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閑話:ケルヴィンの策略9 (ケルヴィン視点) 

相手の様子を窺っていると、先に青年が動き始めた。

土を蹴り突進するようにこちらへ向かってくる。

安直すぎる戦法に、僕は片手で木刀を持つと、切先で軌道を変え弾いた。

手から木刀が離れ、青年は驚いた様子で目を見開く。

カランカランッと音を立て、木刀は土の上へ木刀が転がっていった。


僕はそれを拾い彼へ手渡すと、ニッコリと笑みを深めて見せる。


「さぁ、構えて下さい。次はこちらから行きますね」


青年は戸惑いながらも構え、それを見るや否や、僕は彼の懐へ飛び込むと容赦なく木刀を振り下ろす。

青年は驚いた様子で慌てて飛び退くが、その先へと先回りし、そこへ木刀を突き刺した。

痛みに倒れ込む彼を眺めながら剣を止めると、ニッコリと笑みを浮かべて彼を見下ろした。


「早く立ち上がって下さいね。稽古はまだ始まったばかりですよ」


青年は顔を真っ青にするが、僕は容赦なく彼の首根っこを掴むと、無理矢理に立ち上がらせた。


「ちょっ、稽古!?いやいや、嘘だろう、こんなの早すぎるッッ、ケルヴィンッッ、先生、まっ、待ってくれッッ」


「待つ?何をですか?走り込みもしないのですから、さぞ体力に自信があるのでしょう。では行きますね」


それから数時間、休む暇も与えず青年が力尽きるまで、僕は何度も木刀を打ち込んだ。


力尽き訓練場で突っ伏した青年の姿を一瞥すると、髪を持ち上げ土に埋まった顔を無理矢理に上げさせる。

額から汗が流れ、土へとしみこんでいく。

青年は白目を剥き、ピクリとも動かない。

それを確認すると、僕は彼をまた引きずり校庭へと連れ帰って行った。


これほど動いたのは久しぶりですね、大分スッキリしましたね。

お嬢様と同じ年でここに居られる幸せをわかっていない青年に天誅を。

目的が変わったように思えますが、勘も戻ってきたようですし、よしとしておきましょう。

まぁこれで僕の仕事ははかどるようになるでしょうし。

こういうのは最初が肝心ですからね。


校庭へ青年を寝かせ、見習いたちへ目を向けると、小鳥の音色のような可愛らしい声が耳にとどく。

すぐに顔を向けると、そこには驚いた様子をみせるお嬢様の姿。

あぁ、あぁぁぁ、間近で見ると、破壊力がすさまじい。

風になびく長いスカート、いつも大人っぽい彼女が年相応に見える。

こんな彼女と共に学園生活を……やっぱり許せませんね……。


黒い感情が渦巻くが、グッと心の奥へ閉じ込めると、お嬢様との会話を存分に楽しむ。

暫くすると空気の読めないケイトが現れた。

今日は最終手続きをさせようと、暇そうにしてたケイトをお気に入りの騎士を餌に呼び寄せていた。

僕に反感を持つ騎士が数名いるが、その辺りの対応もケイトに一任している。

多少不安ではあるが……お嬢様のお世話はもちろん、他の仕事がある以上、極力面倒な仕事はケイトに任せたい。


それにしてもお嬢様が私を見つけてくれるとは思わなかった。

彼女は興味がないものには、本当に興味がない。

目で見えていても、それを認識しないのだ。

それが彼女の才能の手助けになっているかもしれない。

頭がいい分、沢山の情報を入れすぎると、パンクしてしまいますからね。

必要な情報を必要なだけ手に入れる、だからこそ優秀な彼女が出来上がっているのだろう。


しかしキャサリンの登場に、なぜかお嬢様の笑みが微かに曇る。

彼女とお嬢様がとても仲がいいと思っていましたが……。

お嬢様の顔をじっと眺めながら考え込んでいると、そんな変化を気づかないキャサリンは嬉しそうにお嬢様へ近づき、ニコニコと話し始めた。

キャサリンの言葉に、慌てて彼女の口をふさぐと、言い聞かせるように耳元で囁いた。


「ケイト、余計なことを話すな。僕がここにいるのは、お前の友人に頼まれたからだ、わかったな」


ゆっくりと口をふさぐ手を緩めると、ニッコリと笑みを深める。


「モゴモゴッッ、ちょっと、嘘ばかりじゃない。反対する声を無視して半ば強引に滑り込んだくせに。その尻ぬぐいを私がしてるのよ!?」


「わかっている、だからお前のお気に入りの騎士との仲を取り持ってやると言ってるんだ。遠くから見ているだけで、話したこともないんだろう?」


「うっ、……そうだけど、だって接点なんてないし……それに……」


「だろう、約束はちゃんと守ってやる。ですからね……?」


ケイトはコクコクと頷くと、深く息を吸い込みながらお嬢様の元へと戻って行った。

するとお嬢様はまた微かに悲しそうに瞳を揺らしたような気がしたが、それは一瞬だった。

気が付けばいつもの笑みを浮かべるお嬢様。


何かあったのだろうか……?

ここには婚約者のマーティン王子もいる。

あのヘタレ王子がお嬢様に何か出来るとは思わないけれど……。

あぁ……僕が彼女と同じ学生だったら、今すぐに抱きしめて理由を聞くのだが……。

執事である僕にそんな権限はない。

もどかしい想いを感じながらも、今日屋敷へ戻って彼女に美味しいお茶とお菓子を用意しようと決意すると、さっさと仕事を終わらせるため訓練場へと戻って行った。

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