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不遇職【人形遣い】の成り上がり ~美少女人形と最強まで最高速で上りつめる~  作者: 八又ナガト
第二章 災禍を断ち切る者

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45 トリア迷宮攻略前夜

「ここがトリア迷宮か……」


 ようやくトリア迷宮に辿り着いた俺は、まず辺りの様子を窺う。


 まずトリア迷宮だが、入り口には分かりやすく石造りの門が置かれている。

 おそらく入り口が見つかってから人為的に作られたものだろう。


 そんな入り口を取り囲むように、幾つものテントが置かれていた。

 数々の冒険者パーティーがここに滞在しているようだ。

 そこに商機を見つけてか、ダンジョン攻略に必要な道具を売り出す出店が幾つかある。


 最近見つかったダンジョンなだけはある。

 かなりの人たちがこのダンジョンに可能性を感じ、挑戦しているみたいだ。

 ダンジョンによっては初めて攻略した人にだけ豪華な報酬が与えられることもあるとの話だし、それも当然のことだろう。


 さっそくダンジョンに挑みたいところではあるのだが――


「もう日も落ちてきた。

 今日はゆっくり休んで、明日から挑むべきだな」


 俺の提案にエルが頷く。


「そうですね。ダンジョンがどれだけ続くかは分かりませんし、万全な状態で挑むべきだと思います」

「私も、エルに賛成」


 続けて他の皆の賛同も取れたところで、今日はこのまま休むことにする。

 俺たちは馬車で持ってきていた二つのテントを素早く設営する。

 二つとも二人用の大きさだ。


 すると、俺たちが眠るテントを見たエルとシーナが首を傾げる。


「アイクさん、そのテントで四人が眠るんですか?」

「とても入り切るとは思えない」

「それについては問題ない。人形は大きさも自在に変えられるからな」


 俺はフレアたちを呼ぶ。


「悪い、皆。今日だけは人形就寝具(ドール・ケース)の中で眠ってもらってもいいか?」

「うん、平気だよっ」

「問題ない」

「フレアとテトラが応じるならば、わたくしが眠れるだけのスペースはありますね――と言いたいところですが今回は止めておきましょう。明日に差し障ってはいけませんからね」


 ただ眠るだけなのに、どこに差し障る要素があるんだろうか。

 俺には分からなかった。ホントホント。



 その後、持ってきていた食料で簡単に夕食を済ませ眠ることになった。

 しかししばらくテントで横になるが一向に眠れる気がしない。

 ……野宿するのは久しぶりだからな。仕方ないか。


「んー!」


 一度起き上がり、体を伸ばす。

 なんだかもう少し体を動かしたい気分だ。


 テントの外に出た俺は何をしようか思案する。

 周囲のテントでは他の冒険者たちが眠っているため、音を出さないものがいい。

 結局、簡単なストレッチだけにとどめておいた。


「――アイクさん?」


 十分に体を動かし、そろそろテントに戻ろうかと思ったその時、聞きなれた声が鼓膜を震わす。

 声のした方に振り向くと、簡素な服装に身を包んだエルが立っていた。


 エルはゆっくりと俺に近付きながら、優しい声で言う。



「こんな時間に体を動かしている人がいたので誰かと思えば、アイクさんだったんですね」

「悪い、うるさかったか?」

「いえ、そんなことないです!

 私も少し寝付けなくて夜風に当たろうと思っただけですから」

「そうか、ならいいんだが」



 俺のせいで起こしてしまったわけではなさそうだ。

 俺は小さく胸を撫で下ろす。


 対するエルは、月光によって輝く金色の長髪を片手で靡かせながら夜空を見上げていた。



「さすがに夜ともなると、少し冷えますね。

 温かい飲み物でも欲しくなります」

「ああ、だったら――」



 俺は持ってきている荷物の中からマジックアイテムである水筒を取り出す。

 この水筒は入れた飲み物の温度を一定に保つことが可能なのだ。


 その後、水筒に入っている茶を二人分のカップに移し、夜空の下、少しだけ話をすることになった。

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◇書籍版『不遇職【人形遣い】の成り上がり』
カバーイラスト
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