13番目の記憶
「精霊国冒険者ギルドの者だ。吹雪で遭難した為、緊急措置として、この国に降りた。頼む、門戸を開けてくれ」
精霊国から、同国冒険者ギルドにドラゴン討伐依頼がかかったのは数日前。精霊国は自然を愛すという建前上、生態系の頂点に立つドラゴンを神聖視しており、大きく国軍を動かせなかった。
だが3日に一度、五人から六人、ヒトが喰われていく恐怖を民に強いるわけにはいかず、民の移動や物資面だけを受け持ちつつ、冒険者ギルドへの依頼でソレを払拭しようとした。
何度か、町に降りてきた所で警邏隊が戦闘を仕掛け、最後には町が壊滅した事実を挽回する為もあった。
しかしこの大陸に長くドラゴンはおらず、それも幼体だという事で勝算を甘く見積もった。いや、一番この国が敬意を払ってきた自然を舐めていたのかもしれない。
斥候も放ち、戦略もたて、こっそりと冒険者の中に国軍精霊兵士を混ぜてさえいた。雪山に慣れている冒険者も多く選んだ。
だが、それは魔道具を用いた場合の事。ドラゴンの存在が魔道具を狂わせ、冒険者達を阻み、天候が敵に回った。
それでも何とか辿り付いた冒険者はその威信をかけて、アタックをかけたがドラゴンはヒトを喰い、成熟した。飛び立てば今までの被害の比ではなく、国が潰える恐れすらあった。
それを事前に倒したのは共和国からやって来たばかり、ソロの『隻腕の赤刀使い』とその契約魔獣の氷竜グラキエースドラゴンだった……
それが情報として流れる少し前、吹雪に巻き込まれつつも、回復した魔道具を使って救助隊を組んだ者達は、ドラゴンを倒した冒険者ティを発見した。しかし天候不良で精霊国には戻れず、隣の竜神国の門を叩いた。
夜は旅人を受け入れぬ国だったが、天候の為ならと門をあけた。そこに居た五人の大人は比較的元気だったが、担がれてきた子供は息も絶え絶えだった。それもその姿を見て、竜神国側の兵士が騒ぎ出した。
「あの山の炎、やはりフラムドラゴンを焼き倒したのかっ」
「竜の……竜の加護持ちだ!」
「ドラゴンスレイヤー……っ」
「連絡を! 至急っ」
精霊国に戻る道に白魔のごとく雪が降り注ぎ、下山ルートが閉ざされた為、国を跨いだ。しかしその騒ぎ様に何だか失敗だったかもしれないと冒険者達はたじろぐ。だが子供を担いだポーターが叫ぶ。
「ちりょう、さきよ。いそぎ。この子アブナイ」
「そうだ! 頼む。どうでもいいから、治療させてくれ」
「ヤバめなんだっ」
その言葉で暖かい部屋に通され、子供の服を脱がす。
彼は自身を五歳と言ったが、それよりも小さく見える体は酷い事になっていた。
からだと言うカラダに痣や火傷が出来、頬は腫れ、頭部も背中も腹も、ぱっくり裂けた傷がいくつもあった。何よりもともと隻腕ではあったが、あったはずの肘下から二の腕半ばまでの関節が消え、鮮血を垂らしていた。
冒険者たちは終わった、と思った。簡易の救急セットしかない自分達に全てを治す手立てはない。
「熱も高い。腕の止血をして、皮膚を冷やして……」
少しでも楽にしてやりたい。そうしていると、治療が出来るという、竜官士と名乗る者が三人もやってきた。
「あの……」
彼らは真剣に小さな体と、枕元で寝かせた『鳩』を診た。
「もしもし。その……言い難いのですが」
助けたい気持ちはあれど、その対価に法外な要求をされても困る。払えるモノなら払いたいが、限界はある。もし支払い義務が発生した時、能力がなくば困るのは当人だ。どうやっても根城の国に連れ帰るべきだったか、それなら町を救った英雄としてでも囃し立てれば、イロイロ捻出できただろう。冒険者達は臍を噛むが、しかし天候はそうさせてはくれなかった。
竜官士が良い腕を持っていたとしても、それを揮ってもらうには対価が要る。瀕死の重傷に見合う対価など、一介の、金属ランクを持たない者には大変な返済になる。
