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【本編完結】『元五歳で魔法使いにはなれなくなった男だが、ヒヨコはまだ健在か?』  作者: 桜月りま
本編

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18番目の記憶

お茶会への呼び出しです…

ティの一人称です。

 黒塗りに金、このテラリとしている黒は漆だろうか……とても立派な鞍が設えてあるドラゴに乗った騎士が迎えに来た。後ろに乗る様に言われるが、小さい鳩のドリーシャが狂ったように抗議の声を上げると、現れた時は颯爽としていたドラゴ達がギュギュっと鳴いて下がっていく。

 ドラゴは小さめのだと言っても、竜種。そこそこ大きさもある。ソレを射竦める鳩って何だろうか。

「……頼める、か?」

 まだ幼体だから大きな体を保つのは大変なのだと思うが、頼んでみれば、力をもぎ取れられて形を作る。

「うわぁ……壮麗だねぇ……グラキエースドラゴンかぁ……」

 ウィアートルが眩しそうにその姿を見上げた。

 雪のように白い体躯。大きいと言ってもドラゴより小さいのに、とても凛々しく『上』の存在だと無言でわかる。スラリとした体形に鱗ではなく長めの癖のない毛に覆われた体躯。翼には鳥のような羽が生えている。羽は氷のようにキラキラと輝く透明で、体毛の白を透かす。顔立ちは角や耳があってそのままではないが、鳩の姿に長めの尻尾を付けた感じで、翼を開いたドリーシャをアップに見たと思えば彼女でしかない。

 見慣れた赤い瞳なんかは大きいだけで瞬きがそのままだ。そう言えば耳の形が俺の頭の上のを引っ張って立たせれば、似ている気がする。

「あんま、変わんないな……」

「くるぽっ!」

「ふっ……乗っていいか?」

 俺がわしゃわしゃ左手で撫でれば目を細めてイイ顔をする。

 最後に手櫛で毛並みを整えれば、屈んでくれるのでよじ登って飛び立つ。

「先導を頼む」

 緩く旋回させつつ騎士に告げると、どうもドリーシャの前をドラゴが飛びたがらないという。トントンと背を叩けば、ドリーシャが高く啼いて、それが知らせだったようにやっと三匹の内の一匹が先導を始める。

 後ろに付いた二匹の内一匹にはウィアートルが乗った。ソレに乗ってきた騎士はもう一匹に二人で同乗し、殿を務める。ウィアートルはドラゴに乗るのは初めてとの事だった。だが風の魔法使いである為、飛翔騎獣は好んで乗っていた経験がそれを可能にしていた。

 その後は特に問題なく空を移動し、黒い壁に囲まれた、漆黒円形の城を越え、少し向こうにある森の空き地に降り立つ。

「ココからはこちらへ」

 ドリーシャはすぐに鳩の姿へ戻って懐に入り込んだ。

 そこにはたくさんのドラゴが放し飼いされていたが、伏せて、近づいては来なかった。

 そこから黒い馬車に連行され、城の方へ連れて行かれる。先ほど上を通過した時にも見たが、馬車と同じく城も重厚な漆黒だった。それが冬の太陽に照らされている。夏は熱くて触れられそうにないなと考え、まぁ二度と来ないしどうでもいいかと話を括った。

 この国の人間は珍獣のように俺を見るから本当にいやだ。町の中の誰かにちょっと目が合っただけですごいモノを見た顔をされる。だから一月、東公国に逃げたのだ。迎えに来たドラゴの騎士はそこまでなかったが、それでも気になる視線を向けられた。

