閑話;ケルヴィンの策略3 (ケルヴィン視点)
この時はまだ彼女に興味があっただけだったんだ。
知りたい、その気持ちだけで僕はここまでやってきた。
その気持ちを素直に彼女へ伝え、彼女が微笑んでくれて、最高に幸せだった。
彼女と視線の先を追い、共に行動し、会話し、そして彼女の事を知れば知るほどにさらに興味がわいた。
彼女は僕と同じ、素の笑顔を誰にも見せていない。
家でも城でもいつも同じ笑顔。
もちろん僕に対してもだ。
作り笑い、だけど僕とは何かが違う、他の令嬢や令息の上辺だけの表情とも違う。
次第に彼女の心の中を見てみたい、そう思い始めると彼女に夢中になっていった。
そのためにはまず、彼女の信頼を得なければならないだろう。
基本彼女は何でも一人で出てきてしまい、頼ることを知らない。
だがそれはとても辛い事だ、僕にも同じ経験がある。
人より出来れば出来るほど、他人に頼ることも弱音を吐くことも出来なくなる。
だからこそ僕は、そんな彼女のサポート役として動くよう心掛けた。
もちろん彼女のことは調べつくしてある。
身長、体重、スリーサイズ、趣味、好きな食べ物、嫌いな食べ物、仕草や癖。
ちょっと調べすぎたかな、でも彼女の事なら何でも知りたいんだ。
どんなことに興味を持ち、どんなことを嫌うのか、性格の分析まで完璧だ。
城で行っている書類整理を全て把握し、彼女が目を通す書類や資料は見やすいように分類。
必要な情報、興味を持ちそうなネタを独自に予測し、調査し全て頭へインプットしておく。
僕が傍に居ない間は、コッソリ彼女の同行を把握する。
城で王子に会うときは、城までついて行ってじっと待っているんだ。
王子とどんな話をしているのか、とても気になるが、さすがに入り込むのは無理だ。
だけど戻ってくる彼女はいつもどこか疲れた表情を見せる。
その姿に楽しんではいないのだろうと思っていた。
疲れている彼女ために研究しつくしたお茶を淹れて、心を落ち着かせる。
優しくて、さりげなく、彼女の疲れを癒していると、愚痴まで零してくれるようになった。
僕の想像通り、王子とはうまくいっていないようだ。
僕も王子とは面識がある、その印象とはかけ離れた王子。
幼さもあるのだろうが、お嬢様が王子を気に入っていない事実に、嬉しいと思う自分がいた。
王妃教育をしている間も、庭へ出てお嬢様が見える位置で掃除をしている。
只遠くから見ているだけでも、幸せな気分になる。
目に入れても痛くないほど可愛いとは、このことなんだろうか。
そうやって彼女と過ごしていくと、次第に彼女の笑みの違いに気が付いた。
本心ではない笑みの中にも、小さな違いがあるんだ。
美味しい物を食べた時の笑み、嬉しいと感じた時の笑み、楽しいと感じた時の笑み。
悲しいと感じた笑み、面倒だと思っている笑み、困っている笑み。
表面上の笑みとは違う、本当に些細な違いだけれども、それに気が付いた時はとって嬉しかった。
もっと見たい、もっと、もっと――――。
だけど彼女は王子の婚約者だ。
いくら彼女が苦手だと思っていても、婚約者である事実は変わらない。
あまり近づきすぎると、王子の反感をかってしまうだろう。
それに彼女の両親も黙ってはいない。
けれど僕とは違う男が、彼女の傍にいるそう考えると、なぜか胸に黒い靄が渦巻くようになった。
嫌だと、傍に居るのは僕だけでいい、そんな強い感情。
だが王子相手に僕はどうする事も出来ない。
僕は彼女の執事で、それ以上でもそれ以下でもない。
恋人、婚約、そんなことが出来る立場ではない。
それをわかった上で、執事に立候補したんだ。
それでも彼女を欲する欲望は抑えきれない。
そんな時にあることを思いついた。
そうだ、……彼女の中で僕を一番すればいいんじゃないか?
僕なしでは生きていけないよう依存させれば、ずっと傍に居られるんじゃないかと。
そうなれば例え王子と結婚しても、一番は僕で居られるだろう。
その日から彼女をよく観察することにした。
求めている物、行動のパターン、思考回路を理解し、先に行動へ移す。
四六時中彼女の姿を追い求める。
彼女の中で僕が一番になるように、けれど悟られず、甘やかし心の隙間に入り込む。
慎重に慎重に……彼女にとって必要不可欠で、完璧な執事になれるように。
計画は順調に進んでいるが、一つだけ問題があった。
それは彼女の妹であるシンシア。
情報によればシンシアは、姉に嫌悪し、嫌がらせをしていると聞いていたが……どうも違うようだ。
実際にシンシアを見てわかったことが、彼女はお嬢様を嫌っていない。
寧ろ好きの裏返し……いや醜い嫉妬、不満そんな感情を姉にぶつけている。
とりあえず僕が彼女の傍に居続けるためには、シンシアをどうにかしなければならないことは間違いない。




