9番目の記憶
「悠久の都?」
「精霊王は人間を嫌うが、獣人なら楽に通れるかもしれない。ソコから出ている馬車に乗ればエルフの森に行けると聞ぃ……」
「剣術大会の少年部出場者ゃ~準決勝出場者の020番、人族ティと、同じく人族の108番キラはどこだ」
「……教えてくれて感謝する」
獣人ではないのだが、そう思いながら俺は呼び出しに答えて手を上げ、話を切った。呼ばれた方向に動く。本当はもう少し話が聞きたかったのだが、仕方ない。
「何、話していたの?」
「エルフについて?」
「ああ、僕にも聞いたよね~辺境領にはお婆さんハーフエルフが一人しかいないし……」
目の前の彼から既に先ほど聞いた話が繰り返されそうになった時、控室から会場へ出場を促すドラが鳴る。
『右の緑帯選手ぅ~人族ぅ共和国出身、『隻腕の赤刀使い』こと、ティーーーー左の青帯選手ぅ~同じく人族ぅ北方辺境領出身、『北十字の新星』こと、キラぁーーーー』
「……このコール、恥ずかしぃよね」
「全くだ」
ここは共和国の町外れにある競技場。毎年秋の祭のイベントとして行われている剣術大会。その十歳までの少年部の準決勝。
俺は半年前、師匠の指導を受けると同時に冒険者としてギルドに登録した。師匠の指導で倒した獣や魔獣、採取した草花などを正規で売買する方法を身に着け、交渉術なども学ぶ為である。
ギルドはわかりやすくアルファベットで下級はFからA、それ以上は銅・銀・金・白金とあがる……らしい。それ以上は称号としてダイヤとかエメラルドとかの宝石名や、救国とか、討伐魔獣数とか……果たした事に対して称号が与えられたりするらしいが、俺には関係ない話だ。装備代や飯代など将来困らないくらい儲かればいいなと思っているが。
そう言えばアルファベットは各ギルドの階級でしか使われているのを見ない。イルみたいな魔法使いが、地球から輸入した文字かも知れない。
それは置いておき、ギルドはイジメもなくば、仕事さえできれば子供でも受け入れてもらえた。
師匠の後ろ盾が効いたのもあるし、最初に買い上げてもらったあの森で切りまくった魔獣『イーター』の牙が、ちょうど流行り病の材料で、不足気味だった為、とても喜ばれて心証を良くした。
色違いの牙は更に希少で、重症患者の治療に貢献し、危篤だった領主の命が救われたとか何とか。
以降も師匠の指導の副産物として獲得した素材や、討伐証明を物理で積み上げ、半年でBランクまで上げた五歳児を大人は面白がった。
今回は登録ギルドの指名依頼と言う形で俺は大会に出場、会場で勝利を重ねていた。何でもプライドが掛かっているらしい。
準決勝の相手は少年キラ……彼も奇しく五歳。
各国や町、各種ギルドなどから推された、優秀な十歳までの子供が揃った時、最後の四人までに五歳が二人も含まれるのは異常な状態だった。
それも……二人とも黒髪黒目という、この世界の人間では余り見ない濃い色を持つ少年だった。
俺は顔を半分隠していて、体格が小さく、隻腕の方が注目されただけで済んだが。
この少年、たぶん『表』だ。もう会う事はないと思っていたのだが。
気付いたというか、何か、それだとわかった。彼もなにか感じるのか、それとも気質なのか、屈託なく俺にしゃべりかけてくる。
聖国、あの国で生まれ育って大丈夫なのかと心配に思っていたが……別の場所で育ったようだ。茨の黒墨はもちろん、神印もその手にない。
俺が相当、流れに流れてあの国に辿り付いたのか、意図で放り込まれたのか最早わからないが。
健康そうで、まっすぐ笑う彼の姿に、よかったとただただ思う。
勝負はアッサリついた。
「ティーーーー優勝おめでとう」
