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【本編完結】『元五歳で魔法使いにはなれなくなった男だが、ヒヨコはまだ健在か?』  作者: 桜月りま
本編

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10番目の記憶

今週と来週は火曜~金曜:時間不定期で更新予定です。

「ティーほんと、すげーよ」

「あのッ聖国騎士の顔っ」

「おちょくるのも大概にしてあげないと……ははっ、可哀想じゃん、最後なんか涙目じゃなかった?」

「明後日、本当に行っちゃうの、ティ」

 ギルドで清算を済ます。

 半年通っているので、顔見知りはかなりいる。それも五歳の隻腕、赤刀一本、それもソロ。師匠の弟子と言うのも目立つらしい。

 魔法使いと呼べる者はこの星でもけして多くない。そしてよい師に恵まれる事はもっと少ない。俺の師匠もあまり人には関わらない。住み家だって他国にもいくつも持って関わりを浅くしようともするが、長く生きていると誰にも関わらないわけにはいかない。

 当然師として望まれる事もあるが、それでも人を育てるという事は継続的に時間を奪われるという事。更に誠心誠意育ててもまっとうに育つとも限らず、ここ数百年は誰も弟子を取っていなかったそうだ。その分、国や組織の相談役や理事などを摘み喰う程度に請け負って、体裁を整えているらしい。

 そう考えると俺に二年くれると言ったのは破格の扱いだった。それを半年と切ったのだから、聞くものが聞けば俺を貴重な機会を無駄にした無作法者だと謗るだろう。

 師匠から見た俺の魔法使いの腕は『破壊・防御特化型』だ。

 まず火、水氷という相反属性の精製が出来る。それ自体、珍しいらしい。だが今の所、極小か最大かという振り幅でしか使えない。おかげで『破壊』に特化し過ぎていて使い所がない。

 良すぎる耳の遮音法には既に魔法を使っていたらしく、その派生で防音物理結界など各種防御壁構築は数日で出来るようになった。物理壁として土壁は作れなかったが、岩壁は少しなら作れるようになった。

 治癒系はかすり傷程度なら何とか血止めは出来る。自分自身の感覚遮断で痛みを抹消するのは、即できた。治癒は他人には施すなと言われている。かなり刺激が強いらしい。

 瞬間移動や収納と言った空間干渉系、自由に飛行する魔法は使えない。ジャンプ力や走行を補助する身体強化はよく出来、刀を自在に振り回すのも更に楽になり、片腕で大型の魔獣を屠るのに役立った。

 師匠から一番教えられたのが、他の魔法使いが魔法を使うと浮かぶ『魔法陣』を、自分の使う魔法に合わせて投射する方法だった。俺は魔法の派生が違うらしく、魔法陣が浮かない上、呪文まで唱えないと目立つからと教えられた偽装。

 若い頃は使ったものだが、まさかコレを一番初めに教える事になるなんて……と、師匠には以降も都度、残念な子扱いされて。

「約束の半年で形にはしたから、後は自分で努力しな」

 その言葉を受け、秋祭りの剣術大会への出場依頼を終えたら旅に出る用意を進めていた。

 そう言えば師匠の数少ない弟子、今となっては兄弟子に当たる赤薔薇の小悪魔イルを、ここ1000年ほど姿を見ていないと彼女は言う。

 不老だけど不死ではないからね、殺しても死なない子だけれども。そう軽く言う師匠だったがどこか寂しそうに感じた。もし旅路で見かけたら連れて来ねば……などと考える。

「勝つには勝ったし、よかったー」

 そう言って剣術大会の結果で嬉し泣いていたギルド長が、急用で呼ばれて部屋を退出する。それを横目で見送って、

「これとこれ以外は買取。後、いつもの。小銭で」

「本当にいつも堅実ですね」

 最後に急遽決まった統一戦で貰った商品は、緑琥珀と師匠への土産にと光貝ナイフだけ取って売りに出す。

 光貝は海の底に居る生き物で、ソレで作ったナイフで切った動植物は鮮度が長持ちする。家庭菜園を弄っては香草を育てている師匠への贈り物に選んだ。

 緑琥珀はいつかラスタに会った時、自身の初優勝と共に捧げるつもりだ。彼女が受け取ってくれるかはわからないけれど。ああ、まだ、彼女を考えるとドキドキして落ち着かない。だからそこから思考を外す。一体、何だと言うのだろう、自分が自分でわからない。

「全部でいい額になると思いますよ」

 ギルドの職員が処理をしてくれる。

 冒険者ギルドは世界の危機対象である魔獣などを排除し、生じた資源を運営資金に、一つの国や一つの思想に縛られる事なくサイクルされる団体である。創設は古く、創生の頃に遡るとさえ言われる、国際中立機関。

