37 エピローグ
ヒュドラの討伐を終えた後、俺たちは傷だらけの体を引きずりながら地上に帰還した。
フィードの町に辿り着いた時には全員の魔力が切れかけていて、歩くので精いっぱいだった。
だけど――
「――おかえり、お兄ちゃんたち!」
――その満面の笑みを見て、全ての疲れが吹き飛んだ。
俺たちの努力が全て報われたと確信できた。
だって俺たちはその笑顔を見たくて、命をかけて最強の敵と戦ったんだから。
俺は彼女と同じ笑みを浮かべて返す。
「ただいま、アイリス」――と。
――――
グレイス宅に帰還した後、目を覚ましたリーンやアルトたちから感謝の言葉を告げられた。
ヒュドラが討伐されたことで、リーンは確かに意識を取り戻したのだ。
募る話はたくさんあった。
しかし激闘を潜り抜けたばかりの俺たちと、目を覚ましたばかりのリーン。
お互いに今必要なのは休息ということで、詳しい情報の共有は後日になった。
そして俺たちは、こうして宿屋に戻ってきていたのだが――
「何かがおかしい」
――思わず俺はそう零した。
だけど仕方ない。そう思ってしまうのが当然なくらいおかしい状況だった。
人形は通常、最小サイズになり人形就寝具の中で休養を取る。
人形就寝具の中には魔力が満たされているため、体力回復が早くなるのだ。
だから今回もそうすると思い、ベッドが一つしかない部屋に泊ったのだが……
なぜか俺の左右と上に、フレアたちがいた。
「ふふふ、何もおかしいことはありません。
わたくしとご主人様の仲ではないですか」
俺の左腕に抱きつきながらそう主張するのはリーシアだ。
いつも着ている修道服を脱ぎラフな格好になっている。
その分、腕に伝わる柔らかな感覚がいつもより強かった。
「そ、そうだよ!
アイクと一緒にいた方がきっと回復も早いから。
だからちゃんと理由があるんだよ!」
対する右腕に抱きつくのはフレアだ。
普段のポニーテールをほどいているため、より大人の雰囲気がする。
まるで勇気を振り絞ったみたいな表情を浮かべていた。
それでほんとに休まるのだろうか?
「すぅ、すぅ……」
最後に、俺の上に乗り寝息を立てているのはテトラだ。
幸せそうな寝顔だった。
その姿はまるで小さな子供のようだった。
「……まあ、いいか」
窮屈なのは確かだが、彼女たちが満足なら何よりだ。
今回、彼女たちはかつてないほど頑張ってくれた。
俺から返せるものがあるのなら、何だってしてあげたい。
一緒に寝ることを望んでもらえるのもすごく光栄なことだ。
「むぅ~、アイク~」
「ふふふ、ご主人様ぁ」
「すぅ、すぅ」
テトラに引き続き、フレアとリーシアもいつの間にか眠ってしまったみたいだ。
寝言で俺を呼んでいるが、一体どんな夢を見ているのだろうか。
「幸せな夢だったらいいな」
これからも、俺たちは四人で色々な困難に立ち向かうことになるだろう。
その先で俺たち全員が幸せを掴み取ること。
ふと、それを新しい信念にしようと思った。
俺たちは眠る。
強敵との戦いによる疲労を癒すため。
新しい朝日を迎えるため。
いつの日か、最強の座に辿り着くために。
『第一章 人形の覚醒』完結
『第二章 災禍を断ち切る者』に続きます。
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