性格を現したかのような素直な剣筋の彼にすんなり勝って、その後、俺よりはるかに体格が良い十歳にも、即勝ち出来た。
師匠に鍛えられたのだ、当然の結果で特筆すべき事は何もない。
「おーい、キラぁー三位っよかったよぅ~」
「あ、マコちゃん! ありがとーぉ。じゃ、ティまたね」
親友らしき少年と行ってしまう彼に、俺は手を軽く振るしか出来なかった。何か言ったら、不要な事まで口にしそうだったから。
その後、俺は少年部以外の青年・壮年・熟年の各優勝者と共に並べられ、主催の共和国大統領や客賓からの祝辞を受ける。面倒だったが、仕事だと我慢する。
だらだら話があった後、明日は祭の最終日、魔法演武会がここである旨、説明する司会者の声が拡張魔道具で伝わる。
やっと終わる。
俺はそろそろエルフの森と言われる場所に向かう予定だ。俺は空間に干渉する魔法は手に出来なかった。その為、自力で移動するしかない。師匠が送ろうかと言ってくれたが、ただ森に行くだけが目的ではなく、ハイエルフを探し、最終はラスタに会う為だ。彼女の匂いだけでそれを追える事は流石にない。犬じゃないのだから……とりあえず情報を集める為に足で歩く事を選んだ。
この会場から師匠の島はそう遠くないから、もう一度会って出かけようと思っていた。まだあの家を出て二週間、懐かしい程は時間が経っていない。
だがこの世界で長距離の旅は今生の別れとなるほど、命は軽く、国境や土地の物理は人を離す。
最後に師匠の私室をもう一度片付けておきたい。普段使用する場所は綺麗なのに、師匠の私室はすぐに魔境へ変身するから。次いつ来てお世話できるかもわからない、最後の奉公。
その前に祭りの出店で師匠へお土産を買い、普通は会えない国から来ている商人を捕まえてエルフの情報を……などと、そう思っていた時だ。
「できれば、各国の交流、世代の交流を深めるためにも、ココに居る優勝者同士で、エキシビションはいかがだろうか?」
面倒な事を言い出したのは壮年部優勝者、聖国出身の男だった。ざわっと揺れた観客の声を俺は拾う。
彼は少し前まで聖国の聖都近くの町で警備隊長だったが、北の森にある、聖壁が破られ、魔獣が流入する事件で活躍。その功績が認められて、聖都の騎士団副団長に抜擢された人物、らしい。
……貴族らしいので、もともと地位を高めるための出向中、イイ感じに栄転出来たのだろう。顔立ちも精悍で、まだ妻子が居ないらしい。少し年嵩だがいい物件らしく、黄色い声も聞こえる。
「認めよう。まずは少年部と青年部、壮年部と熟年部に分かれ、その勝者同士が戦い、雌雄を決するがいい」
おいこら、エキシビションの域を超えて、統一戦だ、それは。
俺が受けたのはとりあえず試合に参加して初回三戦勝利で依頼完了。負けたら減額、以降勝利ごと、更に優勝したら追加報酬。だがそれ以上があるなど聞いていない。
喜ぶ観客の波に、俺は依頼ギルドの責任者を目で探す。
「契約外だ」
俺が不参加表明を出しそうなのに気付いたギルド長が『開催国の優勝者が辞退とかないからっ! 追加予算出すからぁ~』と涙ながらに叫んでいる。耳がイイ俺でなかったら聞こえてないぞと思う。
不満そうな顔でもしていたか、一番低年齢が勝つはずはないと侮蔑の表情で見ていたどこかの客賓が、
「勝者に名誉だけでは示しがつくまい」
そう言って私財の指輪を商品に上げる。そうすれば互いの国の名誉や意地が交錯し、そこそこ良い商品が集まる。
その中に女性の客賓が出した、美しいブローチが目に止まる。……金で縁取られた緑琥珀だ。かなりの大きさで、中には『花』が美しく咲いている。細工物ではない、天然物だと纏う魔力でわかる。
緑の宝石と言えばエメラルドやペリドットを思い浮かべるが、この宝石はそれとはまた違った優しい印象を与える色をしていた。
