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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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盾と槍の戦い

「フィーロ、お前は元康を――」


 戦闘が始まると同時にフィーロに指示を出す。

 元康は女に手を出せない。特にフィーロは奴のお気に入り、槍を向ける事すら躊躇う。

 そして元康さえ止められれば槍のパーティーは封殺したも同然だ。


『力の根源たる次期女王が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、彼の者等に炎の雨を降らせ!』

「ツヴァイト・ファイアースコール!」


 随分と傲慢な詠唱をしたビッチが炎系範囲魔法を放ってくる。


「ナオフミ! フィーロちゃん!」


『力の根源たるわたしが命ずる。理を今一度読み解き、彼の者等に降り注ぐ炎の雨を妨害せよ!』

「アンチ・ツヴァイト・ファイアースコール!」


 メルティが檻の解除を行う前に、ビッチの詠唱した中級魔法を相殺する。

 しかし、完璧に相殺しきれず、俺達に向けて火の雨が降り注いだ。幸い、前線にいた俺とフィーロにしか直撃はしていない。

 密林が燃え上がる。

 辺りが一瞬にして火の海になった。

 燃え上がる炎に檻の外にいた村人も悲鳴を上げた。


「そう何度も、モトヤス様を蹴らせたりしませんわ」


 ビッチの奴、本気で俺達に向って魔法を唱えやがった。

 メルティも魔法は得意なのだろうが、相手が悪い。

 この世界を一応は熟知しているモトヤスと同行しているビッチとではLvという大きな差がある。


「フィーロ、大丈夫か!?」

「うん。大丈夫ー」


 火の雨を受けてもフィーロはダメージを受けていないようだ。

 俺は……まあ、波の時に騎士団から魔法の洗礼を受けても無傷だったからか痛くも痒くも無い。

 しかし一番の問題は周囲が改良したバイオプラントの密林だという事。

 何も考えずに、あるいは意図的に密林に火の魔法を放つなんて、周りの事なんて何も考えていないのか。


『力の根源たるわたしが命ずる。理を今一度読み解き、恵みの雨を降らせ』

「ツヴァイト・スコール!」


 メルティが炎の侵食する密林に向けて雨を降らし、自身とラフタリアを守る。


「マイン、サンキュ」


 元康の奴、魔法の援護を受けてビッチに向けてキザッたらしく指で礼をした。

 何から何まで腹立たしい奴だ。


「さあ! モトヤス様は盾の悪魔に意識を集中してください! 鳥は私達が魔法で近づけさせません」


 三人がかりで魔法の詠唱をビッチとその配下は唱えだす。


「いっくよー!」


 詠唱を気にせずフィーロは元康に向けて駆け出す。


「待てフィーロ――」


 むやみに突撃したら何が飛んでくるか分からない!


「ウィング・タックル!」


 風で作られた大きな塊が元康を蹴り飛ばそうとするフィーロに命中する。


「ふべ――」


 くるくるとフィーロは吹き飛んで、翼を広げて着地する。


「びっくりした。でも行くよ!」


 こりずにフィーロは元康に向けて突撃する。しかし魔法こそ違えど、フィーロは吹き飛ばされて近づけない。

 その戦闘方法ではダメだ。

 元康を俺に釘付けに出来ているのならフィーロは奴等を――


「喰らえ尚文! 流星槍!」


 元康が高らかに跳躍したかと思うと槍が光り輝き、俺に向って投げる。

 槍の形をした。エネルギーで構築された攻撃が俺に降り注ぐ。


「ぐう……!?」


 一番防御力の高い盾の部分で受ける。

 ずしんと体の奥に響くような重い一撃が盾を通じて俺に降りかかる。

 いきなり必殺技とか何考えているんだ。

 まあ、現実の戦いだったら出し惜しみなんてする必要も無いか。

 全身の骨が、ミシリと嫌な音を立てる。

 今までで一番効く攻撃だったと思う。

 グラスの時は憤怒の盾だったからまだダメージを受けては居なかったけど。


「どうだ! まだまだいくぜ! 乱れ突き! 昇竜槍!」


 連続でスキルをぶっ放す元康。俺のキメラヴァイパーシールドの専用効果、蛇の毒牙なんて目もくれず撃ち込んで来る。

 くそ……Lvが高いからって調子に乗りやがって!

