仲良くなるには?
あぁでもない、こうでもない、と模索していると、ふと趣味という単語が頭を過った。
会話を弾ませるためには、相手の好きな話をするのが一番よね。
王子は剣術が好き、あの時は剣術なんてわからない、と諦めていたけれど、会話を弾ませるには同じ趣味を持つことが一番いいわ。
好きな話なら、たとえ嫌われていてもなんとかなりそうだし。
それに婚約破棄され、外の世界で生き抜くためには、戦える能力も必要になる。
さすがに家を追い出された私の世話を、誰かにさせるなんて申し訳ないもの。
後はどうやって私が剣術を学ぶのを許してもらうかね……。
父は剣に興味がないし、母は生粋の貴族令嬢。
女性が剣術を学ぶなんて簡単に許してくれるはずないわ。
どうしようかしら……そうね……。
王妃になれば敵が多くなるでしょう、これを上手く使えば……。
自己防衛のために剣術を学ばせてほしい、そういう切り口で話してみましょう。
騎士団から選ばれた優秀な護衛が付くと知っているけれど、自己防衛できるのはいいことのはず。
後は教えてくれる先生ね。
外から先生を呼べば、当たり障りのない講義ばかりで実践なんてさせてもらえないわ。
私に怪我をさせられないプレッシャーがある。
なら……ケル……そうだわ、ケルにお願いしてみましょう。
彼なら多少の融通もきくはずだわ。
護衛騎士に選出されるほどの実力者、教師として問題もない。
早速明日両親へ頼んでみましょう!
そう決意すると、先ほどまで曇っていた気持ちが、澄み渡った夜空のように晴れていった。
翌朝、早速母の元へ訪れると、話を切り出してみる。
最初は仰天し猛反対を受けたけれど、王妃になる為と何度も説明しお願いすると、最後は難しい顔をしながらも渋々了承してくれた。
父も同じ、女性が剣を握る必要はないと反対だったけれど、また同じ説明繰り返して許しを得た。
もちろん教師はケルにお願いしたいと伝えたわ。
ケルはここ数か月で両親からの信頼を得ている、それも決め手になったのかもしれないわね。
了承を得た翌日、私はケルを部屋へ呼び出すと、すぐに話を持ちかけた。
「ケルお願いがあるの。私に剣術を教えてくれないかしら?」
「……?突然どうしたのですか?」
彼は訝し気に眉を寄せると、私の姿をマジマジと見つめた。
「ふふっ、私は将来王妃となるでしょう。そうなれば敵も多くなると思うの。自己防衛のためにも、剣術が必要だと思うわ。すでに両親の許可は得ているから安心して、宜しくね」
「お嬢様、自己防衛など私がお傍にいる以上必要はありません。それに……王妃となれば騎士団のトップがあなたの傍にお仕えするはずです。尚更必要ありません」
「固いこと言わないで。騎士団が優秀だということは知っているわ。だけど何があるかわからないでしょう?その時に自己防衛が出来れば全然違うと思うのよ」
私の言葉にケルは考え込むような仕草をすると、口を閉ざす。
そんな彼の様子にグイグイと押してみた。
誰もいないときに襲われたらどうするのかと、少しでも防衛術を学んでおいて損はないと、それっぽい理由をつけて懇願する。
話し合う事数十分、ようやく私の想いが伝わったのか、最後は呆れながらも渋々に頷いてくれた。
私はすぐに動きやすい服装へ着替えると、ケルと庭へとやってきた。
朝日が東から顔を出していく、葉っぱについた朝露がキラキラと輝き始める。
少し眠いけれど、今のスケジュールをこなしかつ剣術を学ぶにはこの時間しかない。
「……お嬢様、本気なのですか?」
「えぇもちろんよ。さぁ早速剣を……ッッ」
自ら用意した木刀を運んでくると、ケルはサッとそれを奪い取る。
「はぁ……剣術は剣を振ればいいというものではありません。色々と準備が必要です。まずは体力作りからですね。私のメニューをこなせないようであれば、やめた方が宜しいかと」
「大丈夫よ、何をしたらいいの」
私は自信満々に答えると、深いため息が耳にとどく。
「はぁ……わかりました。急なお話ですので、明日の早朝お部屋へお迎えに上がります。今日はお部屋にお戻りください」
ケルの言葉に、高ぶった気持ちが急に冷めていくと、私は渋々に部屋へと戻って行った。
そうして翌日、早朝にケルヴィンと並んで外へ出ると、柔軟体操からの走り込みが始まった。
彼曰く、剣術を学ぶためには体づくりが欠かせないらしい。
昇る朝日を眺めながら人通りの少ない街を走ったり、時には山へ入り傾斜を登ったり。
最初は小一時間もすれば息切れで、立ち止まってばかりだったわ。
もちろんケルのスピードにもついて行けず、隣を走るはずが彼の背を見るばかり。
それでも何とか走りきるが、脹脛がパンパンに腫れて、翌朝立ち上がる事すら困難になったのは記憶に新しい。
でも一週間も続ければ、大分慣れてきた。
体力も勉強と同じで、積み重ねることが大事みたいね。
新しい事に挑戦する、そんなワクワクとした新鮮な気持ちを久方ぶりに感じた。