 殆どの文明各国にかなりの窓口があるし、銀行の様に使えるので、とても便利だ。

「ではまた機会がありましたら。この度は統一戦優勝まで勝ち取っていただき、ギルド職員一同、感謝いたします。旅行より戻られましたら、ぜひこちらに顔を見せて下さい」

 統一機関であっても他のギルド窓口との水面下でのプライドとかはあるらしく。今回の勝利はそれを優位に保つネタの一つとなったようだ。

 他職員にも黙礼され、他ギルド員に祝われ囃されつつ送り出される。五歳児だからと侮られる事なく使ってくれるのは、半年で積み上げた物理もあるが、見た目だけでヒトが判断できない世界だからだろう。際物扱いであるのもわかっているが。

 ギルドの外に出ると、明日の祭最終日に向け、よく賑わっていた。バサバサと羽音がすれば頭の上に白い鳩。

「ドリーシャ、今日は一度、師匠の家に戻る……明日の魔法演武会を見て、そのまま発つ」

 調子よく鳴くコイツ。わかっているかわかっていないかは不明だが、すっかり信用してしまっている。

 これの正体は魔獣の『幼生』だと師匠は言う。自分の肉を喰わせ、血を与え、名までつけた事で意図せずテイム、手懐けを通り越して『契約』に至ってしまっていると。

「普通は血の一滴も交わせばいい所を、手首、それも右手を捧げているから、その結びは強い」

「右手?」

「右は陽を司り、利き手である事が多く、そうでなくとも重要な部位だ。回復が望める血や髪なんかとわけが違う。ん?……何の幼生か? そりゃ、育ててみればわかるだろう?」

 知りたきゃそれまで長生きしなっっという師匠の言葉を思い出しつつ、祭りを見て回る。美味しそうな露店のモノを数点買って、肉串を食べていると『いい音』が聞こえた。

 フラフラと吸い寄せられるように近づくと、旅の楽団が間欠泉の広場で演奏している。その横で灰色の髪の男が歌っていた。その声はたいそう美しく、聴衆を集めていた。それも容姿が尋常じゃない精巧な作りをしている。それに耳が長い……

「エルフ?」

 隠蔽系のなにかがかかっているので、回りはそこそこ綺麗な人間と思っているようだ。まぁ、あれだけの美しさをひけらかせば、何の犯罪に巻き込まれるかわからないので、当然の対策だろう。珍しい種族と言うのは狙われやすい。どれだけ時間が経とうと、ヒトの生活がそこにある限り犯罪とは無くならないものだ。

 ふと、その透き通った灰の瞳が俺を捉え、笑いかけてくる。何か探るような、その視線は気のせいではなく間違いなく俺を見ている。この歌が終わったら話しかけてみよう、そう思った時、耳元で声がする。

『まだこの国にいるかい?』

『え? はい。師匠……依頼で今日は試合……』

『ああ、そうだったね。ちょうどいいから戻っておいで。至急だ』

 強制通信は切れた。

 せっかく見つけた今生初の生エルフなのに。

 まぁ今晩は戻って、明日の午前は片付けをするつもりだったし、光貝ナイフも渡したい。

 まぁ、旅もすぐそこだし、急がずともエルフに会える機会はそうせずにあるだろう。そう思って急いで海岸へ移動した。






「えええええええええっ……あの子、今日の試合の隻腕の子来たよねっ! 目、あったし。ね、居たよね? エルフの事を聞いて回っていたって言うから話しかけてくると思ったのにっ」

 美声の主、灰色の麗人ウィアートルは辺りを見回し、客達は気圧されつつも。本日昼間のメインイベント剣術大会統一戦優勝者の姿を覚えており、頷いた。

 ウィアートルは無くなった路銀を稼ぎつつ、優勝者の『彼』が来ないかと思って比較的わかりやすい変幻をして、ステージに飛び入りで歌ってみた。彼の声は狙わずともそう言う『運』を招き寄せる。思惑通り、先ほどその姿を見たのに。一曲歌い終わる間に隻腕の少年の姿は広場から消えていて。

 今日の試合で面白い子だと思ったし、何故かエルフを探しているようだったから、話したら楽しそうだと思ったのに。

「まぁ悪意がありそうではなかったから、関係ないと思うけれど」

 エルフはいくつかの種族がいるが、どれも希少でエルフの森を出る事は少ない。ただやはり変わり者はいるわけで、彼、ウィアートルもその一人だった。

 彼は森を離れた同族を気遣って、各国を巡回をしているが、たまにハタと消息がつかめない者が出るようになった。それも暫くすると戻ってくる者もあるが、口を閉ざして大抵エルフの森に引きこもってしまう。

 数か月前ずっと戻ってこないエルフが契約していた妖精だけ、死にかけで家族の下に戻って来た。言葉をしゃべれない下級妖精は、すぐに死んでしまったので何もわかっていないが、ウィアートルはそれが引っかかっていた。