「すっごい顔してるよ?」

「普通だ」

「まぁ、ドラゴンディザスターなんて称号、久々だし、それが誰に言わずとも感覚で伝わっちゃうんだから、この国では仕方ないよ」

 流石に城には町中のようにあからさまにジッと見てくる奴はいないが、馬車を二度見はしている。ウィアートルは緊張もなく通常運行だ。

「この皺、まだ、五歳なのに老けちゃうよ?」

「もうそろそろたぶん六歳だ」

「まだ子供なのは変わんないから」

 俺の眉間の皺を、ぎゅーっと両手の人差しで押して伸ばしてくる。俺もこんな場所に慣れているわけではないが、緊張はない……好んで来たわけでもない。

 登城用に服を渡されたが、それを着ず、いつものコートを纏った。補修してもボロさが目立つ、それが似つかわしい場所であると思わない。けれど来たくて来たわけではないというアピールにソレを通した。それに俺の戦闘服せいふくはこれしかない。

「のぉばぁーすぅーー」

「やめ……」

 深まる眉のシワを伸ばす手を振り払えば、ウィアはイイ顔で笑ってくる。

「ねぇ、ティ? 聖国の聖都で聖女様が白聖龍を呼んで、国を守ったんだって。知ってる?」

「知らんな……」

「何かすごく邪悪な気配は……確かにあの夜、凄かったんだよ。人も随分死んだみたいだけど……地形も変わってしまったらしいよ?」

 都一つ、一夜にしてほぼ全壊。

 塵と消えた神殿はとても大きく、昼間は参拝客が絶えない場所だったらしい。夜中だったが無人ではなく、そこに居た者の命が消えた。

 更にソコは国の中枢故、今は暫定として病気を理由に蟄居していた前聖王が妖精国や北方辺境領の支援を受けて立て直すとの事。聖職者の腐敗の温床を一掃するため、改革が実施され、その中で犯罪奴隷以外の奴隷制を排したようだが、奴隷として生きてきた者をただ放り出して食えなくなり、賊になるような展開がないといいな……などとボンヤリ思う。

 そんな事を考えているとウィアートルがモノ言いたそうに俺をじっと見ていたのだが、その時の俺は気付かなかった。

 そうしていると馬車が止まり、扉が開いたので、飛び降りようとしたら、先にひらりと降りたウィアートルに抱っこされる。その耳に、

「……ここまで世話になった」

「はーー? この後、精霊国まで送るんだけど?」

「いや、これ以上は……」

「何、言ってるの。今更、だよね?」

 地面に降ろしてくれながら向けられるのは、さっきまでと同じ笑顔なのに、どこか強制的な色合いが濃い。

 そう言えば姉の願いを聞いて聖国から戻って来る……その途中辺りから俺は記憶がない。どこかでドリーシャに降ろしてもらい……ギルドに帰っていたと思ったのだが、気が付いたらウィアートルの部屋にいた。

 それからなし崩し的に、彼の部屋から一緒に行動するようになってしまった。

 俺を家で寝せてから他のトコに飛んでいく事もあるから、ウィアは忙しくないわけないと思う。

 イロイロわからないけど……イイ奴だなぁと思う。調子の悪かったドリーシャを預けて行くくらいには……結局、ドリーシャには……飛んできてくれたのをイイ事に無理させて、更に連れて帰ってくれた。

 ただウィアートルの部屋が居心地よかったのか、巣を作ってしまったのはどうかと思う。

「エルフ……か」

 彼はちゃんとしたエルフの正装らしいローブにコートを着込んでいる。パッと見、常と特別かわって見えないが、布地がしっかりとして仕立てもよく、華美すぎない。だからと言ってシンプルすぎないように飾りをあしらい、身に纏っていた。

「ん? どした?」

「ウィアはエルフ?」

「え、今更? エルフと精霊のハーフだよ?」

「……そうか」

 答えた時に、前を先導してくれていた男性が恭しく頭を下げ、手でその先を示してくれる。

「この先へどうぞ」

 広い城内を過ぎて、案内されたのは庭だった。王城を背にして、遠くに林や小さな丘さえ壁の内側にあった。小規模な狩りくらいできそうだった。先ほどの騎獣のドラゴ達の為の場所は、あの辺りだななどと見やる。

