とある相談
そして試験当日。
今日が試験日だということは、ケルヴィンも覚えているだろう。
だから事前にキャサリンへお願いし、二人だけのお茶会を開いてもらい、今日私は招待客としてキャサリンの屋敷へとやってきていた。
太陽がサンサンと照らすテラスで、私はキャサリンと向かい合うように腰かけた。
テーブルにはお茶のセットにアフタヌーンティスタンドが置かれている。
下段には美味しそうなサンドイッチ、中段には香ばしい匂いがするパンやブレッド、上段には色とりどりのお菓子が飾られていた。
キャサリンは早速サンドイッチへ手を伸ばすと、私の顔を見ながらに頬張った。
その姿に私も同じようにサンドイッチを手に取ると、パクリと一口齧り付く。
「お茶会なんて久しぶりだわ、このサンドッチ美味しいわね。ところでチャーリー、突然どうしたの?お茶会を開いてほしいだなんて」
キャサリンは用意されたカップを手に取ると、ゆっくりと口元へ運ぶ。
「いえ、急なお願いを聞いて頂き、ありがとうございます。そのことなのですが、一つご相談がございまして……」
そう話は始めると、彼女はカチャンッとコップをソーサーへ戻した。
「なに、なに?もしかしてあの執事に何かされた?あぁ私の可愛いチャーリーが……ッッ、出来る限り協力するわよ!」
心配そうにこちらを見る彼女に、違いますわと、苦笑いで返し言葉を続ける。
「私に少しの時間を頂きたいのです」
「時間……?どういう意味かしら?」
彼女は訝し気に眉を寄せると、探るような視線を向ける。
「あの……、今日はお茶会をしている体にして頂き、このまま街へ行きたいのですわ」
「それは……あなたの家の者に内緒で街へ行きたいということ?どうして?何があるの?」
キャサリンは食い気味に顔を寄せると、その目はなぜか面白いものを見たように輝いている。
「えーと、その……今日は街で騎士学校への入団試験があるのですわ。それにどうしても参加したいのです」
「騎士?どうしてまた?あなたは令嬢でしょう?全くチャーリーはいつも突拍子もないことを言い出すわね。まぁそこが可愛いのだけれども、ふふっ、それで?」
キャサリンは冗談だと思っているのか、楽しそうに笑った。
「実は私、自己防衛のために剣術を習っておりまして……。それでどうしても自分の実力を確かめたいのですわ。ケルや王子では真剣に打ち合ってはくれません。公の場で公爵家の令嬢が剣術をしている姿をみせるわけにもいかない。ですので自分自身の実力が分かりませんの。16歳になり学園へ入学すれば、確かめる機会もなくなってしまいます。これが最後のチャンスなのですわ。どうかケイトお姉様、ご協力頂けないでしょうか?」
私の言葉にキャサリンは驚いた様子で、中段にあるパンへと伸ばしていた手を止めた。
「ちょっと、チャーリー本気なの?何度もいうけれどあなたは令嬢よ。守ってもらう立場じゃない。それに……ケルヴィンにばれたらどうするつもりなの?」
「それは大丈夫ですわ。危ないと思ったら棄権しますし、怪我もしないように気を付けますわ。ですから少しの時間でいいのです、ケイトお姉様に迷惑はかけません。公爵家シャーロットとしてではなく、男装しましてチャーリーとの名で出場致しますわ。真剣で戦うわけではございません、万が一怪我をしても打撲程度ですわ。それなら病院にかかる必要もありませんし、隠し通しますわ」
そう一気に話すと、キャサリンは難しい表情を見せる。
「そこまで考えているとは……本気なのね……。まぁ~実力を知りたいとの気持ちは私にもわかるわ。だけど心配よ。剣術なんて……怪我をするかもしれないのよ。チャーリーは王妃になるのよ。顔や身体に傷なんて残ったら……」
キャサリンは心配そうな表情を見せると、そこで言葉をとめた。
その点は問題ないのよね、だって私は王妃にならない。
王妃になるのはきっと妹。
だけどここでそれを話すわけにはいかないわね。
「……実力を試すだけですもの。危険だと思えばすぐに辞退しますわ。だからどうかお願いいたします」
立ち上がりキャサリンへ向かって深く頭を下げると、困った顔が視界を掠める。
「ちょっ、頭を上げなさい!はぁ……わかったわ。チャーリーには色々とお世話になっているしね。でもいいこと、危ないと思ったらすぐに辞めるのよ。それともう一つ、私も一緒に連れて行きなさい」
「えぇッ!?もしかして、ケイトお姉様も剣術をされて……」
「そんなはずないでしょう。観客席でチャーリーの腕前を見させてほしいの。それだけ行きたいというのだから、自信はあるんでしょう?ふふっ、あなた変わったわね、昔に比べて明るくなったわ。そんなあなたも好きよ」
キャサリンはニヤリと口角を上げると、屋敷の中へと入って行く。
そして暫くすると、ラフな格好に着替え戻ってきた。
変装なのだろうか、顔の半分ほど隠れる深いフードを被っている。
「チャーリーも着替えなさい。さぁ~行くわよ」
何とも彼女らしいその姿に、私はニッコリと笑みを浮かべると、深く深く頷いた。
――――――――――――――キャサリンの心情――――――――――――――
全く面白いことを言い出すわね。
昔と比べて雰囲気の変わった彼女の姿をじっと眺める。
初めての出会った彼女は、まだ10歳にもなっていないのに、とても落ち着きがあった。
令嬢のお手本のような存在で、彼女自身もそう振舞っていたわ。
だけど今の彼女はどこかふっきれている。
何があったのかわからないけれど、いい傾向じゃないかしら。
それに才色兼備の令嬢が剣術なんて、ふふっ、楽しそうじゃない。
滅多にお目にかかれないわ。
けれど残念だけど、彼女は最初の試験で省かれるでしょう。
騎士の世界は甘くない。
まぁ、自分の実力がわかれば、すっきりするはず。
でも一応、ケルヴィンには知らせておきましょう。
後々ばれてしまったら、私が社会的に死ぬわ……。
私は彼女が着替えている間に、コッソリメイドへ言づけると、彼女の屋敷へと向かわせたのだった。