彼が幼いから、可哀想だからという善意だけで動いてくれる優しい世界は多くない。依頼を出し、遂行した功労者をギルドや国が見捨てるハズないと言い切りたい所だが、現在の彼らの中に責任を取れるほどのメンバーがいない。
「あの……それ以上は……」
「大丈夫ですよ、この少年は我々の威信をかけて目覚めさせますから、ご心配なく。対価? ……ああ、なるほど。では一度、首都においでいただければ」
竜官士の言葉を信じてイイか迷った。少年は精霊国のギルドに来たばかりで、それもソロ。共和国からの推薦はあったが、そこと連絡を取っている間はない。命と首都への小旅行、比べるべくもない条件だ。だが意図がわからない。
「あなた方の危惧する状態は……起こらないかと」
「…………だが」
「この子供を死なせたくない、その一点については我々も同じと言っておきましょう」
その言葉に付け加えるように、
「この国に置いて、ドラゴンスレイヤーはそれだけの価値ある存在です」
「その子は……共和国ギルドから来た子で、スペルマスターであるエンツィア様の愛弟子であるという事だけは知っておいて下さい」
そう言った彼は冒険者に紛れた、国軍精霊兵士だった。この任務に当たる際にティの姿を見て、危険な事は承知なのにあんな幼い子を、と、上層部に文句をつけた。この世界は見た目だけで判断出来る物ではないが、今回は遠慮させた方がイイのではないかと。ドラゴン討伐の危険性を国が見誤っている節も感じていたからだ。
だが彼は高名な魔法使いの弟子で、ドラゴンの結界を破るのに最も適任と判断され、剣の腕も確かだと耳打ちされた。その実力は確かだったし、あの雪山登山にも魔道具なしで耐え。最終的に彼だけでソレを倒してしまった。
そんな流れで知っていたティの師匠の名をあげて彼は牽制をかけた。内容はわからないにしてもどう考えても竜神国に下心があるのは丸見えだ。ただ二日間共にした子の印象は、恩くらいで動きそうもない根っからの冒険者っぽかったが……その内容に竜神官が微かに眉を上げた。
「……………………了解しました。その名を聞いてヘタを打つ魔法使いなど、この大陸にはいません」
冒険者達はその言葉に少年……いや、まだ幼年とも言えるその子を彼らに任せた。
途端に部屋から追い出されたが、治療に集中する為と言われれば文句も言えない。不安に思いながらも彼らは治療を待つ。その間、使ってくれと言われた部屋は、とても冒険者が一夜の宿を請うただけで借りられる広さでない好待遇。食事に風呂、ソコとは別に寝床までも用意されていた。
用心しながら時間差をもって食事に口をつけ、暖かい部屋で交互に自分達の体も休ませながら、皆の頭の中にあるこの国の情報をボツボツと突き合わせた。
『竜神国』
まだこの大陸にもドラゴンが多く居た頃、それを切った人間『ドラゴンスレイヤー』が興した人族の国である。
現在、今回山に居座ったような大型のドラゴンはこの大陸に居ないが、小~中型のドラコが住む山がある。それらを飼いならした竜騎士団を持つ、この大陸唯一の国でもある。国策として騎竜による国際的な運搬事業の展開もあり、その発言力は強い。
国民は普通の人間にはない感覚を、ドラコと結ぶ事が出来ると言う。
「見ただけでティを『ドラゴンスレイヤー』だって、言っていたよな。やっぱ、山頂のドラゴン倒しきったんだなぁ」
「竜神族は人間でも、われわれ精霊族にないドラゴンに対する特殊な感覚が発達していると聞いています。ティにドラゴンの血を浴びた時に生じた火傷の特徴があったとか、呟いて……」
「このくに、ドラゴン信仰つよいよ」
強いが故にドラゴンを恐れ敬い共生しつつ、従わぬドラゴンを切る存在を肯定する。そのバランスはこの国の者でなくばわからない感覚だろう。
「それも加護って……あれ、耳……」
