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閑話:ケルヴィンの策略2 (ケルヴィン視点)

そんな中身のない僕とはちがって、兄はある分野の研究に没頭していた。

いつからだろう、気が付けば兄はその研究をしていたんだ。

次第にのめり込んで、社交界へ出なくなってしまったけれど、毎日毎日夢中になるそれに僕は憧れた。


愛想振りまいて、思ってもいないことを口にしている軽い人間の僕と違う。

唯一ダメだと諭すことなく受け入れてくれた兄。

今まで怒られた事も、冷たくされたこともない。

何でも受け入れてくれた兄。

だから僕は兄を尊敬していたんだ。


一つの事に夢中になるその背中を眺めていると羨ましくなって、手伝う形で研究を始めてみたんだ。

難しい研究だった、でもやっていると楽しくて初めて夢中になれる、そう思い始めた頃だったかな……。

その結果、僕は兄を越えてしまった。


何度も言うけど、兄は本当にいい人なんだ。

社交的で素直でさ、真面目で心が綺麗で……裏の顔なんてないし、僕とは違って純粋で……。

だけど僕が研究で成果をだして、初めて嫉妬のような暗い感情を見た。

僕を憎むような冷たい目。


昔に他人にむけられたことがある、けれど他人だからどうも感じなかった。

だけど実の兄に、大好きな兄にそんな目で見られて、頭が真っ白になった。

それを見た瞬間、僕はすぐに研究から手を引いたんだ。

僕が兄にあんな表情をさせた事実が恐ろしかったから。


兄の暗い瞳が何度も頭を掠め、辛い気持ちになるたびに、僕は笑みを張り付けるようになった。

何に対しての苛立ちなのか、悲しみなのか、どうしたらいいのか、わけのわからないこの感情。

もうどうでもいい、そんな投げやりになっていた頃、ある夜会で彼女に出会った。


公爵家の令嬢、シャーロット嬢。

僕の家とは関係が疎遠で、夜会で最近見かけるようになった、その程度認識だった。

皆が噂するほどには綺麗だとは思ったが、興味はない。


けれど会場のテラスで一息ついていると、そこにシャーロットがやってきた。

こうやって面と向かって会うのは初めてだった。

そこで思わったのは、大人びた女の子。

とても最近デビューしたばかりの令嬢とは、思えないほど落ち着いていた。


もちろん噂で彼女の事は知っている。

幼いころから才能を発揮し、城でも注目されていた容姿端麗、才色兼備の御令嬢。

周りからの評価も高く、令嬢のお手本とされているそんな女の子だ。

そして最近巷で流行っている噂では、この国の第一王子であるマーティンが付きまとっている令嬢。


やっと一息つけると思っていたんだけどな……。

やる気のないそんな気持ちの時に、煩わしい令嬢の相手は嫌だなと、内心そんなことを考えながら、笑みを張り付けた。

けれど話してみて女性に対して……いや、人に対して初めて興味をもったんだ。


話しやすいと言えばいいのか、同じ人種と話しているそんな印象。

こんなに会話が続くことなんてそうそうない。

いつも相手の話にあわせるだけ、自分の意見何て話したことはない。

噂だけではない、知識の深さ、そして真実を見破った彼女の推理力。

見透かされたその瞳に、魅入る自分がいた。

そして気が付けば張り詰めていた気持ちが和らいでいくのがわかったんだ。


夜会が終わり、僕はすぐに彼女について調べ始めた。

6歳も年下の女の子に、こんな気になるなんて、少し前の僕なら考えられない。

けれどももっと彼女を知りたい、どうにかして近づきたい、その一心で――――。


だけど僕が彼女を捕まえる前に、彼女と王子との婚約話が持ち上がった。

この時代になんて時代錯誤と思っていたが、王子のストーカー行為を考えると、それしか彼女を捕らえる方法がなかったのだろう。

王子と婚約すれば、そういった名目で彼女に会う事は不可能。

けれど諦められなかった。

どうにかして彼女の傍に――――。


父に言われるまま騎士団へ入団したとして、僕の実力なら王妃の護衛になることはできるだろう。

けれどそれまで待つなんて無理だ。

彼女が王妃になるのは、早くても18歳、そんなに待てるはずがない。

齷齪しながら探して探してその結果、彼女の執事に立候補しようとの結論に至った。


彼女には公爵家特有の専属執事がいない情報を得て、僕はすぐに行動へ移した。

父に謝罪し、きまっていた騎士団への入団を断り、屋敷にいる一番古株の執事に執事教育のレクチャーを頼み、そして数か月で完璧に仕上げた。

炊事、洗濯、家事を一通り、護衛はもちろん、勉強、マナー、作法、礼儀、心得。

後は僕の実力を彼女の両親へ見せる必要がある。

けれどそれも容易かった。


最近上がった爵位を利用し、兄を通じて彼女の両親へ接触、そしてすぐに信頼関係を得ると、無事執事になることに成功したんだ。

これでやっと彼女の傍に居られる。

そう実感すると、今まで感じたことない熱い想いが胸にこみ上げた。

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