20番目の記憶
爆発で吐き出された穴をじりじりした思いで戻って行く。魔獣がいら立って叫んでいる声が反響している狭い通路。魔獣の声に焦燥が増す。
炎が通ったせいか、酷く体は煤けて、地面から熱を感じる。考えると進めなくなるから、感覚は酷く鈍くして、前進した。それでも頭の耳がゾワゾワする。
ずりずりと少しでも早く進む。先ほどまで魔法で岩を作りつつ掘って進むので、右腕がなくてもその程度ずつの移動でよかった。だが今は時間が惜しい、なので、左腕だけで進むのではなく体を起こして足で天井や床を蹴る行動をつけ加え、少しでも時間を稼ぐ。短くなった右腕がガリガリと壁に当たって擦れているが気にしたら負けだ。
周りの熱に肺が焼けて息が上がる。ソレを感じてか、ウィアートルが空気を適度に送ってくれる。無言の怒りを感じるが、それでも見捨てず補佐してくれる彼は優しい。
運がイイ。
彼はラスタを妹と言った。
きっと彼なら俺に何かあっても、ラスタにあの箱くらいは届けてくれるだろう。俺の赤刀をラスタは見た事があるから、もしかしたらウィアートルに聞いて『……え? まさかね』くらいは俺を思い出すかもしれない。けれど赤刀は俺が死ねば顕現する事はなく消えるだろうから、嘘つき呼ばわりされたらウィアートルが不憫だ……
「……いい迷惑か」
兄妹双方に……自嘲気味に嗤ってしまう。
そろそろ一年、か……彼女に焦がれるその気持ちに変わりはないが、会って現実を突き付けられるのが怖くなっている。だいたい何と言えばいいのか。『前世? で泣いてくれたのが嬉しくて会いに来ました』?。どんなストーカーだ……
何度も考えたが、何と言えばいいのか。だいたいイルとか、他のヒトとかわからないが、彼女の側にはもう誰かいるかもしれない。いや、ウィアートルが会わせてくれるというくらいだから、今はフリーか? そう言えばどこかでイルの声を聴いたような……アイツはどこにいるのやら……
エルフの森に行く用意をしながらも、ハーフと言ってもエルフを名乗るウィアートルに話を聞かなかったのは、彼が怪しかったのもある。だがラスタへの言葉がまだ見つかってなくて、格好が付かない自分が恥ずかしく、どうしていいか、わからなったからと言うのも正直大きい。
それでも会えると……彼女が居る完全な証拠を前に……動悸が激しいのは……ここの空気が悪いからだろう。決して……会えるかもしれないってドキドキしているなんて、そんな事はない。……ない、な?
ココを生きて出なければ話は始まらない。死んだら? ……その時はウィアートルに任せよう、そうしよう。まぁどうしようもないから。
入り口がどんどん近くなり、熱と唸り声で満ちた空間にやっと出た。
「キャンディ!」
「その名で何故呼ぶかっ」
「元気そうで何よりだっ」
「出せ、まだ動ける!」
先ほど吹き飛ばされる前に一瞬の判断で張った結界。一つは十数人が寄り集まっていた一角、そして一つは魔獣と向き合っていた御仁……キャンディ。本名は何とか……ディ、なのでキャンディ。会うと飴玉くれるドワーフ、剣術大会の熟年部優勝者の彼の回りに張った。
あの時は剣術大会だったので、斧遣いなのに剣を使っていたが今は戦斧、それも大斧をふるっていた。あの時、得物が剣に限られていなかったら、統一戦優勝は彼だったと思う。
先ほどは一瞬見ただけで酸素の少ない中で、顔色が悪かったのだが、今はだいぶ良さそうだ。足に結んだ簡易救急セットを押し付けるともう一度、結界に閉じ込めておく。
「出せと言って……」
「アレに飛びかかる気だろ」
「そりゃあ! まだ組み合って十五分、まともな傷は付けてねぇ。おめぇが来た時の爆発にだいぶ体を焼いてやがったが、ずいぶん回復してしちまった。だいたいどこからあんなデカいモノがこんなトコに入り込んだかわかりゃしねぇ」
「ほら。アレが餌、喰っているうちに」
