閑話:大好きなお姉様5
だけど執事は、立場もわきまえずお姉様にベタベタしすぎだし、嫌がらせしても全く効かない。
奪ってやろうとしたら、こっちを脅してくるなんて……ッッ、本当大っ嫌い。
早くあの男から引き剥がして、王子様の物になってほしいなぁ。
でもお姉様は……う~ん。
そんなことを考えていると、いつの間に校舎へ戻ってきたのか……廊下にお姉様の姿が映った。
「マーティ?」
「なっ、なっ、何の用だ、俺は今忙しいんだ。まぁ……少しなら話を聞いてやってもいいがな!」
先ほどの態度とは打って変わって感じ悪い態度に目が点になる。
へぇ!?何その態度?好きなんだよね?
てか王子、お姉様のこと見てたじゃん、どういうこと?
王子はつっけんどんとした表情で私へと顔を向けると、気まずげに視線を逸らせた。
「あら、シンシアもいるのね?ふふっ、お邪魔だったかしらね。もういくわ」
お姉様はいつもと同じ笑みを浮かべて、そそくさと来た道を戻って行った。
お姉様の姿が見えなくなると、王子は深いため息をつきながらしゃがみ込む。
「あぁぁぁ……またやってしまった……」
「あのー、えーと、今のはどうしたんですか?」
聞きたいことがありすぎて、おかしな質問になってしまった。
「シンシア嬢、すまない。失礼な態度をとってしまって申しわけない……」
いやいやいや、それはお姉様に言う言葉でしょう?
なんなのこの王子……思っていたのと違う……。
「えーと、さっきまでは普通でしたよね?一体何があったんですか?お姉様と喧嘩でもされたのですか?」
「いや、違うんだ、昔からこうなんだ……。俺は君のお姉さんが好きだ。けどいざ話すと普通に話せない。だから……あんな態度をとってしまう。恥ずかしい姿を見せてすまないな」
先ほどとは違い、弱気な王子の姿に私はその場で考え込んだ。
えぇ……王子、お姉様の前でずっとあんな態度だったの?
嘘でしょう、私なら絶対許せないわ……。
それにしてもこんな感じなのに、巷では仲がいい婚約者と言われてる……。
もしかしてお姉様はドMなのかしら。
いやいやいや、私のお姉様にそれは限ってないわ。
それにさっきの王子の行動……もしかしてこの人、素直になれないから離れてお姉様を見ていたってこと?
遠くからコソコソ隠れて……?
うわぁ……この行動……あの執事と被る。
お姉様って碌なのに好かれてない、男運悪すぎ。
思い返してみればさっきの姿、隠れ方も慣れてる様子だったし、思うに王子は常習犯のストーカー。
う~ん、てか婚約者なのにストーカーするってなんなの?
それに言っちゃぁなんだけど、お姉様の反応を見ても、王子を好きだとは到底思えない。
まぁ普通、あんな態度見せられちゃ好きにならないよね。
でもならどうしてお姉様は王子を見限らずにいるんだろう?
あぁもうわけわかんない。
とりあえず私が今するべきことは、この王子にちょっかいをだして、お姉様の反応をみることかな……。
今のを見る限り、あまり効果はなさそうだけど……。
でもまぁ暇だし、それにこの王子もあの執事と同じなのか確認しないとね。
あまりお姉様に害があるようなら、告げ口しないとね、ふふふ。
「ねぇ~お義兄様。お姉様とちゃんと話せないんだったら、好きな物とか趣味と知らないんじゃないんですか?もしよかったら私が教えますよ!今度の休み一緒に街へ行きませんか?」
あからさますぎるだろうか……と思いながら提案してみると、王子はパッと表情を明るくし顔を上げた。
「いいのか!?ぜひ教えてほしい!実は何度も挑戦したんだが、なかなか本人に聞けなくてな……。好きな花ぐらいしか知らないんだ」
そういって恥ずかし気にはにかんだ笑みが、とても印象的だった。