「ラスタっぽいな……」
彼女の瞳は青から緑に変わる不思議な色合いをしていたが、笑う時に陽が射すと春の新芽を思わせる、いつもより優しくはっきりした色になる。それを思い出して密かに笑う。
「……奴隷だろう、お前は」
四人で一旦控室に戻るように言われ、指示に従っていた俺の耳が、掠れたように出された言葉を拾う。綺麗なラスタの緑を見つけて心洗われた気分だったのに、急転直下、超不機嫌に油を注いでくる。
声をかけてきたのは壮年部優勝者。聖都の騎士団副団長、この面倒な時間をわざわざ作った元凶だ。
「約半年前、脱走した黒髪黒目耳持ちの幼い奴隷がいる。その特徴が見事に合致しているんだ。その剣筋、更に鋭くなっているが、間違いなく……」
「知らん」
一蹴する。証拠はない、あるとすればドリーシャの腹の中だが、消化し排泄して、もはやこの世のモノではない。俺の腕には共和国共通のリストバンドがあり、冒険者ライセンスもある。
そう言えば一度ライセンスを魔獣に飲み込まれて胃酸で溶け、再発行に余計な金を持って行かれ、師匠にめちゃ怒られた嫌な思い出がある。片手だとミスが起きやすいし、落とさないよう気を付けねばと思いながら、しつこく睨んでくる男に言葉を返す。
「脱走とは。聖国の奴隷は管理が杜撰なんだな」
「なんだと」
「奴隷には犯罪者も居ると言う。そんなモノが野放しでは治安が怖いな」
俺がもう一蹴し、言い返した後、彼が激高したため人目を集めている。俺は小さく言ったつもりだが、参加者の耳を掠めてしまったらしい。聖国は犯罪者が野放し……噂がきっと立つだろう。
「チビ助優勝者ぁ、俺達呼ばれるぞ!」
「隻腕のっ、待てっ」
入り口でそわそわしていた、青年部優勝者の声で俺は控えを出て行く。壮年部の男が放つ静止の声は無視だ。お前のせいでやる事になった追加試合、睨みたいのは俺の方だ。
「お互い。いい試合を」
「ああ」
青年部の彼はとても大柄で、気の良い笑みを浮かべていた。ぽふぽふ頭を撫でられる。
予選の三戦目くらいだった時に何故か同じように触られて、耳に気付かれてしまい。どうも仲間意識でも芽生えたらしい。彼の頭にも耳がある。ピンと立っていて、髪に紛れる俺のヘタ耳とは違うが。
またあの恥ずかしいコールの後、相手と対峙する。先ほどよりコールの内容が少し詳しい。
それによると相手は二十歳、青年部の最年長年齢。獣人国、種族は狼だという。嫁さんが美人ってどこ情報だろうか。
しかしこんな事になると思っていなかったから、他の出場者の試合などまったく見ていない。旅行に供え、控えやお祭り会場でエルフ情報探して回っていた。
まぁ初見で戦うのは感を養うのに良い。ただ殺すだけの魔獣や夜盗討伐より試合は気を使う。めんどくさがらず、いい経験が増えたと思おう。
それもキラ達同年代は切り殺しそうで怖すぎた。今回はそこまで気遣わずに済むだろう。
「参る!」
試合開始、彼は礼儀としてかそう言うと、獲物を振りかざした。
彼の獲物は大きな鎌だ。剣術大会と銘打っている為、剣に拘る者も居るが、刃物であるなら武器は何でも認められている。
引き締まった大きな体躯、それから繰り出される大鎌は、リーチ的に俺の背後まで一歩で簡単にのばせる。そのまま引かれれば俺の首はすぐに持って行かれるだろう。寸止めしてくれるとは思うが。
ブンと唸る音はそのまま武器の重さと威力に直結する。それを自在に振り回す胆力に肝をやられる者も多かろう。観客は面白そうに声援をあげ、歓喜に満ちる。
俺は刀を抜かず、素早く彼の攻撃レンジの内側に入る。鎌は大きく振り回す分、身の回りに近くなれば攻撃がしにくくなる。彼は攻撃しにくい場所に入られない様に立ち回り、引きや柄についた小鎌の切り上げで対処するようだ。