初めにティを『マスコット』とばかりに、こぞって皆で撫で回した為、目立たないソレの存在を今回の人員はほとんど知っていた。ティの頭の上にある一見獣人のような犬耳を。
たぶんこの国でアレを犬耳と呼ばぬ方がいい、皆見解を一致させた。
「また派手に貴方も……」
どこからか……『かぐつち』の呟きが聞こえて、『も』の部分が引っかかった俺は不機嫌に返す。
「表に何かあったか?」
「無事ですよ?」
暗い……長く接触する気はないのか、かぐつちの姿は見えない。俺が無言で居ると彼は追加で情報を出す。
「生きてはいますよ? ただ。わたしの声は届かないほど、深く眠られました」
かぐつちは神だ。
人間と感覚が違い、とりあえず呼吸していれば……みたいな大雑把な所がある。どうせ基本は見守りで、何をするわけでもない、いや出来ないっぽい。俺は『神』をやった事はないからわからない。
伝えに来てくれただけで御の字だ。俺ももう何もしてあげられはしない。見守ってやってくれ、そう、かぐつちに告げて、思い出して頭を振る。
「これ、竜か」
「ええ、もともと竜は貴方の化身ですから……」
そっと頭をかぐつちが撫でるのと、現実がリンクする。
「……っ」
俺がびくっとすると、手を遠ざける袂が見えた。そのままじっと見られている視線に気付き、完全に目が覚めた。
喋ろうとすると喉が痛くて噎せ返る。それも痛くて魔法で痛みを遮断しようとすると、怒られた。
身体の限界がわからなくなる、繰り返せば気付いた時には死んでいるという事になるから、と。そんな基礎は師匠から学んでいる。
戦闘中でもないのにそこまでするわけはない。喉が渇いたのだと枕元の水差しを目線で指させば、コップに水が注がれる。それを飲むのにわざわざ痛みを伴う必要はないのだと、視線で主張しつつ思う通りにして飲み干せば、周りの大人はイイ顔をしなかった。
「ココは竜神国。君達は山で遭難しかけた為、こちらの国に降りたそうだ」
そう説明する周りを囲む三人と、椅子に座り、俺に一番近い一人。最後の一人と周りの三人は衣装も迫力も違う。さっき頭を撫でていた奴。コレ、偉い奴だ、そう思いつつコップを押し付けて、枕をパンパンして無視して寝に戻ろうとする。
「おい、この御方は……」
「……話したいなら人払いをしろ」
俺の言葉に回り三人がざわつくが、一番偉そうな男が手を軽く上げれば、従い、部屋を去った。
彼に纏う細かい織が入った服。幾重にも重ねたそれを着こなし、さも普通に振る舞い、物怖じなどない。年は30を超えているだろうか、精悍で勇猛に見えた。
「私は……」
「名乗るな」
俺はその言葉を止める。
「俺は今、共和国と冒険者の身分があるが……」
随分と短くなった右腕を見せる。丁寧な治療がしてあり、薬液に浸かった布が巻いてあった。
「生まれ気付いた時には聖国だった」
そう言えば厄介ごとの匂いを醸す事は簡単だった。
隻腕の儀式が他の国の民に詳しくは知られてなくとも、右手に奴隷印が捺される事は知識として有名だ。だが彼は眉をほんの微かに下げるだけで、その真ん中にブッ込んでくる。
「お前は私の弟の、血縁だ。わかるのだろう?」
「いや、わかるわけないだろう?」
「ほう、そうか?」
顔を背ける。
彼が言った程に細かいことまではわからないが、そこそこ近い血だとどこかで感じた。あのドラゴンの叫び声を聞いてからイロイロどこかザワザワする。
「私はこの竜神国の王……弟は幼いうちに攫われ……」
「もう、おま、喋るな」
俺は左手で枕を投げて、その台詞の先を遮った。本来ならこんな口の利き方が出来る相手ではない。俺は奴隷上がりの冒険者……
「……聞かなかった事に」
王の、弟。ソレが攫われてクソに育ち、事情は知らぬなれど母親に恨まれるくらいには疎ましい俺が生まれた。そんな醜聞など必要ない。
