が叫ぶと同時に、地面のあちこちから黒い“気”が漏れ出す。

 霧のように足元を這い、空気が圧迫されていく。


 ――現れたのは、首のない影達。

 四、五体ではない。数十体。それ以上。


「皆、無念だったんだ」


 結の声が震える。


「……でも、訴える言葉を持たない。だから、怒りだけが残ってる」


「うわ、これ……やばいやつじゃん」


 愛菜が後退る。


「いや、違う。あいつら、怒ってるんじゃない。“叫べなかった事”が積もって、形になっただけだ」


 修の目が静かに光る。


 視える。黒く滲んだ“魂の言葉”達が、渦のように絡まり合っている。


「“助けて”も、“ごめんなさい”も、“やめてくれ”も、全部言えずに終わった声だ」


 彼らが必要としているのは、断罪でも解放でもない。


 ただ――


 理解者。


「なら、俺がやる事は一つだな」


 修はゆっくり手を上げる。


「――《真語断ち》、集団モード」


 視線が重なり合った瞬間。


 修が叫んだ。


「お前らは、誰に殺された?」


 沈黙が、破れる。


  影の一つが、うっすらと輪郭を持ち始めた。歳も、性別もばらばら。

 だがその顔は、皆――


 泣いていた。


「……そっか。理不尽だったんだな」


 修の声が静かに響く。


「だったら、俺が代わりに言ってやるよ」


 言葉が空気を裂く。




「お前らは――悪くねぇ」




 その瞬間、霧のような影達は、風に乗って天へと昇っていった。


 泣き声のような、ありがとうのような、混じり合った“声”を残して。


 ――静寂。


 何事もなかったかのように、境内は再び夜の闇に包まれた。


「雨城君……」


 結が小さく言った。


「うん?」


「……すごく、優しいね」


「は?やめろ照れるだろ」


「ニャウ……(今夜だけは、褒めてやってもいい)」


「ノクスが、しゅーくん褒めてやってもいいよって、今夜だけ」


「今夜だけかよ!」


 ふと、空を見上げた修が、小さくつぶやいた。


「ここに、言葉を残しておくべきだな」


 そう言って彼は、首切地蔵の前にしゃがみ込むと、取り出した紙にこう記した。


「声なき者にも、名前を」


 それは、この夜だけに存在した、誰にも知られぬ供養のか達だった。


 次回予告


 第66話『“彼女”が見つけたのは、封じられた手紙』


 境内の裏手に埋もれていた、一枚の封書。  そこには、幽霊が“残したがっていた言葉”が……?


 次回、真実が小さく、静かに灯る。


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