治療しろ、そうジェスチャーする。その十五分で深い火傷と流血のある傷を負っている。キャンディはおめぇもヒトの事を言えん姿だ……など、ぶつぶつ文句を言いつつ、包帯で傷を縛り始める。俺は煤けて汚れているだけで、まだ何とも戦ってないのだが。
その間に周りを見やる。
真っ二つになった昆虫系魔獣は、テントウムシを大きくしたようなのが二体転がっており、その形状から見てその『脚』だけが無数に床に転がっている。
「一匹に六本、二体で十二、四体で二十四……」
「六体だ! 死体はアイツが喰ってやがる……」
「gggっ! ggggggっ! ggggggggg……」
ああ、嫌な予感はよく当たる……ウィアートルに絶対止められると思って蛇系の魔獣と言ったが、その魔獣が言葉を理解するならきっと『無礼だ』と返すだろう……
目の前に居たのは立派過ぎるフラムドラゴン……こないだ見た鮮明な赤い色ではなく、ほの暗い赤の個体。ワイングラスを透かしたような妖しい赤で、身体は熟成したばかりの個体より二回りは巨大だ。爪は毒に染まった青がかかった濃い黒紫。目の色だけがあの成熟したばかりだったドラゴンとの血縁を示す様に同じオレンジだった。
その夕焼けの空色は絶望、酸素不足に陥っていた鉱員の数人が結界に入っている事で意識を取り戻したようで、恐怖に目を見開き、ガタガタ震えている。
「硬すぎる、この結界。あのドラゴンにも即割れんかったぞ」
出られなくなったキャンディの攻撃が止み、結界で囲われたヒトは簡単に食べられなさそうだったので、ドワーフが倒した昆虫系魔獣を喰い出したのだろう。
どうしてこんな所にドラゴンが居て、今日の今日まで誰も知らなかったのか……その時、疑問の答えではなかったが、ウィアートルの声が響いた。
『ティ! 黒縄を引いて』
『どうした?』
『そこに結び付けている紙を急いで開いてっ』
身体に結び付けている縄は二本。黒と白の縄を結んで輪にし、自分を軸にして黒縄を引く。白縄が俺の通った細い通路に消え、黒縄こちらに引かれ、また通路に流れていく。ロープウェイのようにぐるぐる回す事で、外の物を簡単に受け取れるようにする。穴に入って引けるサイズと重さでないと無理だが。
「縄が脆いな……」
通路が焼けているせいか太い縄だが焼き切れそうだ。まだ使うなら縄を変えないといけないが、もう使う暇はないだろう。キャンディの倒した魔獣の死体を喰ったら、アレはこっちに向かってくる。
少し焦げた紙を拡げれば、魔法陣だった。地面に置けば、ぱぁっと光る。ドラゴンはヒトが足掻いたぐらい気にも留めないのか、食事に勤しんでいる。
「ティさ、さぁ様ぁ! どぅどどどらどらっっごんがっ」
「喚くなっ」
魔法陣から現れたのは、転移魔法使いのグラジエントだった。どうしてここに居るかはわからない。ただ俺を見て安堵して、その後に赤黒い魔獣が虫の遺体を燃やしつつ喰らっている姿に腰をぬかす。魔法陣の描かれた紙は熱ですぐにボロボロになってしまった。
ドラゴンを倒し、この火を鎮火させてからでないと、この方法で移動中に紙の魔法陣が焼き消えたら彼は死ぬ。ソレがわかってしまったのか、彼はゾッとした顔をしながら、
「ととと、ともかく一度この空間から、で、出ましょう」
「避難者の結界の方へ静かに移動しろ……」
コクコク頷いて、ほとんど四つ這い移動の彼。
俺はキリキリと包帯を巻いているドワーフの回りの結界をそのままに喋りかける。
「撤退だ」
「んだと? このまま置いとけばひでぇ被害が出る。あいつはココで倒すべきだ」
そんな事はわかっているが、この人員で倒せるかといえば、難しい。ドラゴンがいつ動き出すかわからない。うん、とりあえず連れて帰ろう……俺は結界をそのままズルズルと魔法で移動させる。
「おめぇっナに……をっ!」
「帰るぞ」