「おいおい、入ってくるのかよ」
縄跳びのように跳び、しゃがみ。避け、何度も繰り返し、タイミングを見て膝元に滑る様に入り込む。
「シッ!」
蹴りと小鎌の攻撃が来る前に、手中の赤い小刀で喉元を突き上げる。顔を上にあげて反る事で避けられるが、そのまま俺は高さを取って、その顔面を足で踏ん付け、背後に降りつつ、反転し、反撃を警戒する。
「なんっ……ってぇ、動きだよ」
鼻を押さえ、涙目で睨んでくる。男前が鼻血で残念だ。短い小刀に力を込め、赤刀本来の長さに戻し、切り込む。
「わっ……その年で戦闘狂かよ!」
「でもないが、よく言われる」
目つきが悪いのはわかっているが、人と戦うとそう言う旨の事を言われる。自由に振り回し、相手と対峙するのが楽しいだけなのに心外だ。
刀で鎌刃を流し、決して受けない。受ければ俺の小さい体など吹き飛ばされる。ただ、凪ぎ、流し、舞う様に避け、滑る様にしつこく懐や背後に入り込んで……
「参った!」
最後は膝をかくんと折ってやり、そのまま引き倒し、その反動で馬乗りになり、その首に刀を当ててやる。
短い試合だったが観客は沸いた。
勝負は早い方がイイ。
ここでは個対個だが、魔獣達はそうはいかないし、大人の体力に張り合っても勝てないし、意味はない。
「強いね。今回の子供が弱いのかと思ったけど、君が強すぎたんだね。俺は白月の番人ユエ、これから旅をするとか話していただろう? 獣人国に来るなら名前を出せば優遇出来ると思うよ?」
「感謝する。俺はティ。この頃、隻腕の赤刀使いとか、恥ずかしい名前で呼ばれているが」
握手して、会場から控えに戻る。
壮年部と熟年部の試合が始まる。熟年部優勝者はドワーフで、斧遣いの強戦士だった。でも試合では剣を使うらしい。厳ついけど、すれ違った時に飴くれた。ギルドでも見かけた事がある、いいヒトだ。
俺が試合を見に行かないのがわかったらしく、ユエが話しかけてくる。
「そう言えばティ。あの壮年部のヤローに何か恨みでも買っているのか? さっき試合前に難癖つけられていただろう?」
「知らん。それよりエルフについて何か知らないか」
「エルフねぇ? 住んでいる森は精霊国の向こう側だから、獣人国には多くはいないなぁ……行商人がエルフの薬を仕入れて来るから、共和国の三割は安く買えるかな?」
高いけど効くしなぁ……エルフは見た事あるけど綺麗だよなぁ……などとユエは話す。
「でも何でエルフ? 誰か知り合いでもいるのか?」
「いや……」
3000年前に、もしヒヨコだったら貰ってやると言ったのだと口にしたら信じるだろうか? ラスタは別に好きな奴がいるし、そんなに長い間誰も居ないなんて……彼女は綺麗だから放っては置かれないだろう。それでも、もう一度会いたい。
「好きなのかよ?」
「嫌いではなかった」
「へぇ。マセてんなぁ……愛の告白しにいくのかぁ」
「こく……は、く?????」
わわわわわぁっという歓声に、俺の声は飲まれる。
俺の……ラスタに会いに行くという行動は、確かに捕らえようによってはそうなるのか。いや、そうとしかならないのか? いや、この世界でどうしようもない状態で、死ぬように生きるしかないと思った時に、彼女を思い出した。
会いたいと思った。
ただ。それだけ。
最初は一目、会いたいくらいだった……ような……
その渇望が何なのか、俺にはわからない。けれどきっと会ったら離れられない。離れたくなくなる。
その時、彼女が他の男を選んでいる事は念頭に置いて、嫉妬にだけは狂わない様に……ただ会わないと言う選択肢はない。って、言うか、嫉妬、だと?