「私には子が居らぬのだが……」
「ヤメろ……」
出ない声を絞り、睨んでみるが。彼は機嫌よく笑う。
「ははははっ、わかった。そう睨むな。エンツィアの弟子と知らなければ、もう少しゴリ押しするのだが」
本気で頭が痛い。
一体何がどうなって探してもいない身内が、それもとんでもない高位者が来たのか……よくわからないが、師匠の事を話してくれたヒト、イイ仕事をしてくれたと思う。
「見に来てよかった。しかしここまで見事に加護が出ている者は見た事がない……」
「触るなっ……」
巨大角や厳つい皮膚の加減に隠れて余り主張しないが、ドラゴンの耳……こんな形なのか……今回倒したドラゴンとドリーシャとを比べても『ドラゴン』も個体差や種族差があるから、この形のドラゴンも居るのだろう。
「竜の加護、それから従魔までドラゴンとは。これほどこの国に相応しい者はおらぬのに……一度は都に来るがいい」
「一生ありえん」
枕を返してくれつつ、カラカラと笑って去っていく彼と、すれ違いに顔見知りの……っと言っても二日ほど行軍を共にしただけだが……冒険者が入ってくる。
「心配したんだゾッ! 瀕死だったんだから」
「ほんと、ゆっくりヤスむ。むり、いけない」
「いや、すぐにこの国を出る」
俺が目覚めるのに一週間。彼らは精霊国と連絡を取りつつ、待ってくれていたらしい。体を労われと言われるが、一分一秒、早くこの国を出ようとする。
だがここで問題が起こる。
「ない、だと……」
身に着けていたギルドのライセンスが無くなっていた。ドラゴンとの戦闘で焼け溶けたのか、下山時に落としたのか。わからないがソレがない。
そして確かに左腕を飾っていた共和国の身分を証明するリストバンドもなかった。アレは分厚く、国の魔法がかかっており簡単には外れるモノではない。ココに連れて来た時に、冒険者達がわざわざ注意して見ていたわけではないが、ちゃんと着いていた気がするという。
「あの竜官士……」
俺の治療は冒険者の手に負えず、この国の竜官士という者に任せたらしい。それも冒険者を排除して。
「吹雪で遭難した者だからと善意で『入国』を受け入れたが、身分がたたない者を『出国』させるわけには参らん」
彼らはそう言って俺の出国を阻む。
「何もずっと、とは申さぬ。我が国の首都の冒険者ギルドにて再発行の手続きを行いたまえ。又は共和国に問い合わせをかけると良いだろう」
この再発行、一度やったがとても高い。目玉が飛び出るほど高い。それもギルドに預けていた金が、再発行には基本使えない。なぜならライセンスが無いから引き出せない。前は共和国の身分証があったので、信用貸しで借りてすぐ返済する形で用意できた。
以前に無くした時、師匠から酷く怒られた。その時、もし二つ同時に無くせばもっと大変だから、とも言われた。
「やられた……」
今から共和国に問い合わせても冬の間は物流が滞る。要請してもリストバンドが届くのは春だろう。冒険者が精霊国から一筆をもらってきてくれたが、竜神国は難癖をつけて俺を出そうとはしない。精霊国も俺の働きを認めてくれて、ギルドにも早くの帰還報告を求められている。まぁ騒いでいるっぽいので、少し時間が経ってほとぼりが醒めて行きたい感じだが。
師匠に頼めば来てくれそうだが……それは本当に命がかかった危機の時にしたい。怒られるの、や……だ。
「皆は帰国してくれ」
「ティは?」
「冒険者ギルドにかけあってみる」
竜神国の首都にある冒険者ギルドへ。行きたくないが、仕方がない。大きなギルドの方が話がつけやすいのは確かな筈だ。
「俺は都までティに付き合います。皆は戻って」
三人の冒険者とポーターが一人。彼らとわかれる。彼らが戻って探してくれなければ、無事に下山を果たせはしなかったろう。
まだぐったりしているドリーシャは懐の中に入れ、旅路につく。俺もホントは寝ていたいが、そうもいかない。
