計画は失敗?
二人の仲が親密になっていくと、休日に二人っきりで出かけることもしばしば。
妹は最近流行っている淡いピンク色のワンピースを着てめかしこみ、見せつけるように私の前でマーティンと出かける旨を伝えていく。
街へ買い物へ行ったり、食事をしに行ったり、まるで恋人同士のようだ。
今日もシンシアが馬車で出かけていく姿を見送ると、寂しさと期待感があわさった複雑な感情が込み上げる。
こうして笑顔で送り出したのは何度目だろうか。
嬉しそうな顔をして帰ってくる妹を、笑顔で迎え入れるのも……。
私と王子は長い付き合いだけれど、逢瀬らしい逢瀬などしたことがない。
いつも剣の事だったり、乗馬の話だったり、出かけるのもその延長せんばかり。
王子がシンシアに惹かれていくその様を間近で感じ度に、寂しい想いが胸の奥を擽った。
怒りはない、ただただ寂しいそれだけ。
私は王子を友として慕っているだけだもの。
これから先、剣をまた手に取るかどうかはわからないけれど、もう王子と昔のように手合わせや、剣術の話が出来なくなってしまう、そんなことを考える。
だけど彼が幸せになるのなら、友としてその幸せを喜びたいそう思うの。
いつか……いつか年月を重ねまた話せるようになれば、この想いを、感じた気持ちを正直に彼へ伝えよう。
私は二人の未来へ想いを馳せながら、こっそり旅路の準備を済ませると、隠すようにクローゼットの奥へ仕舞いこんだ。
婚約破棄はもう目の前に迫っている。
準備は万端、いつ婚約破棄されてもすぐに出ていく事が出来るわ。
卒業すれば、私と王子はすぐに結納を交わすことになるだろう。
だから必ずその前に婚約破棄が宣言される。
そこで王子が妹を選べば、全てが上手くいくわ。
宣言されてすぐ両親たちは必死に私を婚約者へ戻そうとするだろうけれど、そうなる前に出て行くの。
メイドや執事たちについてこられないように、素早くね。
でも貴族から外れるつもりはない。
さすがにそれは許されないだろうとわかっているから。
だけど貴族社会から離れられるのなら、それでいいわ。
自分の未来を自分の力で切り開く、ナヴィーンやケルヴィン、キャサリンと同じような目をしてみたい。
そうだわ、そのためには家事を自分で出来るようになっておかないとね。
どうするのか、何をするのかはわかっているけれど……。
今の立場を考えると、なかなか実践させてもらうのは難しいわ。
こればっかりはケルに教えてもらうのも難しい。
迂闊に尋ねれば、どうしてなのかと詰め寄られてしまう。
なら今私に出来ることは、本で知識を深めるしかないわよね。
そうだわ、ついでに薬学や医療も勉強しておきましょう。
きっと一人で暮らしていくには必要になってくる。
私は一人コソコソと学園の図書館へ通うと、様々な書物を読み漁った。
そうやって旅の準備を進めて行く中、いつだろう、いつだろう、そう考える毎日。
必要な知識を頭に詰め込み、家事ノートも作成したわ。
荷物も最小限に収め、金目になりそうなものを詰め込んでおく。
別荘はあってもやっぱりお金は必要よね。
お母様やお父様には申し訳ないけれど、生活が落ち着いたら自分で稼いで必ず返そう。
しかし待てど暮らせど何事も起こることなく、あっという間に時がたち卒業式当日になってしまった。
最近王子ともシンシアとも話していないが、学園内で二人の噂を良く聞いていたんだけれど……。
どうしてかしら?
王子は妹を選んでいると思うのだけれど……違うのかしら……?
そんな不安が頭を過る。
だけどそうなってどこかほっとする自分もいた。
どうしてそう思うのか、自由になりたいとそう望んでいたはずなのに。
マーティン王子を知ってしまったからかしらね……。
学園長の話が始まり、在校生の送辞が読み上げられ、最後にマーティンの答辞が読み上げられる。
来賓者には王妃と王も参列し、程よい緊張感が感じられた。
私の両親は、どうしても外せない用があり、今日はここへ来ていない。
そうして無事に卒業式が終わると、皆会場から去って行った。




