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ケルヴィンの策略11 (ケルヴィン視点)

あれは卒業式の数日前。

私は騎士たちに最後の訓練をと校庭へやってきていた。

手懐けた……いや真面目に取り組む生徒たちを眺めていると、校舎裏へ向かうシンシアとマーティンの姿を見つけた。

人目を気にする怪しい二人の様子に、僕は条件反射で後を追うと、木の陰に身を顰め、聞き耳を立てる。


「ねぇねぇ、お義兄様~。お姉様から好きって言われたことある?」


「はぁ!?好き、そっ、あるわけないだろう……。まともに話も出来ないからな……」


「ですよねぇ~、でももうすぐ卒業じゃないですか。お姉様の本当の気持ちを知りたくないんですか?」


「そりゃ知りたいが、無理なものは無理なんだ。チャーリーを前にすると、上手く言葉が出てこない。俺を好きかなんて聞けるはずもない、見ていてわかるだろう?」


マーティンは肩を落とすと、シンシアは元気を出して、と彼の腕にしがみついた。


「わかってますよ。でもそれだと好きって言葉もないまま結婚になっちゃいます。あれだけお義兄様に尽くしているんですもの、絶対に好きだとは思うんですよね。だけどお姉様は、幼い頃から大人の貴族社会で育ったからな……本心を誰にも話さないの。だからずっと好きって言葉をきけないかもしれませんよ。だけどそんなお姉様の本心を知る方法がある、と言えば興味ありますか?」


シンシアはニッコリと笑みを浮かべ問いかけてみると、マーティンは目を見開き生唾を飲んだ。


「……ッッ、本心を知る方法……なんだ、教えてくれ」


「それは~婚約を破棄するって、宣言すればいいんですよ!」


「はぁ!?何を言っているんだ。俺は婚約破棄なんて……ッッ」


マーティンはありえないと、何度も首を横へ振った。


「あははっ、そんな重く考えなくていいんです!振りなんですから、振り。婚約破棄すると言って、私を新しい婚約者にして下さい。さすがにそういえば、お姉様の顔色も変わるはず。私に嫉妬して、お義兄様を取り戻そうとして、素直に好きだって言ってくれるかも。誰もいない場所で宣言すれば、問題ないでしょう」


シンシアの言葉に、マーティンは動きを止めると、彼女へと顔を向けた。


「嫉妬……好き……見たいし聞きたいが……。婚約破棄……うぅッ、本当に彼女は俺のことを好きなのだろうか。冷たい態度ばかりみせて……婚約者だから仕方なく笑ってくれているんじゃないか……そんなことを考えるんだ」


悩むマーティンの様子に、シンシアはもう一押しと言わんばかりに話し始めた。


「大丈夫、大丈夫ですって!私とお姉様は姉妹で、嘘をついても冗談だって言いやすいでしょう。それに……家でのお姉様って、いっつも笑ってるんですよねぇ~。だからこの機会に他の顔も見れたらなって思うんですよ。安心して下さい、お姉様は絶対にお義兄様を好きですから、妹の私が保証します!」


迷う王子を後押しするようにそう付け加えると、彼は悩みながらも頷いた。


二人は僕の存在に気が付いていない。

決行の場所、時間の打ち合わせをする彼らの姿に、僕はじっと聞き耳を立てる。

偽の婚約破棄、面白い情報を手に入れました。

これを理由すれば、あの王子からお嬢様を奪えるかもしれない。

ずっとずっと手に入れたかった彼女を僕のものに────。

僕は二人の話を全て頭にインプットすると、急いで校庭へと戻って行った。


そして屋敷へ戻り、あれやこれやと策を練っていると、ふと婚約したばかりのお嬢様を思い出した。

あの時なぜ急に剣を学ぼうとしたのか……。

王子にうんざりしていた彼女が……。

好意を持ったのかと思ったが、そんな感じではない。

王子に見せているあの笑みは作り物だ。

現に今シンシアと王子はとても親密な関係だが、それを気にする様子も咎めようとする気配もない。


そういえば最近お嬢様はコソコソと街へ出掛けていく。

本などを買ってくるが、それ以外にも小物が数点。

この間はカバンを買ってきていましたね。

あれは確か……クローゼット奥に隠すよう仕舞いこんでいた……。


そこでハッと気がついた。

もしかしてお嬢様は……この結末を望んでいる、いやそうなるように動いていたのではと。

自分に都合のよい解釈なのかもしれない。

けれどこれなら全ての辻褄があう。

後は……僕が手をまわし、婚約破棄を真実にすれば……。

僕はニヤリとほくそ笑むと、精密な計画を練っていった。

そして無事に計画は成功した。


計画が成功した暁にはと、こんなものまで用意したのですが……僕も王子のことを言えないぐらいにはヘタレなのかもしれませんね……。

僕は懐から紙を取り出すと、おもむろに開く。

上質な紙には婚約誓約書と大きく書かれている。


王子と婚約破棄をし、すぐにお嬢様へアプローチを掛けサインをもらおうと思っていたのですがね……。

紙の右下にあるサインと書かれた箇所は空白のまま。

屋敷の時とは違い、自然に笑うようになったお嬢様を見ると、どうしても躊躇してしまう。

婚約破棄をし、幸せそうなお嬢様へこれをみせ、昔のような笑みを見せられれば、さすがに堪えますからね。


お嬢様のことを知っているつもりでも、王子のように拒絶されることを考えると臆病になってしまう。

嫌われてはいない、それはわかります。

ですが王子も僕と同じように嫌われてはいなかったでしょう。

みる事など出来ない相手の気持ちを考えると、頭が痛くなってきますね。

今まで恋愛をしてきた者たちはすごいな。

当事者になり彼らの気持ちが分かると、何とも言えない気持ちになった。

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