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選考試験

彼女の部屋を借り用意していた衣装へと着替える。

長い髪を後ろで一つにまとめ、左側の腰に隠し持ってきた木刀をさす。

胸にはさらしを巻き、なるべく男性に見えるように胸を張った。

鏡に映る姿に私は一人ほくそ笑むと、髪を丁寧に整える。

まるで別人みたいね、ふふっ、完璧な変装だわ。


キャサリンの馬車を借り街へ赴き途中で下ろしてもらうと、馬を借り私はポスターに書かれてあった場所へやってくる。

会場へ到着すると、そこは人でごった返していた。

馬留めへ向かい、改めて会場へ戻ってくると、そこには案内用の立て札が立っている。

目を向けてみると、どうやら参加するのに必要な条件が書かれているようだ。


《受付を済ませた者は、司令官の試験を受講する事》


まずは選考のようなものがあるのね……これに通ればようやく参加できる。

私は腰にさした木刀に触れると、立て札の示す方角へと足を進めて行った。


想像以上の人の多さに戸惑う中、何とか人ごみをかき分け受付までやってくる。

そこにはごつい体の大男や、細い男、様々な人たちが試験に挑戦していた。

皆張り切った顔で、雄たけびを上げ盛り上がっている。


受付を通り奥へ進むと、どうやら試験は現役の騎士達と剣を合わせて判断されるようだ。

当日の申し込みの多さを予測してなのか、会場の入り口付近には十数名ほどの騎士たちの姿が見える。

彼らは皆木刀を持ち、挑戦者を簡単にいなしていた。

試験に通らなかった参加者たちはトボトボと肩を落とし、引き返してくる姿が目に映る。

じっと試験官と挑戦者を観察していると、動きがとても遅い。

正直あのぐらいの剣裁きなら、ケルヴィンと沢山練習したわ。


一通り遠くから眺めると、私は早速試験の列へ並ぶ。

他の人たちに比べると、私はとても小さい。

周りの人たちに圧倒される中、ドキドキと緊張しながら待っていた。

試験の様子を見る限り、戻ってくる人数の方が圧倒的に多く、合格する選手は少なそうだ。

大抵は一度剣を交えただけで、追い返されている。

それにしても、あんな一度の手合わせで、何がわかるのかしら。


そんな事を考えていると、あっという間に順番が回ってきた。

私の前の男性はどうやら不合格だったようだ。

肩を落としため息をつくその男とすれ違う。


私は合図と共に前へ進み出ると、木刀をこちらへ向ける騎士と対峙した。

そっと顔を上げ視線を合わせてみると、その顔には見覚えがある。

彼は確か……伯爵家の令息、催し物や夜会などで見たことがあるわ。


彼の姿に私はサッと目線を外すと、その場で固まった。

……まずいわね。


「君、構えないのか?」


その声にハッと顔を上げると、私はギュッと木刀を握りしめる。

そうだわ、今の私は男装している、気がつくはずがないわ。

逆に気弱になっていれば、怪しまれてしまう。


私は慌てて木刀を構えると、切先を真っすぐに騎士へと向けた。

集中するのよ、大丈夫、練習と同じことをすればいいだけ。

意識を一点に集中していくと、騒がしいはずの声が消えていく。

そうして対峙する彼の姿を真っすぐに見つめると、動き出すのを待っていた。


「よしっ、合格だ。この番号の場所へ行け」


剣を交える事無く彼はそう告げると、私は肩透かしをくらったように立ち尽くした。

差し出された木札には2と番号が記載されいる。

あら、どういうことかしら?


「ほら、受け取ったらさっさと退け。次の者!」


怒鳴り声に私は慌てて木札を受け取り移動すると、言われた方向へ進んで行った。


剣を交える事無く、何がわかったのかしら?

勉学なら問題を解くまで相手の実力何てわからない、なのに……剣術は奥が深いわね。


そんな事を考えながらに薄暗く狭い廊下を進んで行く。

周りは石に囲まれ、微かに湿った空気を感じていると、目の前に出口が見えた。

光が差し込むその先へ足を踏み入れると、そこは円状の闘技場だった。


歓声が反響する中、周りへ目を向けてみると、会場いっぱいに観衆が闘技場を見つめている。

その勢いに圧倒され、出入り口で二の足を踏んでいると、後ろから合格者だろう青年が、こちらに向かって歩いてきた。


「邪魔だ、退け」


その声に私は慌てて隅へ移動すると、彼は騒がしい歓声に畏怖する様子もなく、堂々と中央へと歩いていく。

その姿を眺めていると、突然地面を揺らすほどの喝さいが轟いた。


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