 先導の男性が示したのはもっと手前、結界に覆われた円形のガゼボ。黒い八本の柱は重厚で、金で緻密な飾りが描かれている。そこに緑豊かな蔦バラが柔らかく巻いており、大きな白薔薇が美しい。結界内はとても快適な温度に満たされており、中には人物が一人。

「よく来てくれた」

 あんまり認識したくないが、この国の王らしき伯父と名乗る彼。お互い名乗りはしない。誰かが近づけばすぐにわかるこの場所を選んでいるのは、刺客や聞き耳を避けつつ、公式ではないと示すためだろう。

 そんな事をするくらいなら、呼び出しもやめて、盗んだモノを素直に返してほしい。

「エルフ殿も息災そうで何よりだ」

 そう言われて彼は軽い黙礼だけで、俺達は席を勧められるが座る事はなかった。

 テーブルにはアフタヌーンティーのケーキスタンド。その上には市井で見た事も食べた事もない軽食と豪華な甘味が並ぶ。用意されたお茶も下種な俺でもわかるくらい、質の良い匂いが漂っている。

「もう少し、デレてくれても」

「受け入れや治療には感謝している」

 だが仲間が過度な治療は断ったそうだ。してもらっていなければ死んでいたという話も聞いてはいるけれど、それで自由が奪われるなら死んだも同然だ。

 一度来いという要請は今、果たした。だからこれ以上は譲歩する気はない。

 頑なな姿勢に少し寂しそうにするが、絶対嘘だ。

「ではこれを受け取るがイイ」

「……どういう事だ」

 冒険者ギルドのライセンス、その階級が『B』から『シルバー』に変わっている。それに師匠から貰った共和国の身分を証明するリストバンドに、小さな宝石が飾られていた。

「精霊国からもこの国としても。ドラゴンディザスターにB級ライセンスは在り得ない。故に書き換え申請させてもらっている。本来ならゴールド、それ以上の級を出す話も出ていた所を押さえておいた」

「……感謝? する?」

 どや顔で言われて、頭が痛い。よかったのか悪かったのかわからないけれど、Aとブロンズを飛ばしているのだけ目立つのにそれ以上とか誰が考えるのか。だいたい階級特進とか要らない。ラスタに会う為にある程度の地位は要るかもしれないが、何かこれは違う気がする。

「ドラゴン一匹で、何で騒ぐのって顔してるけど、大変な事なんだよ? 単騎なんてティ、常識じゃないから」

 確かに死ぬかと思ったが、死ななかったし。アレは成熟して時間も経っていなかった……脱皮を繰り返していないから歯が立ったが、まぁ運がよかったと思う。

 後はリストバンドの宝石だ。

「それは徽章だ。親が子に渡すモノだが、お前にはなかろう。つけておけ」

「こんなもの……」

 こんなものと言われては仕方ないがなぁ~っと、男は面白そうに笑った。

「お前は幼いが自己の道がある。だから私を親に選ばんだろうが、それでも血縁を見つけて、そうですかと放ってはおけんのだよ。弟は徽章を持たす暇もなく消えてしまった」

 目の前の男の弟を俺は知らないし、どこにいるかもわからんソレがクズだという事はわかっている。

 けれどクズもこの男の側で育てば、少しは変わっていただろうか。きっとクズが居なければ俺も居なかっただろうが。

「いつかお前が無事に大きくなれたら、子にでも渡すがイイ」

「身代わり石。御守だよ、ティ。受け取ってあげるといいと思うよ? 貴重品だし、波長を合わせるのに一月くらいかかるから。君の為に用意してくれたんだしね」

 こっそりウィアートルが耳打ちしてくれる。ちょっとした事故から守ってくれる効果もあるらしい。なるほど、これを調節する時間、足止めしたワケだ。

 久々に戻って来たリストバンドをつける。

 そして城に向かってちょっとだけ目を眇める。黒い城の高い位置から、ココを見下ろす視線を感じていたからだ。じろじろマジマジ……目の前の男に感じるのと同じ、あの聖女と言う女に感じたのと同じ……『血縁』が居る。年寄りのようだ、もう二度と会う事はなかろうが。