 防御しきれなかった所から激しい痛みが走る。

 血が吹き出ているのが見なくても分かった。

 回復魔法を……掛ける余裕を元康の奴は与えてくれるつもりは無いようだ。


「シールドプリズン!」


 盾の檻が元康を中心に展開される。


「大風車!」


 槍をブンブンとバトンのように振り回し、出現した盾を元康は、なぎ払う。

 く……攻撃力が俺の防御力を大きく上回っていて止めることが出来ない。

 これでスキルのクールタイムが無くなったらまた連続でスキルを放ってくる。

 さすがに防戦一方では勝機は無いにも等しい。

 どうしたものか……。

 攻撃の要であるフィーロはビッチとその配下によって、俺と戦っている元康に近づけない。


『力の根源たるフィーロが命ずる。ことわりを今一度読み解き、かの者に激しき真空の竜巻で吹き飛ばせ』

「ツヴァイト・トルネイド!」


『力の根源たる次期女王が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、真空の竜巻を霧散せよ』

『『力の根源たる私が命ずる。理を今一度読み解き、真空の竜巻を霧散せよ』』

「「「アンチ・ツヴァイト・トルネイド!」」」


 近づけないのならと唱えたフィーロの魔法も三人がかりの相殺によってただのつむじ風になる始末。


「はいくいっくー」

「ウィング・タックル!」


 一瞬だけ、元康に接近することもあるのだけど、即座に吹き飛ばされてフィーロは無効化させられてしまっている状況だ。

 これは……厳しい。

 フィーロが邪魔な三人へ攻撃の矛先を向けても、事前に対策を準備していたのかうまく捌かれている。


 元康の奴、俺を殺すつもりで掛かってきているな。

 幸いなのはラフタリアとメルティは目標から除外されている所だろうか。

 舐めて掛かっているのか、それとも何時でも殺せると泳がせているのか分からない。

 おそらく、ラフタリア達に戦力を割いたらフィーロを止められないと分かっているのだ。現にフィーロを三人がかりで辛うじて止められているのが証拠だ。


 メルティは攻撃手段が魔法だ。ともすればその時に妨害を行えば良いし、Lvも低いので造作も無い。

 ラフタリアは装備の関係で接近戦をしてこないと踏んでいるのだろう。

 いや、近付いてきたらフィーロ諸共、魔法で蹴散らすつもりだ。

 ジリ貧だ。俺の体力が尽きるのが先か、ビッチ共の魔力が尽きるのが先かで結果が大きく変わる。


「ん!?」


 ビッチ共……何やら水筒らしき物で喉を潤している。

 可能性として高いのは魔力を回復させる魔力水の類。

 やばいぞ……これじゃあ、あの魔力水が切れるまで俺は耐え続けなければならなくなる。


「なんてタフな奴だ。これだけスキルを使って倒れない盾職なんて……」


 スキルを放って息を切らす元康。こっちはかなりのダメージを受けてるよ!

 血が体に滴っているのを感じる。


「情報通とは違ったタフな育ちをしているんでね」


 これまで、この世界に来て、色々と試行錯誤を繰り広げてきた。

 強くなる為には手段を選んだつもりは無い。

 貪欲に、解放できる盾の装備ボーナスは埋めて来たつもりだ。

 それでも……負け職では勝てないのか?


「きゃあああああああああああああああああ!」

「なんだ!?」


 元康の気が逸れた。仲間の叫び声だったのだ。

 俺も元康の見ている方角に目を向ける。

 元康の仲間の一人の肩に後ろから剣が突き刺さっていた。

 ラフタリアが防戦一方になっていた俺達の為に戦力外と見られて放置されているメルティを置いて援護してくれたのだ。


「フィーロにだけ注意を向けすぎて隙だらけです!」


 ラフタリアが突然、姿を現す。


「この!」


 仲間をやられてビッチが剣を振りかざして切りかかる。


「ハイド・ミラージュ」


 スッとラフタリアはバックステップをしたかと思うと消えた。

 ラフタリアが作り出した残影剣という魔法剣技で使う魔法の一つがハイド・ミラージュという幻を使った隠蔽魔法だ。

 幻影を使った潜伏魔法であるらしい。


「幻影魔法如きで調子に乗るな!」


『力の根源たる次期女王が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、幻覚をなぎ払え』

「ウィンドフラッシャー!」


 ラフタリアの魔法は幻影による隠蔽だ。その幻影とは言うなれば霧のような物、なぎ払う風によってラフタリアは姿を現した。


「そこぉ!」


 ビッチがラフタリアに向けて剣を突き刺す。

 ラフタリアが……攻撃を受ける!?

 今のラフタリアには防具が無い。村人が着ているような服なのだ。

 ビッチの剣はおそらく高級品。そんなものが刺さったら唯じゃ済まない。

 手段を選んでいる暇は無い!

 憤怒の盾!

 俺は迷う事無くラフタリアの方へ駆け出しながら盾をカースシリーズ、憤怒の盾に変える。


「あ、待て!」

「うおおおおおおおおおおおおお!」


 間に合え……間に合え……間に合えぇえええええ!

 全てがスローに感じる瞬間だった。精神を侵食するとかそんなものを全てかなぐり捨てて、スキルを放っていた。


「エアストシールド! セカンドシールド!」


 二重に構築された盾が剣とラフタリアの間に出現した!

 ガキンという音を立てて、ビッチの攻撃は弾かれる。


「はぁ……はぁ……」


 どうにか、間に合った。


「喰らえ!」


 元康が安堵する俺に向けてスキルを放つ。

 確か、このモーションは流星槍だったはず。

 カースシリーズで強化された鎧と肉体からなる動体視力なら行ける。

 俺は光り輝く槍の先を力強く掴む。


「な、馬鹿な! 流星槍を掴んだ、だと!?」

「さっきから馬鹿の一つ覚えみたいにスキルをバカスカぶっ放ちやがって! もう完全に見えるんだよ! ノロマ!」


 攻撃判定によって憤怒の盾のカウンター効果。セルフカースバーニングが巻き起こる。

 この炎の反撃は俺の怒りによって左右される。

 ラフタリアが殺されそうになった事によって発生した大きな怒りは……それはもう強大な殺傷力を持って俺を中心に発生した。


「うわぁあああ!」


 全身を黒い炎で焼かれ、転げまわりながら元康は炎を払った。

 ぐう……咄嗟に変えてしまったが、怒りで我を忘れてしまいそうだ。


「まだまだ!」


 ビッチの奴、弾かれたにも関わらず、懲りずにラフタリアに剣を振るう。

 くそ……クールタイムが!

 どうして二つも一緒に出してしまったんだ!


「シールド――」


 間に合わない!

 ラフタリアが……。

 ビッチの凶刃がラフタリアに命中する。


「あはははは、私に逆らうから……何!?」


 スーッとラフタリアが残像を残して消えた。


「幻影を完全に無効化するには魔力が足りなかったようですね。次はこちらから行きます!」

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