「どうしても会いたい……それって、頭、おかしいのか?」
「ぇ……普通の感情だろ? ああ、恋してんだなぁ~いいな、若いって」
「こ?」
「会って、告白して、砕けて来ーい。そーいうものだって、人生」
そう言うモノだったろうか? 人生は食うか食われるかでないのか? ユエは若くないのか? いやいや……
「砕けたらどーなるんだ?」
「人に依るかなぁ~相手に迷惑かけなきゃ、そのまま好きでいるもヨシ、次の恋にいくもヨシ。引きずるよりはスッキリするから」
「そ、うか……」
動悸が酷くて、頭がフワフワする。
そんな状態のまま、コールされて、ユエに送り出される。
対戦相手は壮年部優勝者だった。
彼の獲物はロングソードで。凄い顰め面で試合開始直後、打ち込んできた。
「あ……」
色々と動揺しており、力加減が出来ない。すぱっと彼のロングソードが切れた。折れたのではなく、切れた。
まだ刃があるから、そのまままた打ち込まれて、すぱん、すぱん、と。切ってしまう。切れすぎだ……俺の精神状態を表しているのかもしれない。
「済まないが、その剣ではもう……ティ君、交換を認めるかね?」
審判が相手の武器交換を認めるか聞いて来るので、俺は頷く。壮年部の男は顔を赤くしつつ、それに応じた。そして今度握った剣は、ドワーフ製作の凄くイイ武器だと嘯く。観客もおおっと沸き、試合が再開される。
だが……試合再開後も赤刀と剣が噛み合ってくれない。すぱん、すぱんとやってしまい、もはや芸だ。
「なに、あれ?」
子供達がゲラゲラと笑って喜び出す。間違っても会場に飛ばない様に切り落とした先は、舞台上に落ちるよう行先を調整する。
意識してではなかったが、飛んだ切っ先が彼の顔を軽く切った。それでもどうにか俺に切りかかってくるが、今の俺にユエと戦った時のように、相手の武器を切らずに戦闘が続く状態に出来ない。
動揺が、ラスタに、恋?
こい……
こ、い? だと?
考えれば考えるだけ、動悸が治まらない。手に力が入って悪循環だ。
又は一撃入れて、終了に持ち込めばいいのだが、動揺が収まらずに寸止めできる自信がない。確実に殺してしまう。だからと言って受けて負けてやる義理もない。
観客が囁き出す。
「アレは子供の嫌がらせか?」
「に、しても、紙で出来ているわけじゃないのに、ああなるものか?」
「何か試合前に揉めていたらしいぞ。隻腕だから、それは奴隷印を切ったんじゃないかって。そういう言いがかりを赤刀の子に付けていたとか……」
「もしそうだとして、右手、だろ? 犯罪者は左。それであの齢で奴隷と言うなら、親がそうだったか、売られたか……」
噂、情報、そして同情や憶測。奴隷制度は便利だが聖国なら普通でも、他国で評判がイイとは言い難い。
「くぅっ、何故、硬質のこの剣がこんな事にっ!」
立ち回るのにどうやっても切り込めない壮年部の男。
赤刀をぶん回す子供に、面白いように細切れ、短く壊れていく武器。
最早カオスだと俺は思う。
「審判、これは決着つけないとダメか?」
「えええええぇ……ええ……」
各国から偉い人が来ているので、それなりに示しをつけねばならないようだ。
俺は仕方なく握りを変え。赤刀の三つ角、切れる刃ではなく、面の部分で相手の剣を持った手の下、柄の頭をパンっっと勢いよく叩きあげた。
すぽんと彼の両手から折れた剣が飛んで、カラカラっっと床を滑って行った。すぅっと赤い刀の先を、悔しさに怒りさえ感じる表情を浮かべる男に突きつける。
「勝者! 『隻腕の赤刀使い』こと、ティーーーー」
わっと観客が声を上げるが、それはどこかに笑いが混じったものだった。俺の黒髪の頭に白い鳩が王冠のごとくバサリと乗った。
「くるっくーーーーーー」
「ドリーシャ……おま」
最後は思っていたのと違うという感じではあったが。
一国の騎士団の副団長を、若干五つの隻腕の少年が翻弄したというのだから面白かったのだろう。
観客は大いに沸き、この国の秋の祭のイベントとして行われている剣術大会の伝説回となった。
お読み頂き感謝です。
ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです。
来週は火曜~更新しようと思います。




