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閑話;ケルヴィンの策略4 (ケルヴィン視点)

僕が執事になってすぐは大変だった。

最初から敵意むき出しに、シンシアは僕を見ていたからね。

そんな小娘が姉に隠れ、僕に嫌がらせをしてくるんだ。

まぁ、幼稚すぎて相手にする気も起きなかったけれど。


お嬢様にもばれないよう気を付けながら、妹をあしらい、自分の目的に専念する。

彼女がお嬢様に欲しいとねだる前に、少しでも僕の必要性を彼女へ示す必要があったから。


今日も王妃教育が始まり、僕は庭へ出ると、窓の向こう側に映るお嬢様の姿を見つめていた。

そんな時、後ろから足音が響くと、煩い声が耳にとどく。


「ちょっとあなた、またこんなところからお姉様を見ているの!やめなさいよ!」


掃除の手を止め声に振り返ると、そこには眉を吊り上げたシンシアの姿。


「あなたにとやかく言われる筋合いはございません」


そうスパッと会話を終わらせると、僕はまたお嬢様へと顔を向ける。

今日もお美しい……見ているだけで幸せになる。

今日は確か語学の授業でしたね、真剣に考える姿も絵になる。

出来れば写し絵に収めてしまいたい……。


「ちょっと、何なのその顔!あなたの視界にお姉様が映ると、穢れてしまうわ!この腹黒執事!お姉様の前と態度が違いすぎる!お母様に言いつけるわよ!」


「どうぞどうぞ、信じて頂けるのでしたら」


シンシアのたわごとを軽くあしらうと、僕は振り向く事もしない。


「あぁもう、なんでこんな執事がこの家に……。お姉様の傍にいるなんて許さないんだから!」


シンシアはそう叫ぶと、僕の肩を掴み無理矢理に引き寄せ視線を合わさせる。


「絶対にお姉様から引き剥がしてやるわ」


「出来るものならどうぞ」


挑発してくるその態度に、僕は小さく笑みを浮かべると、肩に触れる手を軽く振り払った。


あの一件から暫く、シンシアが僕の前にパタリと現れなくなった。

彼女の考えていることはわかる、急がないと……。

そう思い今まで以上にお嬢様を甘やかし、優しくしていくと、時折ではあるが、僕の前で自然な笑みを見せ、愚痴まで零すようになった。

最初に比べれば大分進歩した。

ここまでくれば、少し安心できる。


次に僕がしなければいけないのは、シンシアの弱みを握る事だ。

お嬢様の性格を考えれば、いくら僕を必要だと思っていても、面倒事を嫌う彼女の性格を考えれば、手放そうとするかもしれないからね。


何かないかと探していたあの日、僕はいい弱みを握ったんだ。

その日お嬢様は王子に会いに城へ行っていた。

静かな屋敷の中で、突然大きな音が響く。


ガチャンッ


そっと窓の外へ目を向けると、庭に沿った廊下に散らばった陶器の破片。

どうやら飾っていた花瓶が割れた音だったようだ。


あそこにあった花瓶はこの家の家宝。

先祖代々受け継がれてきた大切な物だと、最初に聞いた覚えがある。

大変だと、その場に向かおうとした刹那、青ざめた表情のシンシアが目に映った。

その傍にはお嬢様から奪った木刀が転がっている。

シンシアはその木刀を拾い上げ、庭の奥へ投げ込むと、パチパチと頬を叩き平然を装った。


大きな音に慌てて現れるメイド、執事、そして彼女の両親。

するとシンシアは慌てた様子で庭を指さすと、猫が花瓶を落とし、逃げていったとそう言い放った。

先ほど投げられた木刀がカサカサと音を立て落ちていく。

その音に猫だと思ったのか、執事やメイド達は慌てた様子で庭の奥へと入って行った。


そんな行動を一部始終確認した。

その場で取り繕った嘘だが、まぁあの優しい両親はシンシアを疑わないだろう。

家宝は元に戻らず、猫のせいとなり、庭には猫防止の高い高い壁が設置された。


いいネタを拾った、そう思った数週間後、シンシアは僕を欲しいとねだりにきた。

大切にされている僕への嫉妬心が丸見えだ。

けれどお嬢様はその感情に気が付いていない。

言葉を詰まらせるお嬢様の姿に、僕は慌てて割り込むと、シンシアへ近づき家宝の件を耳打ちした。


すると慌てた様子で逃げて行ったんだ。

いや、あれは面白かった。

だけどまたいつ邪魔しにくるかわからない。

そのためにこういったネタ増やしておく必要がある。


それから情報を集め、煩わしいシンシアを牽制しながら、僕は毎日お嬢様の傍に居た。

彼女の両親からの信頼も完璧。

彼女が王妃教育をしている最中、彼女の父や母の仕事のサポートもしているからね。

シンシアが僕に対して何か告げ口したとしても、根回しは十分。

これならシンシアが強引にお嬢様の執事を外したとしても、僕がお嬢様の傍に居たいと伝えれば聞いてもらえるだろう。


後はもっともっと、僕なしではいられないぐらいに彼女を依存させたい。

そんな思いが胸の中に渦巻いていく。

彼女にとって一番だけでは足りなくなり、もっと、もっと欲しいと――――。

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