密林
「もう直ぐ南西の村だな」
フィーロの怪獣大決戦の二日後。
俺達は元康が問題を起こした村の周辺に差し掛かっていた。
ちなみにフィロリアルシリーズの盾の中で優先的に装備ボーナスを解放しているのは能力補正系だ。
Lvを上げられないフィーロとラフタリアが少しでも戦いやすくする為に必要なのは、能力の上昇だ。
下位のフィロリアル系は一つに付き、一時間程度で装備ボーナスの解放が完了している。
もちろん、それだけ恩恵が低いとも取れるけれど。何も無いよりはマシだろう。
そもそも解放できる盾は全て終わっていたので、フィロリアルシリーズは実に丁度よかった。
更に解放できた影響が若干出たのか、フィーロの足取りが速くなっている。
まあ、そこは良いんだ。運が良かったし……。
問題は、南西の村が密林みたいになっている所だろう。
「これは俺の所為だよな……」
「たぶん」
生い茂る植物の森を掻き分けながら進む俺達。
メルティの奴、これが俺の仕出かした事だと知って驚いていた。
改良したバイオプラントの種を村人に渡したのだけど……まさか元の木阿弥になってしまっているとは。
元康の事をとやかく言う資格は無いな。
「変な魔物はいないねー」
フィーロが辺りの気配を探りながら呟く。
「そうか」
もしかしたら、前よりも強力になっていたとかだったらどうしようかと思っていた所だ。
と、そこで茂みを掻き分けて村人らしき奴と遭遇してしまった。
「あ、盾の勇者様」
どうする? とりあえず逃げるのが手か? いや、最近だと俺の指名手配を信じていない村人も多いと聞くが……。
これだけの事を仕出かしてしまったこの村では間違いなく通報され――。
「盾の勇者様のお陰で安心して作業が出来ていますよ」
「はい?」
俺は周りを見渡しながら村人に答える。
「これが?」
「ええ、ここはもう田園地帯ですよ?」
「密林にしか見えんぞ」
「盾の勇者様が下さった種を使った大規模な農作事業を展開しているのですよ」
そう言いながら村人は上を指差す。
赤々とトマトのような実が植物の房に宿っている。
「難点は同じ実しか出来ないことですが、現在、村の名物になっているのですよ」
「手の早いことで」
あれから一ヶ月くらいか?
逞しいとはこの事だ。
「じゃあ何か問題があった訳じゃないのか」
「はい」
「それなら……良いのか?」
俺の返答に村人も苦笑いをする。
大昔、バイオプラントを作った錬金術師がいたそうだ。
彼、あるいは彼女の目的は今、俺の前に広がっている光景を見たかったのかもしれない。
……実に微妙な光景だけどな。
「盾の勇者様は何の御用で? シルトヴェルトは反対方向ですよ?」
「まあ、逃げてきたらここまで来てしまって」
本当の事を言って良いのか悩む。だから曖昧な正解とも言えない答えを提示する。
「はぁ……大変ですね」
「気楽に言うなお前」
何とも他人事だ。
「いえいえ、城の兵士が来ましたら来なかったと伝えておきます」
「本当かどうかは置いておいて、礼を言っておく」
ぐー……。
「フィーロお腹すいた」
実るトマトのような植物を見ながらフィーロは空腹を訴える。
そういえば、ここで貰った食物を前、フィーロに与えていたからなぁ。
「どうぞ」
村人は大きな実を指差してフィーロに食べてよいと伝える。
「わーい」
嬉しそうに食べだすフィーロを他所に俺たちも頂く。
味はトマトのような……ミカンのような微妙な味だ。一応、美味しいのだけど、俺の基準で言えば微妙。
だけどラフタリアやメルティは美味しそうに食べている。
昼食と休んでいた所、村人が村の方から数名やってきて、調理した食べ物をくれる。
「色々と感謝する」
「いえいえ」
「一応……気をつけろよ」
危ない植物でもあるんだ。と、暗に伝える。
「分かっていますよ」
こうして食事を終えた俺達。
「じゃあな」
「はい。盾の勇者様の無罪が証明出来る事を祈っております」
国境に向けて密林を越えようとした。
村人と別れてから50メートルも密林を進んでいないところでバチバチと魔法で構成された檻が現れるまで。
「キャ!?」
「なーに? これ?」
「な、なんだ?」
大きさは四方40メートル。かなり大きな雷で構成された檻だ。
魔法……なのか? それとも何かしらの道具で作られた罠か?