結界に押させるような形で歩かせて強制移動させる。イロイロ叫んで、結界を叩いているが流石に割れない、はず。ピシっとか不穏な音がするけれど。ドラゴンでもすぐに割れなかったとか言っていたのに。
「おやっさんが……」
他の避難者の目が痛いけど、避難するには強制するしかないだろう? そう言う目線を投げれば納得したのか何も言わない。もう飴くれそうにないな……ずりずりと引きずって、他の避難者と合流して結界内に入る。
「何しやがるっ! やんぞ、おらっ」
「解毒剤を飲んで来てくれ」
「かすり傷だってぇの」
しっかりと得物である大戦斧を握りしめてはいるが、その指先は酸素を得てからも色が悪いままだ。ドラゴンの爪の毒が入ったのだろう。俺が首を振って断固として一度外に出る様に言う。
「い、ぃ転移します。魔法陣から出ないで下さい。ティ様、タイミングを合わせて結界を消して下さいィ」
転移魔法使いがそっと宣言して呪文を唱え始める。するとゆっくり足元に魔法陣が浮かび上がった。
「魔法はあまり好きじゃぁねぇ」
「はみ出したら死ぬぞ、キャンディ」
「物騒だな、おい……」
転移魔法使いの移動法則としては自分単独で目に見える範囲なら、その先に魔法陣がない場所でも跳べるという。茨の黒墨を消した直後も俺の足元に飛んできていたし、こないだ実演も見た。
自分だけでなく複数人やモノを飛ばす場合は、近かろうと遠かろうと、移送先に魔法陣を先に敷いておく必要がある。魔法陣が途中で壊れたり、小さかったりすれば、荷物が壊れたり、胴体が切れたりするらしい。下手に結界などがあると激突死もあるそうだ。
「AAAAAAAAAAAtggっ! Aggggyyyyyっ!」
転移魔法が完成する少し前に、ドラゴンはムックリと顔を起こした。まだ餌の昆虫は半分くらいある。だが、俺達……いや、『俺』にピタリと視線が定まっていた。
この短期間に目の色が同じフラムドラゴンが二匹。この大陸にいないはずの生き物が、同国に現れる。そんな偶然、この世にあるなら因果もあろう。
「子供の『仇』って事か」
「何だってっ」
「俺、アイツの子を殺している」
竜神国の国民が俺をドラゴンディザスターと知らずとも、そう言う事を成し遂げたのだとわかってしまうのと同じ原理。自分の子を殺した奴と確信したのだろう。逆に俺の方もそう察してしまう。
今にして思えば、通路を作っていた時に壁を不意に尻尾で破壊してきたのも、そういう何か感じての行為だったのかもしれない。
あれほど執着していた餌をブン投げて破棄し、炎のブレスを用意し始めたドラゴンを見て、俺は一緒の避難を諦めた。
「俺は残る」
「っ」
「途切れさせるな、全員で死にたくない」
転移魔法使いはもともと気の小さい男だから目が泳いでいるが、この呪文が途切れれば、避難者も自分も逃げられないのをわかっているのだろう。何とか唱え続ける。
俺は一つだけ質問をし、頷く行為で肯定をもらう。
「じゃ、外でウィアと打ち合わせてくれ」
グラージに告げれば彼は頷いた。しかしキャンディが吠える。
「オレも残らぁなっ」
「いや、外で毒を……」
「おめぇだけじゃアレぁ手には負えんだろうがよ」
「だからこそ。外で治してこい」
万全な体制で加勢に来てほしい、そう視線を送れば渋々頷いてくれた。
「……必ず戻っから、死ぬんじゃねぇぞ」
魔道具にでも入っているのだろうか、この暑い場所なのに何故か解けていない飴玉を取り出し、俺の口に二つ入れてくれた。いいヒトだ。
「待ってる」
口の中の塩飴が美味い。
俺は口をモゴモゴさせながら、魔法陣が完成する寸前に転移魔法に干渉しないよう全結界を消した上で、右方向に走り出す。そしてドラゴンの炎のブレスが吐き出される瞬間、そこにあった俺が掘った通路の入り口を岩で堰き止め、外への被害を差し止める。
『ウィア! グラージに聞いて、後から『風魔法』を頼む!』
