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続かない会話

また一月後、王子より指定された日付にお城へやってくる。

私は笑みを浮かべながらも内心とても疲れていた。

彼に会うために、今日しなければいけない書類整理を昨日片づけ、朝早くから起こされ念入りに湯あみ。

その後は両親に王子についての質問攻めからの朝食、その後ドレスへと着替えさせられる。

マーティン王子に会うためだけに、そんな手間も時間も労力もかかる作業をしているのだ。


正直なところ、なぜこうも何度も会わなければいけないのかしら。

誰が見てもお互い政略結婚だとわかっているのだから、必要ないと思うのだけれど……。


今日も目をあわせない彼の前へ腰かけると、私は笑みを張り付ける。

空は雲一つない晴天だが、私たちの周りには重い空気が漂い始めた。

心地よいそよ風が草木を揺らしていく中、あまりの静けさに虫の声が耳にとどく。


はぁ……これは一体なんなの、何の拷問なの?

こちらを見ようともしない、話す気もない、そんな相手と会う必要性があるの?

こんな苦痛を味わってまで続けなければいけない意味はなんなの?


様々な疑問が脳裏を過る中、不機嫌そうな王子の顔を伺いながら、只時間だけが過ぎていく。

居た堪れない、そう心で呟くと、私はどうするべきかと頭を悩ませた。

このまま黙っていれば、また会話もなく終わってしまう気がするわ。

さすがにそれは……はぁ……。

こちらに顔を向けない王子は、話してくれる気配すらない。


とりあえず逢瀬に来たのだから、前回のように終わらせるわけにもいかない。

ならやはり私が何か話さないと……なにか……どうしましょう。

天気の話はダメだったわ、花もよくわからない結果になってしまったし……。

そうだわ、趣味、あらでも王子の趣味がわからないわね……。


「えーと、そうですわ。あのマーティン様、私天文学に興味がありまして、星はお好きでしょうか?」


そう問いかけてみると、彼はハッと顔を上げ、口を開けたままに固まった。

今日初めて琥珀色の瞳に私の姿が映し出される。

何かを話そうとしているのだろうか、ボソボソと微かに声が耳にとどいた。

聞きとろうと顔を近づけてみると、彼は飛び退き、椅子から立ち上がる。

ガチャンッと椅子が倒れ、私は慌てて身を引くと、窺うように視線を上げた。

すると王子はなぜか臨戦態勢をとるかのように、腕を上げファイティングポーズを見せる。


「あっ、いや……天文学か。別に好きじゃない。……体を動かしている方が楽しいからな」


「そ……そうですか……。体を動かすというと、武術や剣術をされるのでしょうか?」


何とか話を続けようと、問いかけてみると、彼は一瞬頬を赤くしたかと思うと、プイッと顔を背けながら頷いた。


うーん、この態度……難しいわね……。

それに剣術、武術についてはさっぱりわからず、これ以上話を広げられない。

ニコニコと笑みを張り続けるが、内心気持ちはドンドン下がっていく。

わかっていたけれど、本当に会話を続ける気がないのよね。

一体どうすればいいのかしら……あぁ、面倒だわ。

そうして誰の得にもならない逢瀬が終わると、深く息を吐き出しながら屋敷へと帰って行った。


心配を掛けぬよう笑みを整え中へ入ると、ケルヴィンが待っている。

両親、そして妹はどうやら出かけているらしい。

そのことにほっと胸を撫で下ろす。

妹はともかく、両親が居ればどうだったのかまた色々と聞いてくるわ…。

収穫何て何もない、無意味な逢瀬。

話すことなんて、本当に何もないのよね。

私はそのままニッコリと笑みを張り付けると、両親が戻る前にそそくさと部屋へと戻って行った。

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