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意外な誘い

ケルヴィンのこと、王子のこと、複雑な想いが胸に残る。

だが何一つ解決はしない。

でもそれはそれで構わないそう思う自分がいる。

このまま順調に進めば、私は王妃を降りるのだから。

全てをリセットして、見えない未来を歩いてくのだから――――。


ある日のお昼時、令嬢たちと廊下を歩いていると、騎士見習いたちの練習風景が目に映る。

騎士学校は私達の学園と隣り合わせ。

剣からは離れて半年以上になるが、ついつい剣を振る姿に目がいってしまう。

すると小気味よい打ち合う音が風にのってとどいた。


今日は学園の貴族達と練習をするのだろうか、制服姿の令息達の姿が目に映る。

その中に誰も寄せ付けない独特のオーラを出している男が一人。

集団から外れ、木陰でじっと腕を組み校庭を眺めていた。


「ごめんなさい、先に行って頂けるかしら。またあとで」


「はい、わかりましたわ」


令嬢の声に軽く手を振ると、私はその男の元へと近づいて行く。


(どこへ行かれるのかしら?)

(あの方角は騎士様のところかしらね?)

(どなたかお知り合いでもおられるのかしら?)


コソコソと噂をする彼女たちの声は耳にとどくことなく、私は真っすぐに進んで行った。


ずっと気になっていたのよね、だけど自ら会いに行くことは出来なかった。

わざわざ彼の屋敷まで会いに行けば、どこで知り合ったのか、と噂好きの貴族が騒ぐだろうし、婚約者のいる身、下手に令息と会えばよからぬ噂が立たないとは言い切れない。

その点学園であれば、顔見知り程度で話が出来るわ。


木漏れ日が漏れる大きな木の傍に、じっと佇んでいる彼。

澄んだグレーの瞳が印象的で、光に反射しプラチナ色の短髪が、キラキラと輝いていた。


「ごきげんよう、ナヴィーン様」


そう声をかけてみると、彼は驚いたようすでこちらへ顔を向ける。


「君は……何の用だ」


冷たい言葉に私は苦笑いを浮かべると、深く頭を下げた。


「この間のことをお詫びしたく……。軽い気持ちであんな舞台にたってしまい、申し訳ございませんでした。試合を潰してしまった謝罪を、どうしてもしたかったのですわ……。ナヴィーン様はあの大会で優勝なさったのですわよね。おめでとうございます」


顔を上げニッコリ笑みを浮かべると、グレーの瞳と視線が絡む。

全てを見透かすようなその瞳に、何とも言えぬ緊張が走ると、私は小さく息を飲んだ。


「……なぜ令嬢である君があんなことを?」


彼の瞳に私の姿が映り込み、ふと対決したあの場面がフラッシュバックする。

しかしその瞳に嫌悪な光はなく、純粋に疑問を感じているようだ。


「令嬢がはしたないと思われるでしょうが……私は己の身を守れるよう剣術や武術をコッソリ習っておりましたの。そうしたらどうしても実力を知りたくなりまして……。私に術を指南していた先生たちは、令嬢だからと真剣に打ち合ってはくれない。だから素性を隠し参加したのですわ」


そう素直に話すと、彼は考え込むような仕草を見せる。


「実力か、その気持ちはわからないでもないな……。君を教えていた者はケルヴィン殿だろう。彼は素晴らしい騎士だった。あのまま騎士団へ入団していれば、今頃王族直属の護衛騎士になっていだろうな。……君の剣は騎士として通用するほどの実力があった。試合が中断した後も団長たちが、チャーリーという青年を探していた。まぁ、見つかるはずはないが……」


思ってもみなかった賞賛する声に、私は大きく目を見開いた。

彼の言葉を理解すると、しっかりと剣術を学べていた事実に、心がほっと温かくなる。


「ふふふっ、騎士学校で一番強いと謳われるナヴィーン様に、そう言って頂けてとても嬉しいですわ」


「買い被りすぎだ、外へ出れば俺ぐらいの奴はたくさんいる」


そう言った彼の瞳には、ここではないどこか遠くを見据えていた。

強い決意、大いなる目標、こんな方と手合わせ出来たことが純粋に嬉しいと感じる。


「そうですわね、ですがナヴィーン様でしたら高みまで登られるのでしょう」


「はっ、言ってくれるな。君も王妃にならずこちら側にくればいい。俺といい勝負をするだろう。高みを目指せる」


彼はそっと目を細め、優し気な瞳を浮かべると、小さく微笑み手を差し出した。

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