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トーナメント戦で

目を逸らすことなんて出来ない。

魅入るように彼を見つめていると、私の名前が会場内に響き渡る。

激しく心臓が波打つ、怖い、帰りたい、そんな恐怖感が全身を包みこんでいった。

けれどそれとはまた別に挑戦したいとの強い気持ちが生まれる。


剣術の基礎、防衛術はケルヴィンに教わった。

けれど彼はこういった一対一での攻防戦は教えてくれなかった。

だけど王子は剣術が好きで、よく騎士の練習に交ざっていたから、対人戦について詳しく教えてくれた。

試してみたい、木刀なら怪我をしてもそれほど大きくはないわ。

ケイトお姉様、ごめんなさい。

私は心の中で謝ると、深く息を吸い込み、腰に差した木刀を確認しながらリングへと上がった。


「さぁ~予選を突破した8人が出揃いましたぁ~。ここからはトーナメント戦、勝ち抜きだぁ~!第一試合はナヴィーンとチャーリー。今大会優勝候補ナヴィーンに無名の少年はどこまで戦えるのか!えー、ルールは簡単です。一対一の真剣勝負。木刀を落としたり、戦えない状態になれば終了です。もしくはリングの外へ出た者も敗者となります。殺しは禁止ですので気を付けて下さいね~!」


司会者の声が会場に響くと、観客の喝采に地響きを感じる。

緊張と恐怖、そして期待、そんな気持ちが渦巻く中、私はゆっくりとナヴィーンの向かいに立つと、抜刀した。


剣先を彼へ向けると、ピリッと空気が張り詰める。

歓声が次第におさまり、シーンと静まり返ると、横風がポニーテールを揺らした。


「それでははじめ!!!」


突然の合図に怯む中、彼は全力でこちらへと突っ込んでくる。

私は慌てて横へ逃げるが……予測していたのかその先に彼の姿があった。

軽く剣先が振り下ろされると、私は慌てて木刀を持ち換え迎え撃つ。


彼の木刀を受け止めると、骨に痺れるような衝撃が走り、思わず木刀を落としてしまいそうになる。

先ほどの男に比べれば力は弱いのだろうが、相手は男。

重い剣に私はすぐに飛び退くと、体制を立て直す。

スピードはほぼ互角、力は彼のほうが当然強い。

真っ向から受け続けられない、なら王子に教えてもらったあの方法で……。


私は迎え撃つように構えると、彼はすぐさまこちらへと追撃してくる。

彼の動きをじっと見つめながら、私は剣を斜めへ傾けると、交わる瞬間、彼の勢いに合わせながら剣をひく。

そして受け流すと、彼の懐へ飛び込んだ。

近すぎて力が入らないが、打撃を加えるには十分な距離。

私は柄をグッと握ると、そのまま左わき腹をめがけて押し込んだ。


「チィッ……ッッ」


彼は態勢を崩し表情を曇らせると、バックステップをとる。

だが逃がさないと言わんばかりに剣を持ち換え彼へ振り下ろそうとした刹那、袈裟斬りが胸を掠めた。

片手で振りぬいたとは思えないその速さに躊躇すると、彼はそのまま距離を取るように下がっていく。


危なかった……あと一歩踏み出していれば剣先が肌を薙いでいたわ。

私は改めて剣を構えると、彼の瞳をじっと見つめる。

王子が言っていたわ、相手の動きを読むときは目を見る事。

必ず動く前に目がその先を追う。


緊迫した空気が流れる中、ギュッと柄を硬く握る。

彼は私と並行するように移動するが、わき腹のダメージが効いているのだろう、先ほどよりも動きが鈍い。

その姿に私は回り込むように走り出すと、脚へ力をいれた。


彼の視界から避けるように特攻で突っ込むと、突き出すように剣先を向ける。

そのまま彼の肩をめがけて突き出した刹那、彼と視線が絡む。

避けることは間に合わないわ、このまま……。

剣先が肉に触れる感触に、手が小刻みに震え始める。

骨に当たった感触に思わず力を緩めた。


その刹那、私の前に彼の木刀が通り過ぎた。

次の瞬間、木刀の先が肌を伝っていく感触に、何が起こったのかわからない。

恐る恐るに顔を上げると、突然激しい痛みが全身を襲う。

私はよろけるようにその場に座り込むと、息も出来ぬほどの痛みに呼吸が荒くなった。


「うぅッッ、あっ……ッッ、いたぁ……ッッ」


激痛に声が出ると、私は慌てて唇を噛んだ。

見た目を少年に変えたが、声は女のまま、喋ればばれてしまう……。

血は出ていない、只の打撲、傷自体は深くはなく、肌に触れただけ。

苦痛に表情が歪む中、私は木刀を地面へ突き刺すと、必死に体を支えていた。


「俺はこんなところで負けるわけにはいかない」


彼の瞳からは執念、強い意思を感じられる。

緊迫した空気に圧倒され、身動きが取れない中、容赦なく木刀が振り下ろされる。

なんとか震える足を動かし、間一髪でそれを避けるが、また木刀が私の肌をかすっていった。

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