村人の奴、罠でも仕掛けていたのか?
だから俺達を足止めして!
「た、大変だ! 盾の勇者様が何者かの攻撃を受けているぞー!」
血相を変えた村人が村に向けて大声を出し、騒ぎが大きくなっていく。
攻撃を受けているって……お前達じゃないのか?
「やっと追いついたぞ、尚文」
「お前は……元康!」
してやったりとでも言うかのような表情で密林の植物を掻き分けて元康一行が顔を出す。
隠れていたのか? こんな密林の中で?
ご苦労な事で。
「ナオフミ、これは確か捕縛の雷檻って言う魔法道具だったはずよ」
メルティが檻の方を見て教えてくれる。
「設置型の罠で、術者と対象を閉じ込めるの」
「この罠は何が目的なんだ?」
「対象を逃がさない事を目的としてる」
なるほど、俺達がフィーロの脚力にかこつけて逃亡を図るから逃げられないようにした訳か。
「壊すことは出来るけど、ちょっと時間が掛かると思うわ」
「罠を正しく解除させる方法は?」
「道具を使用した相手から鍵を奪えば……」
俺はフィーロから降りて元康を睨む。
「戦うのですか?」
「そうなりそうだ」
ラフタリアもフィーロから降りて剣を取り出して構える。
「ラフタリア、お前は防具が無い。出来れば下がっていてくれ」
「ですが……」
「フィーロが戦う?」
「そうだな」
元康は何だかんだで美少女に弱いからな。
ついでにこれまでフィーロに辛酸を舐めさせられている。
もしかしたら……。
「メルティは檻を解除できないか?」
「やってみるけど……期待しないでね」
「じゃあラフタリア、お前はメルティを守りながら戦ってくれ」
「はい!」
「今すぐ洗脳を解いてあげるからね、三人とも」
まったく、コイツは未だに洗脳の盾が実在すると信じてしまっているのか。
むしろこの考え無しの方が洗脳されているんじゃないかと疑いたくなる。
しかしこいつは槍の勇者、四聖武器書を参考にするなら仲間想いという事になる。
仲間想い=仲間を疑わない。
そしてコイツの後ろにはビッチとクズ王がいる。
盲目的に仲間を信じるなんて、実にバカな奴だ。
「そうですモトヤス様、早く私の妹と、盾の悪魔に洗脳された者達を救うのです」
ビッチに至っては火に油を注いでいるな。
「盾の勇者様! それに……槍の……」
檻の外から村人が俺達に向って呼びかける。
元康に向けて村人は微妙な表情を浮かべる。
理由は容易く想像できる。村の為に頑張ったは良いが災害を起こした張本人で、面と向って罵倒しようものなら、国、いや三勇教からの粛清が怖いのだろう。
「君たちも洗脳を解いてあげるからね」
モトヤスの奴、絶対、自分に酔っている目をしている。
俺を舐めた目で見ながら、槍を構えている。
「前回のように手加減はしてやらねえからな」
「……それはこっちの台詞だ」
思えば異世界に召喚されて二日目と一ヶ月目に元康には辛酸を舐めさせられてきたんだ。
ここらで一矢報いるのも一興か。
俺はキメラヴァイパーシールドに盾を変化させて元康に向って構える。
元康はビッチ、そして女が二人、仲間が居る。
……確か男が居た筈だが……元康の事だ。ハーレムには不要と解雇でもしたのだろう。
対してこっちは俺とフィーロが前線に立ち、メルティは罠の解除、ラフタリアは守りに入らせている。
「矛と盾が戦ったらどっちが勝つか、なんて話があるが……勝つのは俺だ!」
元康が確信に満ちた笑みを浮かべながら言い放つ。
「抜かせ、卑怯者。今度もズルして勝つんだろ? 自分が道化であることを知りやがれ!」
一瞬何か言いたげに口元を動かした元康だったが直ぐにやめる。
言葉は必要無いとでも言いたいみたいだな。
良いだろう。今は前とは違う。
メルティは戦えないが、俺にはラフタリアとフィーロがいる。
盾が本気を出せる状況ならば、負けはしない。
いざ、尋常に……どちらが強いかをここで見せ付けてくれる!
「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」
俺達は各々の未来を掛けた戦いへ踏み出した。