「隻腕の赤刀使い、かぁー……かっこよかったな、あんなに小さいのにすぱすぱってさぁ。うん、そろそろ一度、家に戻って今日の話でも皆に聞かせに行こう!」

 機会があれば、またどこかで会うだろう。会ったらまず握手してもらおう! などと思いながら、歌で稼いだお金を片手に、ウィアートルは歌を聞いてくれたお客に愛想よく答えながら秋の祭で浮き立つ街並みに消えた。






 その頃、祭りで明るく騒がしい街を背に、港にいた俺は、ぱしゃんと波の上を跳ぶように走っていた。

 残念ながら今の所、空中を鳥の様に飛ぶ事は出来ていない。だが身体強化で走ったり跳んだりは前以上に出来ており、水の足場を凍らせて走れば、師匠の孤島まで約二キロくらいなら十分もかからず渡れてしまう。

「ただぃ……」

「いくよ!」

 玄関を開いた俺の姿を目に入れると師匠はパチリと指を鳴らし、強制的に転移する。

「ま。……ど、こ?」

 ソコには十人以上の大人が、机を囲み、額を突き合わせていた。入ってきた途端、すごい目で睨まれる。

「ほら、火力。持ってきてやったよ」

「し、師匠? 俺、旅に……」

「延期にしな」

 机を囲んだお偉方の中に、今日の剣術大会で見たお偉い来賓の姿がちらほら見えるのは気のせいだろうか。ギルド長の顔も見えた。

「聖国が軍事行動を起こしている。聖国首都から南下して、そのままこのコースで共和国に押し入る気だ」

 俺は机の近くの高めのイスに立たされ、机上の地図を見せられた。

「聖国騎士団副団長、あれ、ワザとに剣術大会を引きのばしてたんだよ」

「祭に乗じて?」

「ああ、護衛を乱して。客賓やうちの大統領の首、狙って来たんだ」

「ははははっ! 逆に君が彼を乱していたせいか、あんまりうまくいかなかったようだがね。お陰で私の首は繋がっているよ、ははは」

 上機嫌で笑うオッサン、今日祝辞を述べ、統一戦を許可したその人だった……そうだ、大統領か。気にもしなかった。

 いやいや、俺はどこに連れて来られたんだろう。

 聞かない方がいい気がするが、ざっくりだが、しっかり話を聞かされる。

 半年ほど前、聖国の聖都があるその隣の町で、有名な奴隷商の店が盗賊か何かに襲われたらしい。その店は聖国が裏で仕切っていた店で、その収入はかなり高く、国を支えていたようだ。だが他の奴隷商から突き上げられ、国は事業から撤退せざるを得なくなった。

 その上、違法薬物を表で禁止、裏で大金と引き換えにバラ撒くという悪事まで晒され、聖国は不審の嵐が吹き始めた。

 そんな中、その町の聖壁に魔獣が押しかけ、喰い破り町が蹂躙された。どうやら北の森の生態系が突如崩され、普段手前にいる魔獣が多く狩られていた為、押し出される形になったそうである。

 甚大な被害で町はほぼ壊滅。町を三方囲み、空にも結界、逃げ場のない空間に奴隷も、国民も、貴族も犠牲になった。

 それを押し隠すのに例の聖国騎士団副団長の名が駆り出され、彼は町の壊滅を喰い止めた英雄となった。

 ただそんな工作で国民が騙されるのは最初だけ。その町は国の奴隷を産出する場所であったのに、それがなくなった事により、聖都や他の町で人手不足が慢性化。

 更に流行り病が蔓延したが、特効薬の魔獣の牙が魔獣の生息域の変化で手に入りにくくなり、貴族が専有。国民がバタバタ死んだらしい。

「そこで不満の矛先を国外に向ける為、開戦準備中って情報を得ているのが現状だよ」

 上手い事『神が与えたもうた試練』とか『神のお言葉』とかで民を動かすらしいが、そんな国にどうして従い続けるか正気ではない。

「神印のせいかもしれないね」

 師匠が小さく言ったが、動いている事実が間違いないなら、理由は後でイイ。とにかく止めなければならないが、ただの軍事演習だと言われれば、抗議しか出来ないらしい。

「それでティ、頼みたい事がある」




 翌日。秋の祭、最終日。

 まだ普段なら麗らかな時節。夜になっても少々肌寒い程度でカーディガンの一枚も羽織ればいい時期。

 しかしその夜、魔法演武会の最後を彩る『魔法の花火』が打ち上げられた時、ほとんどの者がコートを着込んで空を見上げ、花火の中に雪が舞う程まで気温が落ち込んだ。

 祭りの露店ではコートやマフラーなど冬の装いの売り上げが爆上がりで、仕入れで当てた商人達はホクホクだったようだ。

 その夜半から一週間、共和国やその周辺国の一部地域に大量の雪雨が降り注いだ。

 それにより聖国で大規模に行われていた軍事『演習』に出ていた部隊がほぼ壊滅したとか、しなかったとか、そう言う噂が流れたが、聖国の機密の為、詳細は不明である。

お読み頂き感謝です。

ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです。

贅沢だけどっ…感想なんかもいただけたら嬉しい……です。

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