専属執事?
屋敷へ戻ると、慌ただしいメイド達の姿が目に映る。
あら、お客様かしら?
そんな事を考え辺りを見渡していると、母がこちらへと走り寄ってきた。
「チャーリーおかえりなさい、王子様とはどうでしたの。ってその前に、今ね~あなたの新しい執事になりたいという方が来られているの。紹介するわ」
私の執事……?
正直必要ないのだけれど、それに私の専属になれば、妹が欲しがるでしょう。
母に続くように部屋へ入ると、そこには夜会で出会ったケルヴィンが佇んでいた。
けれどあの時とは違い髪を後ろで結び、燕尾服を着用している。
えっ……どうして彼がここに……?
予想だにしていなかった姿に大きく目を見開く中、母は嬉しそうにほほ笑んだ。
「彼はケルヴィン様ですわ。この間の夜会で功績を上げた御家の方よ。そんな彼がぜひあなたの執事をしたいとそうおっしゃってくれているの。マナーはもちろん学問でもとても優れた方でね、それに騎士団から声がかかるほどの剣の腕前。最近チャーリーは色々な分野で活躍しているでしょう。だから護衛としてもいいと思うのだけれど、どうかしら?」
専属執事……どうして?
彼は騎士になるはずじゃなかったの?
あまりに衝撃的すぎて、狼狽し言葉を失うと、私は只々彼を見つめていた。
あの時と同じ、漆黒の髪に、夜空のような深い蒼瞳。
「チャーリー?」
母の呼びかけにハッと我に返ると、私は慌てて笑みを浮かべて見せる。
「いえ、ごめんなさい。もちろん存じておりますわ。とても優秀な方。ですが……そんなお方が私の執事なんて……宜しいのでしょうか?勿体ない気がしますわ」
遠慮気味にそう応えると、ケルヴィンはニッコリと爽やかな笑みを浮かべながら、私の傍へとやってくる。
彼は徐に膝を付き、見上げる様に視線を向けると、私へ手を差し出した。
「これが僕の選んだ道です。シャーロット様が宜しければ、僕を執事としてお傍においてください」
私の傍に居たい……どうしてまた。
考えられるのは……私が論文についての秘密を知ってしまったから?
もしかして見張りの役目……?
いえでも、証拠もないのよ、もし私が言いふらしても、誰も信用してくれないわ。
それに言いふらしても、私に何のメリットもない。
彼の手を取るべきかどうか、悩んでいると、部屋に声が響き渡った。
「なんで……ッッ、なんでその男がここにいるの……?」
振り返ると、シンシアが眉を吊り上げケルヴィンを睨みつけていた。
「あら……シンディ。失礼な態度はやめなさい。彼は今日からチャーリーの執事となるのよ」
「執事……?それなら別の人にしてよ。その男をこの家から追い出して!」
「シンディ!なんてことを!?ごめんなさい、ケルヴィン様、気にしないで下さいね」
強い拒絶に、母は慌てた様子でシンシアを外へと連れ出していった。
「ごめんなさい、妹は私が関わると、おかしくなってしまって……。お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたわね」
「いえ、気にしておりません。それよりも私をシャーロット様の執事として雇って頂けますか?」
柔らかい笑みを浮かべる彼に目を奪われると、私は思わずコクリと頷いていた。
胸の奥から何かが込み上げ、心臓がバクバクと波打つ。
またこの感情……これは一体何なのかしら……?
私は自分の体に起きる異変に狼狽しながら、必死に感情を抑え込んだ。
それよりも……どうしてそれほど執事になりたがるの?
他に考えられるのは……彼の家は先日のパーティーで爵位が上がったばかり、王族とのつながりは希薄。
王子の婚約者である私を取り込むことで、少しでも王族とのつながりを強めたい?
様々な憶測が脳裏にを過るが、答えが出るわけではない。
妹を説得したのだろう母が一人戻ってくると、正式に契約を交わし彼は屋敷で暮らすことになった




