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シンシアの提案

とある日。

ケルは朝から街へ出かけ、屋敷には私一人。

部屋の掃除をしていると、王都からシンシアが従者を連れてやってきた。

私の様子を見に来たのだというシンシアに、私はアザレアの花が咲く庭にお茶とお菓子を用意すると、招き入れたのだった。


「シンディ、来てくれて嬉しいわ。婚約おめでとう。王妃教育はどう?」


「もう~ちょー大変!それにお姉さまがいなくなって、王子にちょっかいをかける令嬢もたくさんわいてるんだから。まぁ~全て蹴散らしているけどね!」


シンシアはパクッとケーキを頬張ると、自信満々の様子でほほ笑んだ。


「ふふふっ、シンディなら大丈夫そうね。だけど何かあったらいつでも言うのよ。力になるわ」


「はぁい!お姉様大好き~。ねぇねぇ、ところであいつとはどうなの?愛称はいい?どんな感じなの?」


興味津々で目を輝かせるシンシアの姿に首を傾げる。


「シンディ、口が悪いわよ。ケルとは仲良くしているわ。過保護なのは相変わらだし……」


「違う、そんなこと聞いてるんじゃないの!夜の営みについてきいているんじゃない~。お姉さまは相変わらずよねぇ~」


シンシアの言葉に目を丸くすると、紅茶を持つ手が止まった。

夜の営み?

それってもしかして……ッッ。

なんのことを言っているのか理解すると、体の熱が一気に高まる。


「そんなッッ、夜の営みなんて……ッッ何を言い出すのよ!?」


私はカップから手を離すと、頬の熱を冷ますよう手で仰いだ。


「へぇーその反応、あいつ本当に手を出してないんだ。へぇーそう、中々やるじゃない」


「そんなこと考えたこともなかったわ……そういうのは結婚してからではないの?」


シンシアはぼそぼそと感心した表情を浮かべたかと思うと、何かを思いついたのか……いたずらっ子のような笑みに変わった。


「お姉さま古臭いですわ~。今どきの令嬢は誰でも経験あることよ。私もマーティ様を誘惑しようと頑張っているのですけれど、なかなか手を出してくれなくて……」


はぁ……とため息をつくシンシアを唖然と見つめる。

なっ、なんてことなの!?

令嬢たちの世界がそんなに乱れているものだったなんて……。

それよりも誘惑って……ッッ。


「シンディ、なっ、何をしているのよッッ」


「好きなら当然のことでしょ~。お姉さまは思わないの?触れたいとか~キスしたいとか。あんまり悠長なことしてたら、他の誰かに取られてしまうかもしれないじゃない!そういえば街であいつ女性に人気みたいよ。今日もここへ来る途中、綺麗な女性に声をかけられているのを見かけたし」


シンディの言葉に目を丸くする。

ケルは格好いいし声かけられるのもわかる。

そういうのははしたないと思っていたけれど、消極的すぎるのかしら……。


改めて彼との生活を思い出してみると、キスしたのは最初だけ。

触れられることも抱きしめられることもあまりなく、あったとしても布団越しや、やむを得ない場合いだけ。

甘い言葉は聞くようになったが、直接的な表現はあまりない。

それに何度言っても婚約者ではなく執事として傍にいる……。

もしかして……私に婚約者としての魅力がないのかしら……。

シュンと肩を落としていると、シンシアはニッコリと笑みを浮かべ私を覗き込んだ。


「ねぇ~お姉さま、いいものがあるんだけど、試してみない?本当はマーティ王子に使おうと思ってたんだけど、面白そうだからあげるわ」


シンシアはごそごそと袋の中を漁り始めると、ニヤリと笑みを深めたのだった。


シンシアが帰ったその夜。

私はバルコニーには寄らずにそのまま部屋へと駆け込んだ。

今日シンディに言われた通りの準備をし、寝室でじっと待つ。

彼はいつも私が眠る前に、部屋へやってくる。

温かいミルクを用意してくれるの。


もうそろそろかしら……。

彼が来ると思うと、ドキドキと心臓が激しく波打つ。

ちゃんと上手くできるかしら……。

不安が胸に渦巻くが、今のままでは本当に彼が離れてしまうかもしれないと思うと、試さずにはいられない。

シンシアに教えてもらったことを頭の中で考えると、頬に熱が集まっていく。

落ち着くのよ、ケルを他の女性に奪われるなんて考えたくないわ。

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