閑話:大好きなお姉様1 (シンシア視点)
私のお姉様は、何でも出来てすごいのよ!
とっても美しくて、優しくて、頭も良くて、自慢のお姉様なの。
そんなお姉様が大好き、だからお姉様も私を大好きだと疑う事はなかった。
だけど成長してお茶会なんかに参加して、友人ができた頃。
私は仲良くなった令嬢の家にやってきた。
今日はお茶会ではなく、プライベートな集まりで、部屋の中でゆったりとくつろぐ日。
そんな時、窓の向こうに彼女の姉の姿が目に映った。
「あっ、お姉様だわ。ふふふっ、本当に外面はいいんだから」
用意されたお菓子を頬張りながら立ち上がり、窓の外を覗き込んでみると、どうやら令息と逢瀬を楽しんでいるようだ。
ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべているその姿は、お姉様と同じ。
先ほどの言葉の意味が分からず首を傾げていると、彼女が私の隣へやってきた。
「今のどういうこと?外面って?」
疑問のままに尋ねてみると、彼女はニヤリと企むような笑みを浮かべてみせる。
「ふふっお姉様、外ではおしとやかで、清系で通ってるけど、家族の前だと全然違うのよ。口うるさくてがさつだし、さっき歩いていた令息の事も鬱陶しいって話していたわ。なのに見てよあの表情。本当に作り笑いが上手いのよねぇ~」
作り笑い?あれが?
あの笑みはいつもお姉様が見せる笑みと同じ。
そういえば私はお姉様の不満や愚痴を聞いたことがない。
それに……怒った顔、泣いた顔も見たことない。
どうして……?
「……あの笑顔が作っているってどうしてわかるの?」
「そりゃ~私の前と全然違うもの。それになんだか仮面みたいじゃない?頬が固まってて~。やっぱり外だと良く見せたいんでしょうねぇ。だからあんな胡散臭い笑みになるのよ。みんなのところもそうでしょう」
彼女は同意を求めるように振り返ると、集まっていた令嬢たちがコクコクと頷いた。
私の兄は~~~、妹は~~~~、弟は~~~……皆が皆家と外では違う顔だとそう話す。
だけど私のお姉様はいつも笑っていて……、
彼女たちの話に、脳裏にお姉様の笑みが何度も過った。
私のお姉様は家でも外でも変わらない。
いつも笑っていて優しいお姉様。
そうまるで……あそこに見える彼女と同じ……仮面のような……。
もしかしてお姉様は私にありのままを見せてはくれていないの?
他人と同じ扱いをしているの?
そういえば……私はお姉様に何でも話すのに、お姉様からは……何も話してこない。
いつも私の言葉に賛同するだけ。
でもそんなのよく考えればおかしいよね……。
だってお姉様にはお姉様の考え方や意見があるはずなのに……。
考えが定まらない中、友人との茶会が終わり家に帰ってからも、モヤモヤとした気持ちが広がっていく。
お姉様の部屋に訪れて他愛無い話をしてみると、今日見た令嬢と同じ笑みを浮かべていた。
こうやって改めて見ると、貼り付けたような……感情がこもっていないような……そんな気がする。
でも、だけど、そんなはずない。
だって私はお姉様を大好きだし、お姉様も同じでしょう?
答えの出ない問いかけに、確かめずにはいられなかった。
でも直接好きかと問えば、きっとお姉様好きだというだろう。
だけど私が知りたいのはそんなことじゃない。
御姉様が私に気を許し、家族として信頼してくれているかということだ。
思い立ったが吉日、私はお姉様の話を聞こうといっぱい質問をしてみた。
だけどなぜかかわされて私の話にすり替えてくる。
ねぇ、どうして?
なんでそんなことするの?
そんな姿にモヤモヤと黒い気持ちが胸に広がっていく。
どうして話してくれないの?
私の事を信用していないの?
ねぇなんで、愚痴一つないなんておかしいでしょう。
そうだ、感情……お姉様が怒った姿、泣いた姿を見たことがない。
どうして見せてくれないの?
私たち家族でしょう?
不満と不安がどんどん大きくなり、ある日私は強硬手段を取ろうと決意した。
あの日、私はお姉様の部屋へ押しかけると、空っぽになったお菓子の皿を見せ付けた。
「お姉様の大好きなお菓子、全部食べちゃった。とっても美味しかったわ」
これは怒るだろう、そう確信していた。
だけど予想に反し、お姉様はニッコリといつもの笑みを浮かべると、優し気に笑いかける。
「ふふっ、シンシアが喜んでくれるならいくらでも食べていいのよ」
怒らないお姉様の姿に、虚しさと悲しさ……そして怒りが込み上げてくる。
このお菓子はお姉様の大好物で……もし私がお姉様の立場なら、怒りで暴れるわ。
食べ物の恨みは恐ろしいものよ。
なのにどうして怒らないの?
どうしてそんなに他人行儀なの?
「お姉様……怒らないの?あのお菓子食べるのを楽しみにしてたじゃない。それを全部食べちゃったんだよ!」
「怒ったりしないわ。どうしたのシンシア?」
「……ッッ、なんで怒らないの?」
そう呟くと、瞳に涙が込み上げてくる。
悔しい、悲しい、辛い、痛い、そんな負の感情に私は慌てて部屋を飛び出した。
私はお姉様を大好きなの……お姉様は私を好きじゃないんだ。
信頼していないのだ。
そう痛感すると、とめどなく涙が溢れだした。




