剣の勇者の仲間達
「すまん。もう一度言ってくれ」
「私達は何処でLv上げしていれば良いでしょうか」
聞き間違いじゃなかった。
コイツ等、何を言っているんだ?
「ちょっと待て、何の話をしているんだ?」
「はぁ……えっと、私達が勇者様とは別のパーティーでカルミラ諸島の何処でLv上げをしていればよろしいでしょうか? という話です。後、集めて欲しい魔物や素材があったら教えてくださると嬉しいです」
……ええっと、説明されているのに、理解できないのは何故だろう。
いや、言ってる事は理解できるのだが……なんていうの?
方針の違い?
「今回は一緒に行こう。パーティー要請は出しておく」
「分かりました。勇者様でも厳しい場所に行くのですね」
うーむ……錬、お前はどんな教え方をしているんだ?
なんていうか、錬に対しても距離があるような気がする仲間達だな。
部屋を出て、魔物退治に行く為に港へ行く。島への移動中にもう一度尋ねる。
「……よければもう少し詳しく教えてくれないか」
「はい。では――」
錬の仲間達の話はこうだ。
錬の方針は仲間達にLvに合った場所を紹介し、戦うコツを教える。そして、言われたとおりにLvを上げて、魔物の素材や鉱石、道具を集めるのが仕事らしい。
時々、強力な魔物を錬と一緒に倒しに行くこともある。
「後は、敵の攻撃は絶対に受けないように気をつけろと何時も注意していただいております」
なんとも……。
あれだ。
俺もネットゲーム経験がかなりある方だから言えるが、ギルドとかのシステムを使って運営している組織で、高Lvプレイヤーが後輩の低Lvプレイヤーに助言するのに似てる。
というか、まんまそうだな。
「錬自身は普段はどうしているんだ?」
「一人で戦っておられます。どうも私達が強くなるまで待っておられるようなのです」
善意的に解釈しているが……これって……。
あのクールを自称する錬がどんな方針なのか分かってきたぞ。
他人とつるむのはカッコ悪いとか思っている。もしくは苦手なのだ。
あの性格じゃなぁ。他人と話すの苦手なんだろうな。
ネットゲームをプレイしていたと言ってもソロプレイをしていた可能性が高いぞ。
で、大規模イベントとか強力な敵を倒したいときだけ、所属していた組織で仲間を募るとかのプレイスタイルだったのだろう。
もしくは……小さいギルドで見知った相手だけを勧誘して後輩育成だけをしていたとかか……。
優越感には浸れるだろうが、異世界に来ても同じ事をするってどうなんだろう。
まあ、色々と引っかかる所はあるが錬の仲間達と狩場に到着した。
「では行きましょうか」
「ああ、俺が盾になって敵を集めるからお前達は倒してくれ」
「え? ですが、攻撃を受けたら危ないですよ?」
「……気にするな。俺は耐えるのが仕事だし、錬とは方針が違うんだ」
「はぁ……」
俺が先行し、魔物の注意を引く。
カルミラ島の魔物は大体、先制攻撃、ネット用語でいう所のアクティブの魔物が多い。
だから先頭にいる人間に初発は集中する。
4匹のイエロービートルが俺に群がる。
ま、狩場に入ったばかりだからカンカンと痛くも痒くも無い雑魚の攻撃だ。
ちなみにカルミラ諸島の島の魔物は単一の生態系をもっていて、各島独自の魔物とかは今のところ遭遇していない。
島はどれも中心に行くほど敵が強力になる。
ビッチ共と一緒に行った島は大きな山があったが、ここは森のようだ。
「が、頑丈なんですね」
錬の仲間が敵の攻撃を物ともしていない俺に対して呟く。
「まあな、ホラ。さっさと倒せ」
「は、はい!」
なんていうか……前にやっていたネットゲームの初心者救済で育成補助をしていた時を思い出すなぁ。
錬の仲間のバランスは良い方だと思う。
前衛が二人、後衛が二人だ。前に居る奴が物理攻撃、剣や斧とかの武器で敵に殴りかかり、後方が魔法で援護し、回復魔法を使う。
問題の無い構成だと言えば間違いないだろう。
ただ、敵の攻撃の防御策が回避しかないようで、乱戦になりやすい。
敵が俺からターゲットを変更するや、回避に意識を集中して戦闘時間が掛かりやすい。
「とりあえず、敵の攻撃は俺が受ける。お前等は攻撃に意識を集中しろ、即死するような敵じゃないんだから」
島の中腹に差し掛かった頃にもなると他の冒険者が疎らになってくる。
ま、ビッチ共もこの辺りまでは来たんだった。
「盾の勇者様はレン様とは全然違う戦い方をするのですね」
「そうだな」
確かに、他の勇者の証言だと盾は負け職であるはずなのだ。
なのに戦えている。
そういえば、異世界に来て、最近まで色々と分析してきてわかったものが複数ある。
まず、盾は奴等の言い分よりも戦えている事。
次にどうも盾は耐久と反撃、必殺スキルによって戦うタイプだという物だ。
ラースシールドだけなのかもしれないが、多大な代償を支払って、相手に致命傷を負わすことができる。
アイアンメイデン然り、プルートオプファー然りだ。ダークカースバーニングもあるな。
しかし、あのスキルはラースシールドじゃないと使えないのが痛いな。
アイアンメイデンは前提が厳しいけど、別の盾で使えたら、まだ役に立つのだが……。
他の勇者達にとってまだ序盤なのかどうかもある。
Lvの上限がどの程度のものなのか……100を超えるのか?
