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【本編完結】『元五歳で魔法使いにはなれなくなった男だが、ヒヨコはまだ健在か?』  作者: 桜月りま
番外編『幸せな二人の裏側と』

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ウィアートルの記憶:番外3

「死神さんはっ! ぐすっ……ヴィーねーさま、連れて行かない???」

 クラーウィスはまだ少しぐずぐずしながら、金と赤のオッドアイを瞬かせてウィアートルを見上げる様に聞いた。

「大丈夫だよ、あの死神さんはヴラスタリがとっても大好きだから。彼女の嫌がる事は絶対にしないよ」

「ウィアにーさま、ほんとーーに、本当ぅ?」

 そこでふわわんと、クリュシュが手を上げる。

「はいは〜い。ヴィラちゃんが縮んだ件については、裏取り終わってるから〜♪  アトルちゃんの言うように、彼は、まだ、手は出してないと思うわよ〜」

「姉上、それは誠か」

 ガタン、と椅子から立ち上がって声を上げるデュセーリオに、にこりとクリュシュ。

「リオちゃん、とりあえず座りなさいな。側付きの侍女にも聞いたのだけど、アトルちゃんが言った通り、ヴィラちゃん、隻腕の彼のその腕、一から再生したみたいね。でも身体が小さくなっただけで、健康に影響はないどころかイロイロ若返ってしまったと殿上医は言っていたそうよ」

 記憶投影で見たから間違いないわよ? っと続けるクリュシュに、おまそれ犯罪……と呟くウィアートル。

「まぁ俺がその現場は見ていたし、この居所内での魔法だから、父さんならわかるよね」

「うん、昼過ぎだったねぇ……急に飛び込んできて、暫くしたら超高位魔法が動いたから。ちょっと危なっかしい感じだったけれど、覚悟をもってやった事なら止める必要はないと思ってね」

「その名と、血の力を使って、腕を治す程のお相手……ね。まぁぁ……あんなにイル様イル様してたのに」

 やだロマンスだわぁ、とシェアスルがその目を潤ませる。

「え? じゃあヴィーねーさまの方が、死神さんを好きなの?」

「ただ娘を探してたのは、彼の方だろう?」

「好きでなければ、自身をかけて、腕を治したりなどしませんわよ、あなた。いくら〈大地の芽〉の名を冠していても、下手をすれば命を落としていたかもしれませんのに」

「それって……」

 シェアスルの言葉にクリュシュのピンクアイがパチリと瞬いた。

「両想い、って事じゃないかしらぁ♪」

 シェアスルとクリュシュが向き合って、きゃぁ! と二人で声を合わせ、嬉しそう言った瞬間、



 ガタっ!



 二人の雰囲気にデュセーリオが再び立ち上がってしまう。隣に座ったクラーウィスがその音でビクッとして、反射的に起立し、父王も椅子からゆっくり立ち上がった。



「この辺で今日はお開きにしようか。続きは明日、二人が起きて聞こう」

「では明日。二人揃っての『尋問会』には是非参加させてもらおう」



 父王は集まりを閉める。

 デュセーリオは続くようにそう言い放って、もう平静で居られなくなったのだろう。ソレを隠す様にさっさと食堂から立ち去る。

 その後ろにテクテクと続くクラーウィスが、

「死神さん……確かにちいちゃくてヴィーねーさま好み?」

 デュセーリオが聞いたらまた混乱しそうな台詞を吐く。兄に聞かれなくて良かったと、ウィアートルは心から思う。

 父王は妃であるシェアスルの手を取り立ち上がらせた。その真向かいに座っていたクリュシュは、コテンっと首を傾げてから、

「終わっちゃうの? まだ二人がどうやって知り合ったのか聞いてないけどぉ~まぁ明日、尋問会? で……じゃぁ二人のお洋服作り再開しなくっちゃ!」

 よーし、今日は徹夜かしらぁ~っと、ふわふわした音声で言葉を吐いて、くるくるの金髪を揺らしながらゆったりと食堂を出て行く。

「ウィアートルは執務室に来るがいい」

 呼ばれた彼は灰の髪をかき上げて父王を見た。

「明日の『尋問会』より先に、報告があるのだろう?」

 そう言って父王が宙に指先で円を描けば、すぅっとそれは大きな穴となり、向こう側に宝石が散りばめられた漆黒の執務室が現れる。

 父王とシェアスルに続いてその穴を潜れば、フロアを歩く事なく王の執務室にたどり着いた。三人が入れば空間を繋いだ穴は閉まり、光量を落としていた部屋には、ほわほわっとオレンジの優しいランプがつく。

