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閑話:王子の悩み2 (マーティン視点)

カイザックに声を掛けられキョトンと首を傾げる彼女の姿に、胸が小さく高鳴った。

あんな表情もするのか、いいなぁ。

傍に居く事など忘れ、彼女の表情をじっと眺めていると、カイザックがチラチラとこちらを窺うように視線を向ける。

何を話しているのか、楽しそうに笑う彼女の姿を見つめる中、カイザックの視線の先を追うように、彼女が顔を上げ、こちらへ顔を向けた。

その姿に胸が大きく高鳴ると、俺は反射的に身を隠す。


あっ、……ッッ、やべっ、って、俺……なんで隠れてんだッッ。

俺だって彼女と話をしてみたい、話して……あの笑みを間近で……ッッ。

自分に笑いかける笑みを想像すると、体中が熱くなり、バクバクと心臓の音が頭に響く。

羨ましい、悔しい、恥ずかしい、欲しい、そんな思いが入り混じる中、いつの間に戻ってきたのか、ふとカイザックの声が頭上から響く。


「はぁ……なにやってんですか。わざわざ話す機会を作りに行ってみれば、隠れるなんて想定外ですよ。てかタイミングを見てたんじゃないんですかー?おーぃヘタレ王子様ー」


「くそっ、うるせぇ……」


小馬鹿にしたようなカイザックの態度に苛立つが、言い返す言葉がない。

今のは間違いなく話をするチャンスだった。

だけど……いや、無理だろう……ッッ。

俺はその場で小さく蹲ると、自分の情けなさに頭を抱えていた。


そんな俺の行動は、なぜか両親にまで知られていた。

きっとカイザックが報告したのだろう。

あいつ本当に余計なことしかしねぇ……ッッ。

今更怒りを感じても、知られてしまった以上どうしようもない。

おせっかいの母は、俺とシャーロットをくっつけようと画策しているのか……何かと彼女を王宮へと呼ぶようになった。


いつも城の研究室へ足を運んでいたが、窓から庭を見渡せば彼女と母が話している姿が目に映る。

何度もその場に呼ばれているのだが、どうしても行くことが出来ない。

適当に理由をつけては逃げて……。

本当なんで……俺はこんな意気地なしなんだろうな……。

彼女に会いたい、いや、会いたくない。

そんな矛盾した気持ちが俺の中でストップをかける。

それかも何度も何度も彼女と話す機会はあったはずなのが……俺はずっと逃げ続けていた。


そして12歳になったある日、とある夜会に俺は参加した。

功績を上げた貴族の祝いの席で、そこに彼女の姿があったんだ。

いつも見ている姿とは違う、めかしこんだ彼女の姿。

何時間でも眺められる、そんなバカな事を考えていた。

母と話す彼女の姿をじっと眺めていると、突然俺の名を呼ばれたんだ。


いつの間に傍に来たのか……執事が俺の背中をそっと押すが、思うように足が動かない。

母の傍には彼女がいる、いや、無理だろう。

いやいやいやだが、ここで逃げるのは……うぅっ、どうする……ッッ。

硬直し固まっていると、どこからともなくカイザックが現れ、気合いだと背中を思いっきりに殴られた。

痛みにカイザックを睨みつけると、そのまま母の元へ突き飛ばされる。

すると心地よい甘い匂いが鼻孔を掠め、そっと顔を上げると、初めて彼女と目が合ったんだ。


透き通るような真っ青な瞳に、俺の姿が映り込む。

いつも遠くから見ていたその笑顔に、華奢な姿に、頭が真っ白になっていった。

何か話さないと、そう思っても言葉が出てこない。

バクバクと跳ねる心臓の音に、手に汗をかいていると、彼女の透き通るような声が耳にとどく。


「初めまして、公爵家の長女、シャーロットと申しますわ」


「あッ……ッッ、よっ、宜しく……たのむ……。俺は……その……マーティンだ」


何とか無理矢理ひねり出した言葉が……自分の名前を口にするだけ。

恥ずかしさに視線を逸らせると、彼女はそそくさと去って行ってしまったんだ。

あぁ……なんでだ、なんでなんだ、はぁ……何やってんだろうなぁ俺は……。


去って行く彼女を追いかけることも出来ず、俺は肩を落とし王族の席へ戻ると、母からお灸を据えられた。

きっと彼女にとって、俺の第一印象はいいものではなかっただろう。

いや、良いはずがない、あれは誰が見ても失礼な態度だった。

考えれば考えるほど心に靄がかかっていき、何度ため息をついただろう。


だが夜会が終わって数日たった頃、母からある話が飛び込んできた。

何でも夜会で俺の事を彼女が気に入ったのだとか。

ありえない言葉に唖然とする。

正直、どこをどう気に入ったのかさっぱりわからない。

けれど嫌われていないその事実に喜びをかみしめていると、あれよあれよと俺と彼女の婚約が決定していた。

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