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卒業式にて

作品のタイトルを変更致しました!

私も続くように外へ出ようとすると、そこでシンシアに呼び止められた。


「お姉様、話があるの。一緒に来てくれない?」


そう告げると、私の答えを待つことなく、人の波に逆らうように移動して行く。

慌てて妹の背を追いかけていくと、中庭を抜け、人気のない校舎裏へ立ち止まる。

人の気配はまるでない、そんな場所にマーティンが佇んでいた。

シンシアはパタパタとマーティンの隣へ走り寄ると、彼の腕へしがみつきニッコリと可愛らしく笑って見せる。


「お姉様、私に王子様をちょうだい」


シンシアは甘えるように彼の腕に寄り掛かると、首を傾げそう言葉にした。

やっとこの日がきたわ、やっぱり王子はシンシアを選んだのね。

全てから解放される日。

待ち望んでいたはずなのに、改めて計画が成功するのだと実感すると、ギュッと胸が締め付けられる。


彼とは12歳で婚約し、そこから数年共に過ごしてきた。

仲良くなるために四苦八苦して、彼のつっけんどんな態度の中に、優しさがあると気が付いたわ。

愛称で呼ぶようになり、友として傍にいたこの時間はかけがえのない宝物。


王子はシンシアの手を握りしめると、深く息を吸い込み顔をこちらへ向けた。


「シャーロット、お前との婚約をここで破棄する。そして新たな婚約者はシンシアだ」


はっきりと紡がれた言葉に、何とも言えぬ感情が溢れ出す。

わかっていたこと、望んでいたこと、だけどすぐに言葉が出てこない。


シーンと静まり返り、虫の声がはっきりと耳にとどく。

サンサンと輝く太陽の下で、私は深く深く息を吸い込むと、琥珀色の瞳にはっきりと私の姿が映し出された。


その瞳は力強く、太陽のような眩しい光。

隣に佇む妹はご満悦な表情で、見せつけるように胸へそっと顔を寄せた。

その刹那、走馬灯のように彼との思い出が駆け巡り、彼の瞳から目を逸らせない。


私はこの日の為に、彼と同じ趣味を持ち、共に歩んできたのよ。

いつも不貞腐れて不機嫌で、顔を向けると逸らされたわね。

挨拶もしてもらえなくて、話も全然続かなくて、どうしようかと思ったわ。

だけど次第に会う時間が増えて、会話も続くようになって、彼が不器用な人なのだとわかった。

だけど剣に対してはとても真っすぐで、一緒に素振りをした日々。


馬に乗って遠出して、星空を見て、嫌いじゃないとそう言ってくれた。

ようやく彼に近づけたのだと、素直に嬉しかったわ。

私が勝手に入門試験を受けて怪我をした時も、わざわざお見舞いに来てくれた。

咎められるかと思っていたけれど、そんなこと全然なくて、只々私の心配してくれた。

昔話したアザレアの花、覚えていてくれてとても嬉しかったわ。

もう枯れてしまったけれど、また次の種が芽吹くように、今も部屋に飾ってあるの。


学園では近くなった距離が離れてしまったそんな気がした……。

だけど学園で今まで見られなかった彼を知ることが出来たわ。

令息や令嬢達と楽しそうに話す彼、怒った彼、とても新鮮だった。


そういえば私は彼に、何も返していないわね。

何もあげられなかった、あげようとしなかった。

剣の技術、楽しさ、乗馬の方法、馬でしか見られない美しい景色。

改めて考えると、私は彼からたくさんの物をもらっていたわ。

彼が最初に言った言葉、今でもはっきり覚えているの。


(俺はこのまま、結婚なんてしないからな!)


その願いを叶えられたのなら、少しはお返しできるのかしら。


懐かしさと寂しさが胸いっぱいに溢れ出すと、その奥に暖かい気持ちが混ざり合っていく。

シンシアは私のこと嫌っているをけれど、私はシンシアを嫌いだと思った事は一度もないわ。

恋敵みたいになってしまったから、もう元に戻るのは不可能。

ちゃんとわかっている、二人の邪魔にはなりたくないもの。


私はニッコリと笑みを浮かべると、仲睦まじい姿をはっきりと瞳に映し出す。

そして口角を上げニッコリ笑みを深めると、琥珀色の瞳を見つめ返した。


「わかりましたわ。お二人の幸せを心から願っております」


私は二人の元へ寄り、そっと手を取ると、幸せを願うようにギュッと強く握りしめる。

そして手を離すと、私は急ぎ足で、静かに来た道を戻って行った。


そのまま教室へは向かわず、校庭へと走っていく。

婚約破棄された今、すぐにでも出発したい。

すると門の前にケルヴィンの姿があった。


「お嬢様、一緒に行きましょう」


あまりのタイミングの良さに唖然としていると、ケルヴィンは私の手を取り馬車の中へと誘っていく。

そして固く手を握りしめると、静かに馬車が動きだしたのだった。




――――――――――お知らせ――――――――――

ここまでお読み頂きまして、ありがとうございます。

いかがでしたでしょうか?

ようやく短編の話に追い付きました(*´▽`*)

学園生活後半は大分割愛してしまいましたが、

最終話に投稿します(閑話:大好きなお姉様4~)で楽しんで頂けます。


最後に残り数十話、一気に進んで行きますよ!

短編とは一味違う最後となっておりますので、もう暫くお付き合い頂けますと幸いです!

ご意見ご感想等ございましたら、いつでもコメント頂けると嬉しいです(*ノωノ)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何故にそのタイトルにしたんでしょうか? イメージにそぐわなくなったというか、ヤンデレってましたっけ? これからそうなるのかな? 何かタイトルの厚みが薄くなっちゃたのが残念です。 本分は…
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