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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第62話『旧吹山トンネル』

 夕暮れ時の旧吹山トンネルは、まるでこの世の名残を惜しむような静けさに包まれていた。


 街灯のない山道を抜け、ぽっかりと開いた黒い口――それがトンネルの入り口だ。

 コンクリートの壁面は長年の風雨にさらされ、苔とひび割れが重なり合っている。

 誰もいないはずの山中なのに、木々がざわめく音だけが耳にまとわりついてくる。


「にゃう……(東京最恐のトンネルだ)」


 ノクスがぽつりとつぶやき、尻尾をゆらりと揺らす。


「ノクス、また何か感じてる?」


 愛菜が不安げにノクスを見つめる。

 その横で、修はスマホの懐中電灯をかざしながら、眉をひそめた。


「ここって、曰く付きなんだろ?肝試しスポットっていうか」


「そもそも肝試しにしてはガチすぎるって言われてる場所だけどね。廃トンネルの先に行った人が、帰ってきてから熱出して寝込んだとか、鏡に何か映ったとか……」


 ひよりが持っていた資料を広げる。

 相変わらず、ネットの深部まで潜って調べてきたようだ。


「けど、実害があるって訳じゃないんだろ?」


 修の言葉に、ノクスが小さくくしゃみをする。


「にゃっふ……(実害は……今のとこ未遂)」


「ノクスがそんな事言うと、逆に不安になるんだけど……」


 愛菜は苦笑しながらも、懐中電灯を握る手にぎゅっと力を込めた。


 4人と1匹は、トンネルの前で立ち止まったままだ。  

 空気がひんやりとしていて、息を吸い込むだけで肺の奥が冷たくなる。

 にもかかわらず、額にはじっとりと汗がにじんでいた。


「ねえ、トンネルの奥って……照明ないよね?」


「当然」


「帰ろっか」


「待て」


 修が愛菜の肩をつかんで、逃げようとするのを引き留めた。


「俺達、これまでいくつも変な場所行ってきたじゃん。なんなら、浮遊霊のパレードと一緒に駅のホーム歩いた事もあったし」


「それとこれとは話が別だってば!あれはまだ、昼間だったじゃん!」


「いや、アレもだいぶおかしかったけどな……」


 ぼやきながらも、修は一歩トンネルの中へと足を踏み入れる。

 コツンと靴の音が、やけに大きく響いた。


 その音がきっかけになったように、愛菜とひよりもついていく。

 最後にノクスがひらりと飛び乗り、愛菜の肩の上に陣取った。


「にゃう……(気配、濃い。見えてないだけで、いる)」


「……やっぱりいるんだ」


「え、えっ何?ノクスなんて言ってるの?」


 結が顔をこわばらせながら尋ねると、愛菜がため息交じりに答える。


「“見えてないだけで、いる”だって」


「うわあああああああ!!」


「ちょっ……!結先輩!走ったらケガしますよ!」


 突然全力疾走しだす結を慌てて追いかけ、愛菜達も駆け出す。

 だが、十メートルも走らないうちに、トンネルの奥から何かが“すすす……”と這い出してくるのが見えた。


「おいおいおい、冗談だろ……!」


 修が急ブレーキをかけて立ち止まる。


 照らされた光の中に、ぼんやりと浮かぶ人影。

 ボロボロの学生服を着た男の子のような姿だが、首の角度がどう見てもおかしい。


 それはゆっくり、まるで氷を割るような音を立てながら、こちらへ向かってきていた。


「ノクス、見えてる?」


「にゃう……(見えてる。というか、睨まれてる)」


「睨まれてるんかい!」


 愛菜が反射的にツッコんだ瞬間、幽霊がぐんっと距離を詰めてきた。

 修の懐中電灯が明滅しはじめ、結は再び悲鳴をあげる。


 が、次の瞬間――


「にゃあああっ!!!(なめんな霊体!!)」


 ノクスが愛菜の肩から飛び上がり、幽霊の顔面に向かって豪快な猫パンチをかました。


 その瞬間、空気が震え、幽霊は光の粒となって霧散する。


 静けさが戻った。


「……えっ、ノクスって、物理でいけるの?」


「にゃー(限界芸)」


 ぐったりとした、愛菜の腕に戻ってきたノクスが、答える。


「すごい……いや、すごすぎるよ。何あれ……伝説の猫?」


 ひよりは初めてだったらしい、ノクスの勇姿は。


「いや、普通の猫だよ……多分」


 修がそうつぶやいた頃には、結は完全に地面にへたり込んでいた。


 結局、幽霊は一体のみで、トンネルの奥に他の霊体はいなかった。

 ノクスの渾身の一撃で浄化されたようだ。


 帰り道、結はずっとぶつぶつと「もう二度と来ない」とつぶやいていたが、修はすでに次の心霊スポット候補をスマホで探していた。


「……しゅーくん、次は“明るい”場所にしよう。せめて街灯のあるとこ」


「その願いは、ちょっとだけ叶えてやるよ」


「ちょっとだけ……って何それ!」

 次回予告


 第63話『東京塔の女』


  観光名所・東京タワーに囁かれる、非常階段の霊。

写り込む影と、聞こえる足音――。

その塔は、過去を“記憶”している。


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