まったくラスタに会える気がしない。でも緑琥珀の入った箱はちゃんとあった。コレも一緒になくなっていたら本気で暴れてやる所だった。彼女に捧げると決めたモノを触られるだけでもイヤなのに、盗まれるとかない。
だから、と、ライセンスや身分証を不当に取り上げられるのも良いわけナイが。
「いろいろ、ティには感謝してる」
「待っているから、また一緒に仕事をしよう」
「まだカンペキじゃないよ。むり、しない」
「ティ、気を付けて」
「……ありがとう」
冒険者の内一人、どうしてもとついて来てくれたのは、風精霊シ・ザール。皆とは離れてから、自分がただの冒険者ではなく精霊国の兵士だと教えてくれる。
「権限はない下っ端ですけど。ティに町を、国を救ってもらったから。少しでもお返しをしたいんですよ」
師匠とのつながりを告げて牽制してくれたのも彼だった。
それでも俺から身分証を奪うのだから、よほどこの国は俺をどうにかしたいらしい。
そして旅路の間に毎度の質問をしてみる。
「え、エルフ? 俺、クオーター」
「シーが?」
「ああ。だいたい……エルフのばーさまが1600の時に、精霊族600歳のじーさまとの間にかーさまが生まれたんですよ」
エルフは1000歳ぐらいで成人、2~3000歳くらい生き、精霊族は1000歳くらいが寿命。
ハーフやクオーターにはエルフの寿命は余り引き継がれず、僅かに1200歳くらいまで伸びるが、概ね1000歳がシーは自分の寿命だと思っていると言った。
「俺、今百歳? あ、百二十……ニですよ?」
「じゃぁシーは……ハイエルフって聞いた事あるか?」
「ん? んーーーー? ばーさまのトコに昔から知り合いと言って来ているエルフが密かにそうなんじゃないかって思っているんです」
男性だけど目玉が飛び出るぐらい綺麗なんですーーっと言う。ばーさまからは『伝説』だけれど、やはりハイエルフ様は未だにエルフの森の最奥にちゃんと居て、エルフの守り神だと言われているとこっそり教えてくれた。
彼は敬語は職業病なんですよなどと話しながら、10日程かけて首都に辿り付く。
「だから再発行費用は俺が見るって言ってるんですよ!」
「……再々発行ですから。こちらのギルドは使われていませんしねぇ。便宜を図るには依頼をこなしていただきたいと」
金はシーが一度立て替えてくれると言ってくれていた。ライセンスを取り戻したらすぐに利子付けて返す約束もしている、彼は利子も返却も要らないとさえ言ってくれた。
「依頼受託期間は仮ライセンス発行いたします。寮、支度金も出しますが、ライセンス発行は当ギルドまでお戻りいただきたいと。その時までに共和国の身分証もどうにかいたしましょう」
「つまり……再々発行料金は必要ないだろ」
にこり……受付のおb……お姉さんが笑った。
「彼の方がお茶でもと。ええ。ですので1か月ほど頑張っていただければ、と」
「その後は自由にさせてもらう」
「お伝えします」
「! いろいろそれでイイのですか?」
俺が離席すると、シーが追ってくる。
「一月ほどココに居て欲しいらしい」
「それだけじゃすみませんよ……たぶん」
「その時はまた考える」
それまで暇だ。無駄飯を喰うのも何なので、何か依頼を引き受けようと掲示板を見る。片腕を更に切ってしまったのでバランスが悪い。調節が必要だ。
「この依頼……」
子供が行方不明、その消えた足取りを探して欲しいという記事に手をのばしかけた時、別の手にぶつかる。
「あれ? 君は……もしかして隻腕の赤刀使い?」
「……どこかで」
「あーーーーこないだ話してたヒトですよ、ティ」
「あれ、シ・ザール? 精霊国の兵士じゃなくて……冒険者に鞍替えしたの?」
そこに居たのは共和国の祭会場で歌を披露していた生エルフ、その人だった。




