幼馴染?
時は流れ私は15歳となった。
毎朝の鍛錬のおかげで、剣の腕前もかなり上達し、ケルにお墨付きも頂いたわ。
王妃教育も無事に修了し、私は久方ぶりに天文学の研究所へ行った。
室内へ入ると、懐かしい本の匂いが鼻孔を掠める。
研究員たちが行きかい、テーブルの上には空から降ってきた石を採取し、調査していた。
その中央にいるのは、久しぶりに見るキャサリン。
「ケイトお姉様、お久しぶりですわ」
私ははやる気持ちを抑えながら静かに礼をみせると、キャサリンは満面の笑みを浮かべる。
そしてこちらへ近づいてくると、ギュッと包みこむように私を抱きしめた。
「チャーリー久しぶりね。また来てくれて嬉しいわ」
私は応えるように抱きしめ返すと、胸がフワッと温かくなった。
暫く抱き合っていると、ふとキャサリンの腕の力が弱まった。
「……ところでチャーリー、どうして彼がここにいるの?」
キャサリンはおもむろに体を離すと、私の後方へ視線を向ける。
視線を追うように振り返ってみると。そこに立っているのは執事であるケルヴィン。
「あぁ、紹介が遅れてしまってごめんなさい。彼は私の専属執事のケルヴィン。とっても優秀なのですわ」
そう彼を紹介してみると、キャサリンは信じられないというような表情で、大きく目を見開いた。
「へぇ……ッッ、嘘でしょう?なんでこいつが……ッッ?いえいえ、それよりも人の世話なんて出来るの?」
キャサリンはボソボソと呟くと、訝し気な表情を見せる。
どうしたのかしらケイトお姉様?
驚いたその反応に首を傾げていると、キャサリンはハッと何かを思いついたのか、こちらへ顔を向ける。
するとケルヴィンから引き剥がすように、私の腕を強く引き寄せた。
「チャーリー、彼から変な影響受けていない?あなたは純粋で天然なところが可愛いのだから、あんな男に毒されちゃだめよ!」
よくわからない言葉に首を傾げていると、ケルヴィンが笑みを浮かべたままキャサリンを真っすぐに見つめる。
「キャサリン様、少し宜しいでしょうか?」
「キャッ、キャサリン様……ッッ、ちょっとやめてよ、鳥肌がたつわ」
「あの……お二人はお知り合いなのでしょうか?」
二人の姿を交互に眺めていると、キャサリンはブルッと体を震わせ、逃げるように後ずさる。
しかしケルヴィンはニッコリ笑みを深めながら彼女の腕を掴むと、半ば強引にズルズルと研究室の奥へと引っ張って行った。
何だか怪しげな二人の様子に私はその場で立ち尽くすと、じっと彼らを眺めていた。
(ちょっと何なの、離しなさいよ)
(ケイト、余計なことをお嬢様に話さないように)
(お嬢様って、あなた突然騎士をやめて何しているのかと思っていたら、まさか執事になっているなんて……。あなたに女の子を可愛がるなんて無理でしょう。今までさんざん女を泣かせてきたくせに)
(お嬢様は別なのです。それよりも余計なことをお嬢様に吹き込むな――――吹き込まないで下さいね)
(うぅッ、ダメよ。可愛くて純真なチャーリーを汚されたらたまらないわ)
(もし話せば……あなたが最近入れ込んでいる騎士に、色々とケイトのことを聞かせてもいいのですが。そうですね……初めて付き合った男性に振られた理由が――――)
(ちょっ、やめてよ。ってその前になんで知っているのよ!)
(私の情報網を舐めないで下さい)
(こいつ……ッッ全然変わってない……。はぁ……わかったわよ)
コソコソと何かを話しているが、内容は聞き取れない。
けれどいつもと違うケルの表情に、二人がとても親しそうみえた。
するとなぜか胸の奥がチクリッと痛む。
久方ぶりに感じるこの感情、どうしてか以前よりも強い痛み。
ズキズキと痛み始める心臓に、私は思わず二人から目を逸らせた。
後から詳しく二人のことを聞いてみると、彼らは幼馴染だった。
同じ年で、家もお隣、私よりもずっと前からケイトお姉様はケルを知っているのね。
あんな表情、ずっと傍に居たけれど見たことがないわ。
やはり執事という立場では、あぁいうふうに気軽に話せないのかもしれない。
そう思うと、痛みとはまた違う、モヤッとした黒い感情が生まれた。




