第58話『約束の夜、揺らぐ記憶』
夜の旧校舎。
どこか時の流れから取り残されたような建物の廊下に、柔らかな月光が差し込んでいる。
月明かりは窓を通して長い影を落とし、静寂をより濃くしていた。
その静けさを破るように、浜野京介たちは足を止めた。
彼らの前にあるのは、203号室──浜野の“記憶”とリーヴァとの繋がりの部屋。
「……着いたな」
浜野は小さく呟く。
目の奥に、決意の光と微かな迷いが揺れていた。
「ドキドキしますね」
隣に立つ結が言う。
声は小さいが、確かな緊張がにじんでいた。
「にゃう……(なんか、落ち着かねぇな)」
ノクスが耳をぴくりと動かしながらぼやいた。
「行こう」
浜野は一歩を踏み出す。
その瞬間、部屋の奥──古びた木製の机の上に置かれたノートが淡く発光した。
「これは……?」
彼がそっと手を伸ばすと、ノートが微かに震え、次の瞬間──空間が揺れた。
光の粒が宙に舞い、部屋中に幻想のような映像が広がっていく。
そこに映し出されたのは、幼い頃の浜野、そして──銀髪に紫の瞳を持つ少女、リーヴァの姿だった。
『観測記録。対象:浜野京介。記憶断片、統合準備中──』
「……今の、声……!」
愛菜が思わず声を上げた。
映像のリーヴァが、優しく幼い浜野の頭を撫でる。
その手つきは、母のようであり、親友のようでもあった。
『あなたはいつか忘れる。でも、私はここに残る。君が自分を失わないように──』
「にゃう……?(なんだ……?)」
ノクスが小さく言葉をこぼす。
その表情は、普段の軽口をすっかり引っ込めた、真剣なものだった。
浜野の目が揺れる。
彼の中で眠っていた記憶が、少しずつ呼び覚まされていく感覚。
「……俺は、彼女と……リーヴァと、約束を交わしたんだ」
声は震えていたが、はっきりとしたものだった。
結がそっと隣に立つ。
「なら、その記憶を……取り戻しましょう」
浜野は深く頷く。
記録の扉は、確かに開かれた。
ノクスが最後に、小さな声でぽつりとつぶやいた。
「にゃう……(妙だ……)」
その瞬間、再びノートが脈打つように光った──
次回予告
第59話『銀髪の少女は夢に笑う』
記録の映像はなおも流れ続ける。
リーヴァの微笑みと共に明かされる、過去の真実──。
“記録”の深層に沈むもう一つの約束が、浜野の心を揺らす。
そして、ノクスが気づいた“違和感”の正体とは?
「にゃう……(笑ってるけど、あれは本当に“今の彼女”かにゃ?)」
誰も知らない“彼女”のもう一つの顔が、夜の闇に浮かび上がる──。
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