それは妙案!
目が覚めると、また同じ一日が始まる。
城へ赴き、与えられた仕事を熟し、屋敷へ戻り王妃教育を受ける。
数週間すれば、あの王子も会いに行かなければならない。
考えるだけで憂鬱だった。
以前見上げた夜空は、分厚い雲に覆われていたが、今日は星が瞬き丸い月が浮かんでいた。
今日の空模様は私とは違う、
私の胸の中は、薄暗い雲に覆われたまま。
丸い月が浮かぶ深夜、私は一人窓際へ佇むと、そっと窓を開け放つ。
心地よい風が頬を掠め、木々の擦れる音が耳にとどいた。
星がきれい、私もあんな風に輝きたい。
シンシアとは分かり合えない、王子とも分かり合えない。
城では完璧な令嬢を演じ続ける日々。
はぁ……ケイトお姉様のように私も天文学を自由に研究したいわ。
だけど王妃になる以上、それは許されない。
王妃は城の為、国民の為、国の為、子孫を繋げ、王をそばで支える重要な役割。
窓の外は自由で溢れているのに……私は貴族で自由を求められる立場ではない。
だけど……瞬く星、どこまでも自由に流れる風のように……。
「抜け出したいわ」
そう言葉にすると、より強く自由が欲しい、そんな気持ちが強くなる。
貴族に生まれた以上、抜け出すことは難しい。
何か問題や不正そういったことが起これば話は別だが……父も母もまっとうな人。
私が全てを投げ出し逃げ出せば……いえ、それはあまりにも身勝手すぎる。
婚約だって……このご時世にとは思うけれど、私から王族の婚約を破棄する事は出来ない。
暫くの間は王子が婚約を取り消さないか、と期待していたけれど……それもなさそうだし。
会うたびに私へ対して不満を前面にだしているのに、どうしてなのかしらね?
後は……そうね、彼がもし本当に好きな相手を見つけられれば、さすがに私との婚約は破棄するはず。
恋愛結婚を望んでいるみたいだし、だけど今の現状なかなか難しいわ。
私の家の爵位は高い上、影響力もある。
それに私は王妃と仲が良い婚約者。
そんな私に喧嘩をうってまで王子に近づこうとする愚かな令嬢はいないわ。
私は空を見上げながら深い深いため息を吐きだすと、力なく項垂れた。
「やっぱり抜け出すなんて無理なのかしらね」
諦めるように、ぼうっと空を見つめていると、無意識に星を探していた。
一番眩しく光っているあの星はベガ、やや明るい星はアルタイユ、そのからもう一つテネブ。
その三つを繋げれば大きな三角形が出来る。
この時期に良く目につく星の大三角形。
その先にポラリスが見える。
夜の世界で唯一動かない不思議な星。
ケイトお姉様とよく夜空を見ながら話をしたわ。
囚われたただ一つの星、抜け出すには外からの力が必要なのかしら?
外部から及ぼす力、その刹那ふと妹の姿が頭を過ると、私はハッと視線を下した。
そうだわ、外部の力、シンシア―――――妹がいる。
妹は私が大事にしているものを何でも欲しがるわ。
大切していていた指輪、ぬいぐるみ、お気に入りの洋服に、私の世話をしていたメイド。
そしてケルも―――――。
それなら王子が私の大事な人だと、そう妹に思わせる事が出来れば、欲しがるんじゃないかしら?
そうなれば王子も望んでいる恋愛結婚が叶うかもしれないわ。
だって妹は可愛いし、人懐っこいわ。
王子のツンツンとしたあの心も溶かしてくれそうな笑み。
それに王子が妹を選び婚約破棄した場合、家にそれほどのダメージもない。
被害を受けるのは私一人。
王族に婚約破棄された不良品、そうなれば社交界で生きていく事は出来なくなる。
それに私自身結婚をするのは難しくなるだろう。
だけど妹が子をなし血を繋げば、良いだけの話。
自由を手に入れるための代償だと考えれば安いものだわ。
あぁ、これだわ、なんて素晴らしいアイデア、全てが丸く収まる!
社交界から離れ、王都からも離れた別荘へ住居を移せば、自由を手に入れられる。
そう別荘……いい場所があるじゃない。
お婆様とお爺様が暮らしていたあの屋敷。
人里離れた山の奥にひっそり佇むあそこがいいわ。
さすがに貴族から外れることは許されないでしょうけれど、それは仕方がない。
今の生活を全て捨てて、自分の選んだ道を作り出すの。
だけどそのためには……まず王子と仲良くならなければいけないわね。
今の現状だと、とてもシンシアが欲しがるとは思えないわ。
だって私は王子に嫌われているし、会話も続かないから仲がいいとはだれが見ても思わない。
さてどうしようかしら……何か良い案が……。
あれやこれやと考えながら静かに窓を閉めると、ドサッとベッドへと座り込んだ。