ネットゲームだとそういうのは山ほどある。
40で一般人は打ち止めなのに100を超えるとか、どんな苦行の道なんだ?
その場合の上限は測りしれない。
「さて」
考えていてもしょうがない。
倒した魔物なのだが……既に女1と一緒に戦った事のある相手なんだよなぁ。
新しい盾は獲得できないし、解体した物も既に吸わせている。
「あの……武器に吸わせないのですか?」
「既に解放しているからな」
「は?」
何か代表の男が呆気に取られる。
「レン様はそのような事は言いませんが……」
「何?」
既に解放させているのに更に吸わせている?
どういう事だ?
「何か分かるか?」
「さあ……何分、レン様は多くは語らない方なので」
むう……仲間にも詳しく語らないのか。
ま、俺もラフタリア達に、詳細に語った事がある訳じゃないが……。
語るほど細かい物は無いし。
「まあ、いいや。じゃあ錬を見習って吸っておくとしよう。皮とかなめして売るとかはしなくても良さそうだし」
こうして魔物の死骸を盾に吸わせておくのだった。
翌日。
昨日は日が落ちるギリギリまで狩り、宿で休んだ。
錬の仲間達も夜間戦闘はそこまでしないらしく、素直に頷く。
翌朝になって、朝食を終えると、錬の仲間達も早くLv上げに行きたいと提案するので同意して出発した。
結果、夕方になる頃には8Lvも上がった。
「とても戦いやすかったです、盾の勇者様」
「ああ、こっちも有意義なLv上げができた」
これだよな。
なんていうの? 何事も無くて拍子抜けという程に、二日間が過ぎた。
ネットゲームに例えるのなら、臨時パーティーの様な効率感がある。
必要な人材と、装備を整えたメンバーが寄り添って、効率的なLv上げに勤しむ。
ギルドのメンバーがいなかったり、空いた時間に戦えるのが臨時パーティーの特徴だ。
懐かしいな……もう四ヶ月になるのか。
俺が運営していたギルドはどうなっているか、きっとギルマス失踪とか言われているんだろうな。
ちなみに錬の仲間達の希望で、本島に戻るのは夕方も過ぎた頃だった。
それまでミッチリとLv上げに勤しんだのだ。
結果的に言えば楽ではあった。実りもあったが……知識が不足していたな。
錬の仲間達は悪い奴じゃないみたいだ。
しかし……難点は主体性か。
なんでも言われた通りの場所で言われた通りに戦ってLvを上げる。だからか仲間内の連携は取れているのだけど、俺が加入した所為で最初はぎこちない動きをした。
まあ、二日目ともなれば慣れてきたのかそつなく戦えたけど。
「一応聞くが、お前等から見た錬ってどんな感じだ?」
「とてもお強い方です。彼に付いて行けば必ずや世界は救われると私共は信じております」
「ふぅん……」
どうやら錬は仲間からかなり信頼されているみたいだな。
二日間での言動から勧誘とかも考えていたが、この信頼もさる事ながら下手に引き抜いたらバランスが崩れそうなのでやめた。死なれたら錬になんて言われるか分からないし。
そもそも引き抜きたいって逸材がなぁ。
目に見えて劣る奴は一人もいないが、特筆して秀でる奴もいない。
それが錬のパーティーに対する感想だ。
元康パーティーと比べれば遥かに良いパーティーなのは事実だが、ラフタリアやフィーロと比べると贔屓目だが、かなり劣っている様に見える。
来る者は拒まずで良いだろう。
パーティー内の仲は良いみたいだし。
「そういや、樹……弓の勇者とも一緒に戦ったんだよな?」
「はい」
「どうだった?」
あんまり参考にはならなそうだが、一応聞いておこう。
「盾の勇者様と同じく一緒に行動し、後方で弓を使っておりました」
「ふむ……」
「ただ、あんまり手伝ってくださりませんでした。盾の勇者様ほど島の内部に進めませんでしたし」
相変わらずの隠し癖か?
錬もそうだけど樹も秘匿癖があるから、あんまり参考にならないなぁ。
というか弓なんだから後方で攻撃は当たり前だけど……。
まあ明日、樹の仲間から聞くとしよう。




