表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/86

閑話:王子の悩み8 (マーティン視点)

チャーリーはどこにいるんだ?

先ほどの授業、令息は校庭で騎士見習いたちと合同練習、剣術の指導を受けていた。

令嬢たちは教室で手芸。

そしてチャイムが鳴り、すぐに教室へ戻ってきたのが……。


俺は教室内を改めて眺めてみるが、彼女の姿はどこにもない。

視界にいないと、ソワソワと落ち着かない。

だってあいつは容姿端麗で、性格もよくて、家柄も申し分ない。

よく……令息達が噂をしているのも知っている。

俺の婚約者でなかったら、今頃彼らから猛烈なアプローチを受けているだろう。


だからこそ不安は消えない。

俺のいない場で、変な男に絡まれるかもしれないと。

彼女が優しい笑みで令息と話している姿を想像すると、眉間に皺がよっていく。


廊下に出て辺りを見渡していると、令嬢たちが群がる中央から、手を振るカイザックの姿が目に映る。

チッ、面倒な奴に見つかったな。

俺は見て見ぬふりで通り過ぎるが、カイザックは令嬢たちの輪を抜け出し追いかけてきた。


「王子、王子~無視はひどいじゃないですか。またストーカー、モゴモゴッッ」


とんでもない言葉に俺は慌てて振り返ると、後ろにいたカイザックの口をふさぐ。


「アイク、人聞きの悪いことを言うな。俺はストーカーじゃねぇ」


そう強く言い聞かせると、カイザックはコクコクと頷き俺の手を外した。


「はいはい、わかりました~。でもシャーロット嬢を探しているんでしょう?」


ニヤニヤと笑みを浮かべるカイザックを睨みつけると、俺は答えずに歩き始める。

そんな俺の様子に、カイザックは肩を震わせ笑い始めると、面白そうに俺の後をついてきたのだった。


校庭へ出てみると、そこにはまだ練習する令息や騎士見習いの姿。

真剣な打ち合いではなく、じゃれあうように剣をあわせている。


校庭から少し離れた場所には、柵が設置され、その周辺に令嬢たちが集まり、剣を打ち合う彼らの姿を見ながら、キャッキャッと楽し気に話をしている。

ふとそんな令嬢たちの傍を通ると、気になる単語に俺は歩くスピードを緩めた。


「ねぇねぇ、あそこにいるのはナヴィーン様ではなくて?ほら、見て、あのナヴィーン様が笑っておられるわ!」


「キャァー、貴重ですわ!目に焼き付けておかなければ……ッッ」


ナヴィーン、その名に立ち止まると、俺の後ろに張り付いていたカイザックも足を止め、校庭へ顔をむける。


「へぇ~。ナヴィーンっていうと、あのナヴィーンですかね?剣の相手をしてもらったことがあるけれど、笑った姿なんて見たことがない。氷の令息と言われてる彼が笑っているなんて、ははっ、本当なのかな?」


茶化すような物言いに、俺は後ろを振り返る。

カイザックは興味津々の様子で、校庭を囲む柵に近づいて行くと、額に手を当て辺りを見渡しはじめた。


「あら、手を差し出したわ。あれ、木の陰に御令嬢の姿が……、もしかしてシャーロット様ではなくて?」


「本当ですわ!あぁ、とっても絵になりますわね~」


シャーロットだと!?

婚約者の名に、カイザックを押しのけ慌てて柵へ近づくと、令嬢たちの視線の先を追っていく。

すると彼女たちの言葉通り、校庭の隅に佇む二人の姿。

ナヴィーンとシャーロットが楽しそうに笑いあっていた。

まるで逢瀬をしているのかのようなその光景に、唖然とする。


どうして二人であんな場所に?

俺に隠れて……いやいやいや、俺は王子だぞ?

ナヴィーンに恋人はいないはず、それどころか色恋の噂すら聞いたことがない。

そんな男がなぜ……ッッ

二人から目を逸らすことも出来ず、楽しそうな様子に狼狽していた。


いや、そんなことどうでもいい。

あんなに楽しそうに、何の話をしているんだ?

俺の、俺の……婚約者に近づくな。

彼女の笑顔を見るのは俺だけ、俺だけのものなんだ。


俺は居ても立っても居られなり、勢いをつけ柵を飛び越えると、そのまま走り始めた。


「ちょっ、王子!?どこへ行くつもりですか?」


カイザックも続くように柵を飛び越えると、俺の腕を取った。

引き留めるようにグィっと腕を引っ張られると、俺は思いっきりに手を振り払い睨みつける。


「アイク、離せ。ナヴィーンが俺のシャーロットにッッ」


「俺の……まぁ間違ってはないですけど。いやいや、でもナヴィーンですよ。あいつって女に興味がないって有名だし、心配しすぎな気がするんだけど。まぁ日ごろ笑わないあいつが笑ってるのはちょい気になるけど……。とりあえずシャーロット様すごいなぁ……」


「そんな能天気なこと言ってる場合じゃねぇ。行ってくる」


「おいおい、マジで!?あの雰囲気に突撃するの?」


「当たり前だろう、あいつの婚約者は俺だ!」


そうはっきり言葉にすると、カイザックは何とも言えない複雑な表情を浮かべている。

何かを言おうとしているが、俺はカイザックの言葉を聞く前に走り始めると、二人の元へと向かって行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