 揺れるその光にちかちかと瞬く宝石達が美しい。机の上に生えた芽が新芽色の葉を揺らし、部屋の主を迎える。

「こちらで聞こうか」

 その部屋の隅に置かれたソファーに父王夫妻が座り、真向かいにウィアートルは立った。ソファーの骨組みは石造りだがその上には黒地に黒の刺繍が施された、とても手の込んだ柔らかいクッションで覆われており、座り心地は抜群だった。

「お座りなさいな。それでは疲れてしまうわ」

「ん、じゃぁ失礼するよ、父さん、シェアスル母さん」

 やっと腰をおろしてウィアートルは二人と向き合った。

「五の娘がイロイロ騒いでしまったから、先に皆で話したけれど。やはり話、途中になってしまったねぇ」

「それについては反省してるよ……」

 ウィアートルが疲れた様にガクンと首を下げたのを見て、父王は笑った。

「二の息子よ。前報告では『かの男児は精霊国で大怪我を負い、だが治療が難しい状況下。比較的近場だったエルフの森に担ぎ込んだ。その傷が癒えるまで待て』との事だった。他兄弟が気付いた場合、止めないと言っておいたが。実際、彼の体はどんな状態なんだい?」

「全身骨折していたのを無理矢理引っ付けて、増血させて何とか動いている感じ。爆風で飛ばされて、途中一人でドラゴンと戦って、その血で煮られたんだよ? 毒虫の煙まで吸った幼い人の身で。服から出たトコの見た目はだいたい大丈夫だけど、本当なら痛みで動けないんじゃないかなぁ、まだ」

「それは……本当に良く生きているね。それで隻腕のその少年の方が、ヴラスタリを探していたというのは本当だったのかな?」

「間違いなかったよ。二人は知り合いだった」

「けれど五歳児、それも聖国なんて……その前に最近はエルフの森を出てないわ、ヴィラちゃんったら、どこで知り合ったの?」

 この世界に魔法はあってもインターネットはない。

 そして神を持たないハイエルフとは相性が悪い聖国、その最下位身分の奴隷。たった五歳の幼子にハイエルフの姫が会う事はありえない。

「ティは前世持ちらしい。それもずっとずっと繰り返すそれらを、イヤになる程記憶している多重前世持ちだよ」

「まぁ! いずれかの前世で会っていて、わざわざ訪ねてきたって言うのっ…………素敵だわ」

 本人達が思い合っていたから素敵だ。

 これが嫌いな者や、完全ストーカーがやって来ただったなら……恐怖だが。

「彼はイイ人間と言う事でいいのかな?」

「まぁ。イイ子だよ。自分の腕を切る……ちょっと理解できない程度には、俺の妹に惚れているみたいだし」

「あらぁ……あんな(・・・)に小さいのに、本当に命をかけてやってきたのね……」

 シェアスルはまだ会ってもないのに、ティは高評価のようだ。彼女は姉クリュシュととても仲がいいので、小さくなったラスタや幼いティの姿を映像などで先に見たようだと察する。

 ティ自身は自分の姿に対し低評価だが、小さくて細く、黒目がちな痩せた幼児は庇護欲をそそる。幼いのに稀に色気さえ漂わせるのに無防備で無鉄砲だから、ウィアートルは放って置けないのだ。

「その能力や知名度、我が民エルフへの恩……それだけでも我が国としては歓迎だ。前世持ちは文字や文化、見地を拡げてくれる意義ある存在で……逃がす手は無い。さっき出て行った転移魔法使いもその小さき人族の手駒だね?」

