実力とは?
あまりの大きさに唖然としていると、あちらこちらから、彼を称賛する声が響いた。
(おぉぉぉ!!ナヴィーンだ!!!)
(やっぱ生で見ると迫力あるよなぁ、どんな試合をするか楽しみだぜ)
(キャーーーナヴィーン様~!)
(ナヴィーン様、こちらを向いて~~~!キャァァァ、クールなお姿も美しいですわ~~~)
女性の黄色い声援にキーンとこめかみ痛むと、私は耳を塞ぎ身を隠す。
……ッッ、想像以上の盛り上がりね。
さっきの彼はナヴィーン、雰囲気や服装、洗練された姿を見る限り貴族かしら……?
けれど夜会で見た覚えがない。
歓声が鳴りやむことなく会場に響き渡るが、当の本人は全く気にする様子もなく立ち止まらない。
あまりに堂々としたその姿に内心驚いていると、真上から男たち話し声が耳にとどいた。
(ナヴィーン、俺はお前に全財産賭けてるんだからなー、全力で勝てよ!)
(バカッ、勝つに決まってるだろう。見ろよあの配当の倍率、1.3倍だぜ)
(だよなぁ~、俺もナヴィーンに賭けてんだけど、あれじゃぁ勝っても雀の涙だな)
その声に聴き耳を立てると、どうやら今回の試合で賭博をやっているようだ。
1.3倍というと、他の選手よりもずばぬけて人気の優勝候補。
一体どれほどの実力なのかしら。
小さくなっていく彼の姿を眺めていると、会場の他の出入り口から続々と合格者が入場してくる。
会場がどんどん人で埋め尽くされていく様に、私も恐る恐る闘技場へと足を踏み出した。
歓声が轟く会場で、私はグルリと辺りを見渡すと、じっと考える。
これからどんな試験が始まるのかしら。
開催日と簡単な詳細以外の情報は、チラシに書いていなかった。
色々と調べたかったけれど、ケルは勘が良いから……変に調べるとどこからばれるかわからない。
怪しまれれば今日は一日外出すらできなかっただろう。
それほどケルの過保護なのだ。
とりあえず剣さえ持っていれば何とかなる、そんな気持ちできたけれど……。
改めてグルリと会場を見渡してみると、会場は8つのブロックに区切られているようだ。
簡易な板のような物が並べられ、それぞれに数十人ほどの人が収容されている。
そのエリアの中央には番号が書かれた旗がたなびいていた。
私の札は2、ならここでいいのかしらね。
中央に大きくたなびく2の旗。
私は腰にさした木刀を確認すると、壁の近くへと移動した。
続々と人数が増え、20名程度の少年や青年、成人男性が集まってくる。
その中でも一番目立っていたのは、2メートルほどあるだろう大男。
背中には大きな木刀をさし、隆々たる筋肉。
彼の剣を一撃でも受けてしまえば、ひとたまりもないわね。
茫然と彼を眺める中、私は彼から離れる様に逆側へ移動すると、じっくりと観察していた。
どれぐらい時間がたったのだろうか、突然ピーッという笛の音が会場へ響くと、辺りが騒然とし始める。
「皆さまお待たせいたしました~、これより見習い騎士試験を開始致します!!!はい、まずは各エリアごとでつぶしあって頂きましょう。ですが殺し合いではありませんよ。皆さまには今からお配りします木刀を使って勝負をしていただきます。騎士にとって武器は何よりも重要な物。最後の最後まで木刀を持っていた者が勝者となりますよ~!全力でつぶしあって頂きましょう。ですがご安心下さい~、ここで落第してもお眼鏡に敵えば騎士になれます、ではでは、それでははじめ!!!」
突然響いた開始の合図にあたふたしていると、思わず足がもつれる。
出鼻をくじかれ動きを止めると、怒号が響き渡った。
そんな中、周りの男たちはいっせいに大男へと切りかかっていく。
見た感じ一対一では勝てそうにないと踏んだのだろう、まるで作戦を練っていたかのように全員が四方八方から襲い掛かった。
そんな様を茫然と眺めていると、大男はコキコキと首を傾け、手に持っていた木刀を振り回す。
あまりの勢いに彼の周りに風が生まれると、その反動で何名かが吹き飛ばされる。
そのまま背を壁にぶつけ蹲るようにして倒れると、手から木刀が落ちていった。
「はっはっは、いい読みだ、だがお前らにゃ俺を倒せねぇぜー!さぁ、雑魚もっとかかってこい!!!」
どすの聞いた男の声に、数名の男が肩を震わせ怯えている。
しかし一人が飛び掛かると、それに続くように皆が襲い掛かった。
大男は向かってくる敵に対し木刀を振り下ろすと、吹き飛ばす。
男の剣を受けたものは、そのまま木刀が弾き飛ばされ地面に膝をついていた。
次々と男たちが倒される様を眺めていると、徐々に徐々に人が減っていく。
ちょっと待って!?あんな剣真面にくらったら只じゃすまないわ。
その様に私は慌てて木刀を構えると、男から離れるように移動した。