「茶くらい飲んでくれると嬉しいが」

「じゃぁ……」

 俺は立ったまま、その男が口をつけようとしていたカップを奪って煽るように飲む。俺達が来るまで待っていたのか、温くなったお茶だが、高級品らしく飲みやすい。

「中に、毒が入っている……」

「なっ!」

「もう構うな」

 耳打ちしてその場を離れる。

 茶の香気に混じった草の匂いが、ガム代わりのアレと同じだった。含めば慣れた甘い味が微かにするから間違いない。

 これであの男が飲んで倒れたら、何を言い出す気だったのか。殺す気はない量だった。流石に自分で飲んで、それを理由に俺を縛る……は、無いかと思うが、無くもない気がしてしまう。

「ティ! 何やってるの」

「茶を飲んだだけだ」

「ヒトの飲んじゃダメでしょ」

 つい嗤っていたのか、ウィアートルが東屋の方をもう一度見やり、慌ただしくなっているのを確認する。

「ティ……何か、やった?」

「別に」

「ぜーーーーったい何かやった顔だっ」

 出て行くのは止められず、そのまま精霊国へと足を運ぶ。途中、黒墨を外してやったあの転移魔法使いグラジエントに会った。というか、追って来たらしい。

「ティ様。あの時はありがとうございました」

「その呼び方、ヤメろ」

「いえ、恩人ですから……」

 彼はあの船の中で気を失った事で生きていた女性の攻撃魔法使いを連れていた。聞けば二人は同郷で、魔法使いだった事で仲が良かったし、黒墨を負わされた仲間。

 彼女の手からも、黒墨を消してやる。

 奴隷制も無くなるから聖国に行けばたぶん消してくれるのだが、もう近付きたくないという意を組んで行った。彼が消してもらったのを知っている信頼のせいか。あっさりソレを消す事が出来た。

 グラージが御礼に何かできる事はないかと聞いてきたので、魔法のコツみたいなのを尋ねる事にする。

「こないだ物を空間から取り出してたな?」

「はい」

「アレ、俺にもできるか?」

 彼はまず簡単な転移魔法講座をしてくれた。

 メモ紙に転移または移送する場所へ先に記す魔法陣を描いて見せてくれたり、短い距離なら目視で飛べる所を試演してくれたりした。概ね知っている事だったが、師匠の発する感覚と超越理論より身近に感じた。

 その後に俺の力を見てくれて、空間を開く事がうまく出来ていないと言った。師匠にも言われた事だ。

「魔法使いと言っても得手不得手はありますから……どのくらいのモノを収納して取り出せればいいのですか?」

「いや、ライセンスが好きに出し入れ出来るようになりたいだけだ」

「なるほど。小さくてイイのですね。なら同じように出来るのを目指すのではなく、結界を使いましょう。アレは素晴らしかった」

 彼は俺の用途を聞くと、しばらく考えて手のひらを上に向けてライセンスが入る大きさの小さな結界を作り、同じ『それ』をそのまま好きに消したり出したり出来ないか……っと、言い出す。

 よくわからないが、結界を作り、ライセンスのかわりに中に飴玉を入れ、ソレをどこかに置くようなイメージで……必要な時に取り出す……

「そうそう、ソレを置く場所が完成する事が空間を開くって事なのです。置くのが『収納』、ソレを拡げたり繋げたりして送れると『移送』、通れると『移動』です」

「出来なくない……気がする」

 丸い飴がぺたんこでバリバリだが……これは即、ライセンスを入れるほど信頼できないが、繰り返せばいつか出来る気がした。

 礼を言って、彼らと別れ、街道を使って精霊国を目指した。送ろうかとも申し出られたが、そのまま歩いて行くと言って断ったのだった。

お読み頂き感謝です。

ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです。



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