『は? ちょ……ティも戻って来るんだよねっ???』
『無理だ、ロックされた』
『なんでっ』
『こないだの親だ。全員で死ぬわけにはいかない』
『蛇の? え? 何、言ってんのっ』
ウィアートルがまだ何か言っていたが、取り込み中だ、また後で……と、念話を切った。後があるか、祈りつつ。
俺の背後で複数人の気配が全て消えたのを確認し、結界を張り直した瞬間、ドラゴンが放出した熱が全身を焼く。それでも焼け溶けず済んだ。
「はははははっ」
やはり日々精進だ……
成熟したドラゴンが着ていた結界。アレのまねができないか、イロイロ試行錯誤していたのだ。それでも皮膚が焼けている匂いがする。
「ggggrgrgrgr……」
どうしてだかドラゴンの声を聴くと心がざわっとなる。相手も子供の仇だ、怒りが声から、その炎から伝わってくる。それでも俺はココで死ぬ気はない。
「ははははっはははははっ!」
狂ったように嗤った。
別に狂気に襲われたのではない。こいつの子と戦った時もだったが、何様だ、生意気だ、と、よくわからない感情が渦巻く。俺の魂たる何かがそうさせる。何でなのかなど考える時間もなく、ぶん回される尻尾を避け、こいつと俺に結界を張る。余り壁を揺らすとまた坑道が崩れ、生き埋め捜索の救助隊が二次被害を受けて、助け手が遠ざかる。
「ぉらぁああああっつつ……」
こないだ子を相手した時と違い、魔力は残っている。ドラゴンと俺との回りに結界を何層にも張り、外への被害を出さぬようにして、炎と氷を混ぜて叩きつける。
反撃のパンチに床が巻きあがり、その余波だけで骨が軋んで、あばらがパキンと折れたのを感じた。
「氷華炎!」
誰も回復などしてくれないし、痛いし、何かもう訳はわかっていないが、刀を振り回し、魔法を放った。
ドラゴンが先ほどまで虫を貪っていたのは、爆発とキャンディが作った傷を癒そうとしたからだろう。それでも治りきれない傷を狙って押し広げて行く。ヤツの放つブレスが、転がっていた昆虫の脚をソコココで焼き、腐臭を放つ。
薄い煙が燻り、息が詰まる。呼吸が出来ない。切り付ければ他の生物を切った時とは明らかに違う音がして、吹き出してかかる血が異常に熱い。吐息が空気を焼き、炎は俺を焼かんとしてその口から次々と吐き出される。
いつしか口腔内の飴は消えていた。
キャンディが六匹の昆虫系魔獣を倒し、その後に対峙した十五分、粘り強く戦斧を叩きつけて付けた胸の傷を再び狙う。また、ソレと見せかけて新たな負傷箇所を作る。子ドラゴンより分厚い結界を着ているが、だいぶ要領を得た。キャンディの攻撃で薄くなっている所を切り込めば何とか行ける。
ドラゴンとて生物だ。血は赤、大きければ酸素もより必要。その巨体に似合わず俊敏だが、酸素が少ないとどうしても動きは鈍くなる。だからこの結界内は酸素がこれ以上入らぬように完全にシャットアウトしている。
先ほどキャンディや避難者が置かれていた状態を故意に作り、それも徹底的に酸素を排除した。故に俺も若干酸素不足だが、ドラゴンは空気の概念はあっても酸素などわからないはす。俺は着る結界を弄っている分、少しだけ奴より有利だ。ソレに体も小さいので酸素消費は少ない。これだけ動き回れば微々たる差だが。
どちらが先に酸欠になるか、我慢比べで終われば……
「かはっ……」
だが急に俺の口から空気が吐き出され、一緒にぼたぼたっっと地面に血を吐いてしまう。赤刀片手に、抑える腕も拭う手もない。ただ流れるに任せ、荒い息を付きつつ血痰を吐き捨てる。
「毒、この脚……燃やすとヤバいやつだったのか……」
ドラゴンがにやりと笑った気がした。そのオレンジ色の目が細くなり、口からの火が籠った息を避ければ、床の甲虫の脚に着火する。酸素がない分、燃え上がらずただ熱でジワジワと燻る煙が俺を蝕む。
