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スタートライン

ケルヴィンの登場に驚きながらも、慌ただしく日々は過ぎ去っていく。

時折校庭へ目を向けると、ケルヴィンの姿が目に映る。

真剣な表情で、見習い騎士たちへ指導する姿はとてもさまになっていた。

見習い騎士達もケルヴィンを信頼しているのだろう、規律の取れた動きで、彼の指示を正確にこなしている。


私が学園へ通っている合間だけの特別講師、と彼が話していた。

体はきつくないのかと聞いてみたけれど、大丈夫だとそう答える。

教える事が楽しいのだとか。


シンシアが入学し、この計画が順調に進んで婚約破棄された場合、ケルヴィンを連れていくつもりはない。

私が屋敷から離れた後、執事をやめ、こういう道に進む可能性もあるのだと改めて気づかされる。

本当かどうかわからないけれど、彼が執事になったのは私の傍に居たいから。

なら私が貴族社会から抜け、屋敷を離れれば、彼が執事をする理由はなくなるだろう。

そうなればケルヴィンと気軽に会う事も、連絡を取ることも難しくなるだろう。

そう考えると、何とも言えない不安のような感情が芽生えた。


私は不安を振り払うように目を閉じ深く息を吸い込むと、ふとある疑問が頭に浮かぶ。

現状、私の専属執事を全うしながら、講師の仕事を行うと、ケイトお姉様と会う時間を作れないのでは、と考える。

恋人同士なのか確かめられていないけれど、只の友人とは違う感じがするわ。

それとも私が知らないだけで、逢瀬を楽しんでいるのかしら?


最近よくそんなことを考える。

ケイトお姉様とケルのこと。

二人は古くからの友人で、ケイトお姉様は私の知らないケルを知っていてお似合いの二人。

自分の知らないところで、二人が会っていると思うと、何とも言えぬ気持ちが込み上げた。

この気持ちの正体は……?


答えは出ぬままに時間だけが流れていく。

いえ、答えを見つけようとしていないだけかもしれない。

下校時間になるとケルヴィンが門に馬車を用意し待っていてくれる。

けれど私が彼と帰ろうとするたびに、どこからともなく王子が現れ引き留めにくるのよね。

だけどいつも何を言いたいのかわからず黙り込み、そんな彼の姿に困惑してしまうの。

とりあえず当たり障りのない笑みをみせ交わしていると、ケルヴィンが半ば強引に私を馬車へ乗せるのだ。


そんな日常が過ぎ、あっという間に一年がたつと、私は二年へ進級し、また王子と同じクラス、隣の席になった。

ほどなくしてシンシアが新入生として入学してくると、早速私の教室へとやってくる。

屋敷での会話はゼロ、こうやって顔をあわせるのも久しぶりだというのに、妹はそんな素振りを微塵も感じさせることなく、私の前にやってきた。


ブロンドのストレートヘアーを二つに結び、エメラルドの瞳をキラキラと輝かせている。

人懐っこい笑みを浮かべ、私を呼んだ。


「お姉様、おねえさま~、見てみて、お姉様と同じ制服姿。今ねぇ~入学式が終わって休憩になったんだぁ~。お姉様に会いたくて、早速来ちゃった」


妹はニコニコと笑いかけると、読めない笑みを浮かべ、饒舌に話しかけてくる。

私はそれに笑顔で相槌をうつだけ。

姉妹の会話に意味はない。

だって妹はこちらに話しかけながらも、隣に座る王子へチラチラと視線を送っているのだ。


「ですわよねぇ~、マーティン様もそう思いませんか~?」


「あぁ、そうだな」


こうやって時折話題を振って王子へ話しかけ、楽しそうに笑って見せる。

その様に私の計画が進み始めたのだと実感した。


それからシンシアは、毎日私の教室へとやってくる。

上級生に怯む様子もなく、堂々とした態度。

私に話しかけるふりをしながら、王子にすり寄っていく。

次第に私とマーティンとの会話は減り、三人で話をすることが増えていった。


王子も私と話をする時とは違い、まるで別人のようにシンシアとの会話が弾む。

シンシアを真っすぐに見つめ、私と視線が絡むことはない。

そんな二人の姿に、私は一歩下がるよう心掛けた。


すると次第に3人ではなく、王子とシンシア二人っきりで話す姿をよく見かけるようになってきた。

そんな時シンシアと目が合うと、王子の腕を掴んだり、過剰なスキンシップをしたり、仲の良さを見せ付けられる。

そんな妹のスキンシップを嫌がることなく受け入れる王子。

明らかに二人の仲が親密になっていくのがわかった。


だって王子は私の前であんな風に笑ったことがない。

話す距離も近く、私が同じ距離で話そうとすると、彼は必ず後退るもの。

無愛想でつっけんどんな態度をとることもない。

普通の令嬢たちと同じ扱い、優しく誠実で、そんな二人の姿はとてもお似合いだった。

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