「正確には違うよ。ティに恩が返したいから、側にいたいと自主的に来ただけ。待つ間に喰うのに困らない様に俺の勧誘を受けてくれたんだよ」

 王の金瞳が大きく開き、すぐに表情を柔和に戻し、とても面白そうに笑った。

「彼はヴラスタリの『婿殿』としてこの国に留め置く方向で話をすすめるよ」

「え。婿?」

 急にそこまで話しが飛ぶとは思わず、ウィアートルは驚いた。だが父王は当然とばかりに口を開く。

「我の四の娘。謀りに来たわけではなかろう?」

「ティに限ってヴラスタリに関してそういう事はないって、確かに断言できるけど……」

「ならば、よし」

 ぽん、っと、膝を叩き、ハイエルフの王にその話は即決された。本人達の意図しない、知らない時間、いない場所で。

「そこで悪いけどウィアートルよ。縁と思って、暫くこの後も面倒を見るように」

「ぜんぜん悪くはないよ、父さん。ティの……彼の世話をするのは。何か放って置けないんだ。何だろうね……アレ……ああ、弟みたいな……」

 とても手がかかるが父王に『悪いが』と言われれば、そうも思っていない自分に気付きウィアートルは答えた。答えながらふと気づく。

「ヴラスタリの婿って事は。本当に義弟になるのか……」

 その言葉にうんうんと父王は頷く。

「とりあえず成人まではこの居所に。その後は本人達にまかせるけれど」

「まぁ……彼の体調が整ったら、エルフの民を救った人族ってコトでお披露目するわよねぇ?」

 父王が頷けば、ほやほやっっと笑いながらシェアスルが言った。

「ならーーヴィラちゃんが彼の腕を癒した事も先に流して、彼の為に姿が変わった事も伝えた方がいいわぁ。公務に差し支える前に。そして彼のお披露目の時に二人の婚約も広めれば、他国にイイ牽制になるわよねぇ? 彼が許すなら、転生者であることもヘタに隠すより使いましょうね。そうね……死も、時間も、身分も越え、ドラゴンを倒してまで出会った『二人の愛の物語』をウィスちゃんに書いてもらって広めましょう? ねぇ? とっても素敵だわ~」

 それは『娘の婿をむざむざ他国になんて渡しません』っという母の確固たる宣言だった。やわらかーく笑っているが。

 腕を癒した奇跡は愛する者にのみとして、それを狙う不埒な輩を排除するとか、お衣装はクリュちゃんがお揃いで用意してくれるとか……それはそれは楽しそうにしているが、一国の妃……しっかり先を計算をしながら考えを巡らせる。

「まずは、生母のルツェーリアさまにご連絡と、フィレンディレアさまにもお声がけをして……」

 他の妃との連携もきっちり計っていくようだし、その辺は彼女達に任せておけばいいのだなぁ……っと、父王と二の息子はあくまでふわふわっと笑うシェアスル母を見やった。

クリュシュの記憶

~時間は家族の話し合いの少し前~

侍女がやってきて……

小藍様からの寄稿です。



「クリュシュ様。子供、男女二人分のお洋服を用意していただきたいのですが」

 新しい衣装のデザイン画を考えていた、クリュシュの手が止まり。ゆっくり背後を振り返る。

「ふたりぶん?」

可愛らしく小首を傾げると、ふわふわの金髪がさらりと揺れた。

「はい。女児が身長125くらいの頃のヴラスタリ様の一番かわいさを引き出せる物を。男児が身長110程で女児並みの細身のモノを……」

 ぱちり、その桃色の瞳が瞬かれる。

「ヴィラちゃんの? どういうこと???」

「実は……。ヴラスタリ様とどうやら縁のある、隻腕で人族のお子様の、その腕を。ヴラスタリ様が癒されたのですが……。無理をなさったようで、お身体が縮んでしまわれて」

「な……!?」

 わなわな、クリュシュの身体が震える。

 それは、愛する妹に無理をさせた事への、その男児に対する怒りか。一介の侍女には分かるはずもないが、何かお怒りなのは間違いないと、黙したまま肝を冷やしていると。

「なんですって!? 貴女、ちょっと手をお貸しなさいっ!」

「は、はいっ」

 叫んだクリュシュに手を差し出され、反射的に侍女が手を差し出すと。

がっしりと掴まれ。

 ついで、二人が立つ床に桃色の魔法陣が展開されて。

 すぐ様侍女が見た、幼女状態のヴラスタリの姿が、空中に投影される。

 黒髪黒目の男児の姿も。

「きゃあああぁ♡」

 自身の頬を両手で包み、歓声を上げるクリュシュ。

 手を離したことで侍女の記憶が投影されたモノは消えたが、その数秒で十分だったらしい。

創作意欲(もうそう)が止まりませんわ〜〜っ!! 50、いえ100着セットで作ってあげるからそこで待ってなさいな!」

 高速回転する右手は常に机上の紙をひた走り。完成画が部屋を埋め尽くす程舞い散り、ベルで呼ばれてやってきた縫製師たちは悲鳴を上げた。


llllllllllllll


お読み頂き感謝です。

ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです。

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