ドラゴンとしては何故燃え上がらぬのか、不思議ではあろうが、目の前の仇が血を吐き、弱り出したのは見た目だけでわかる事。拳に、足に、尻尾、その巨大で丈夫な体躯で擦りつぶさんと迫る。
「ふっ!」
尻尾を踏んで刀を振り回し、鱗を削ぐ。魔法でドラゴンの結界を解きながらのこの鱗剥ぎ作業も慣れてきたが、続けていると手が痺れる。それでも手を緩めるわけにはいかない。切れ味の高い刀にこのドラゴンの苦手な冷気を纏わせ、鱗が剥げた所に突きたて、凍らせてから念じる。
「爆ぜろっ」
極端な冷気で凍え、そして加えられる熱。ドラゴンが痛みを感じて尻尾を振れば、強固に張った結界にぶち当たった。結界は揺らぐことない。俺は尻尾の反動と結界を使って、そのオレンジ色の視界の高さまで跳ね上がった。
渾身で体の重みと引力を最大に生かしてその右目に突きたて、赤刀に氷を発生させた。
「gygygyygyaaaaaaagggt!」
ドラゴンの叫びと共に、俺に拳が降ってきた。瞳の上で固定状態だった俺はもろにソレを喰らった。毒々しい爪が着る結界ごと俺を引き裂く。そして地面に叩きつけられ、バウンドして己の結界でやっと止まる。
「くっ……ごほっ……」
肩の傷から、そして口からも咳と共に血が流れる。まだ片目を潰し、キャンディの作っていた傷と尻尾を少し傷つけただけ。この坑道を封鎖している岩や泥に、遭難者を探しつつ掘り進める音は少し遠い。後少し、時間がかかる。
ドラゴンの右目に突き立った赤刀を消した。吸い込んだ毒と爪の毒が体に回って来たのか、目が霞む。
「Gy……?」
「やっと……効いてきたか」
どおん、と、ドラゴンの片足の膝が折れる。酸素不足にやっと陥ったようだ。
『頼む!』
俺はウィアートルに合図を送る。たぶん相当怒っているだろうが、転移魔法使いに頼んだ事を実行してくれると信じて、俺は手のひらに赤刀ではなく小さな結界を呼び出した。
ソコには俺のライセンスが一枚、現れる。
「Gyyy?」
その行動が不明だったのか、ドラゴンの口からさえも再び疑問詞とわかる音が漏れた。
そしてそれと一緒に何げなく入れていたメモ紙が一枚、ひらりと地面に落ちた。
その紙は俺がライセンスを収納する為、グラージに教えを請うた時のメモ。そこには彼が使う魔法陣が小さいながら描かれており、そこから巻きあげる様に『風』が『酸素』が一気に結界内に供給される。
魔法陣で大量に供給されたウィアートルの風魔法に、燻った炎と未燃の可燃性ガスと揃ったなら、ココで起きるのは……
爆発だっ。
メモ紙が熱さで焼ける瞬間までで、供給された酸素の力を得た炎は絶大だった。結界を張っているので範囲は狭い中で、どこにも抜け出る事なく、動きの鈍った巨体に襲い掛かる大爆発。
俺は更に全力で氷を魔法で作り、ばら撒く。爆発に紛れ、氷の飛礫がドラゴンの鱗を削いだ皮膚に突き刺さる。
俺自体は音も痛みも完全に絞り、爪で裂かれた着る結界を必死で纏いつつ、外に爆発を逃さぬように追って結界層を厚くする。
聴覚を絞っているので聞こえるハズの無いドラゴンの叫びが、俺の頭の耳をビリビリと痺れさせた。
死にそうなのに、目の前の巨体を壊していく事が楽しい。ヤバい、苦しいのに、心底嬉しくなってくる。
こうなると自分が壊れて逝くのさえもが善くなってしまう。ドラゴンの縦瞳孔がおかしなものでも見たかのように、きゅっと縮む。こうならない様に、こうなってしまうから、『表』がいた。けれど今はいないし、こいつを解放すれば洞窟城は壊れてしまう。故にソレを止めるためなら目の前のモノは構わず壊していいのだから、ちょっとくらい本性だしても構わないハズ。
「ヤりあおうか」
俺はそう呟いて嗤った。
お読み頂き感謝です。
ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです。




