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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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指名手配

「うーむ……」


 俺は茂みに隠れて状況を観察していた。

 第二王女を乗せて数時間。近くに村があるので隠れながら様子を見る。ここは前にドラゴンの死骸で被害が出ていた村の近くだ。

 あの騎士共の話は本当だった。


「盾の悪魔であるナオフミ・イワタニが近衛騎士を虐殺し、第二王女を誘拐して逃亡中である。生死は問わない。賞金は――」


 高額の賞金が掛けられた立て札が村に設置され、城の兵士達が宣言している。

 まだ事件から数時間だというのに、随分と用意が良いじゃないか。

 アイツ等、最初から決まっているとか言っていたからな。

 俺達と接触する奴等は捕まったり、殺される事を前提にやって来た尖兵って訳か。


 聞いた事がある。

 爆弾を体に巻いて、突撃すれば天国に行ける。

 みたいな狂気的思想を実行に移す奴等がいるって話を。


「近衛騎士が今際の際に記憶された水晶映像がこれだ! この水晶玉を城に持ち込んだ所で持ってきた近衛騎士は殉職した」


 しかもだ。水晶玉で撮影したらしき物が何かホログラムの様に映し出されている。

 邪悪そうに顔を歪めた、血まみれの俺が第二王女の首に腕を回して拘束するっぽい瞬間を撮ったような形になっている。

 ……ある程度捏造することも出来るのかよ。

 水晶玉で撮った後、脱兎の如く逃げた癖に今際の際?

 随分と元気で健康的な死に際もあったもんだ。


 まあ、限界があるのか、よく見ると第二王女の顔が首を絞められて苦しいと言うよりも驚愕の表情だけど。

 ちなみにシルトヴェルトは北東でシルドフリーデンは南東に位置する国だ。ただ、二つほど国を跨ぐ必要がある。

 距離も以前聞いた通り、かなり遠い。

 どうにか見つからずに進むしかあるまい。


「見慣れない鳥の姿をした邪悪な悪魔に馬車を引かせている。見たものは直ぐに国へ連絡するように」


 フィーロの方も水晶に映っていた様で、表情を猛禽類の様に捏造され、口からは毒を吐いている。

 良かったな。捏造の中では望み通り毒が吐けるじゃないか。

 しかしフィーロまで記録されているとなると移動手段に問題が出てくるな。


 これはフィーロをどこかで置いて行くのも手かもしれない。



「という訳だフィーロ」

「やー!」


 村の偵察を終えて戻った俺はフィーロが目立つから別れようと指示を出した。フィーロに馬車を引かせて注意を向け、俺達は安全に亡命する。フィーロは後で馬車を乗り捨てて、持ち前の速度で追いかけてくれば良い。

 馬車も人も乗せていないなら、尋常じゃない速度を出せるはずだ。

 と、一通り説明したら、これだ。


「しょうがないだろ。お前は目立つんだから」


 珍しい魔物という意味で。

 何より聖人の神鳥として、目印にもなっている位だ。


「人が居る時だけ別の姿になれば良いんでしょ? ならフィーロがんばる!」

「どうやって――」


 言い終わる前にフィーロの体が淡く輝いて、変身を始める。

 どうせ人型で馬車を引くとか言うのだろう。

 そう思っていたら、何か首が長くなり、足が伸びた。


「グエエエエ!」


 大型のダチョウみたいなというかフィロリアルの平均的な姿にフィーロは変身した。

 まあ、サイズはお察しの平均よりかなり大きいが。


「その姿にも成れるのかよ」

「グエエ!」


 コクリと頷く。


「何で鳴き声だけなんだ?」

「グエエエ!」

「ああ、その姿だと喋れないのか」


 ふむ、出来れば取りたくなかった姿って奴だろうか。


「フィーロちゃんすごーい!」


 第二王女は目を輝かせてフィーロとじゃれあっている。


「グエエエ」


 まあ、確かにあの毒舌で甲高い声が聞こえないと言うのは良い事だよな。


「ずっとその姿で居ろ。そうすれば静かだ」

「グエエ!」


 ガシっと足で俺の頭を掴みやがった。

 ラフタリアもフィーロも滅多に違反しないので忘れていたが、俺への攻撃は当然違反行為だ。

 力を入れる前に魔物紋が作動して転げまわる。


「グエエエ!?」

「フィーロちゃん!?」

「まったく、何が嫌だと言うのだ」

「フィーロちゃんに乱暴しないで!」

「してない。コイツが俺に手を上げたから魔物紋が作動しただけだ」


 下手に人型でピーチクパーチクされるよりまだ可愛げというものがあるのに。

 フィーロの気持ちは知らんが、少なくとも俺はこっちの方が好きだった。

 ペットに求める心の平穏は相手が何も言えない獣だから成立する。

 その生物が人型になり、ピーチクパーチクと子供の様に駄々を捏ねたらうんざりもするさ。


「痛がってるじゃない!」

「自業自得だ。お前だって理解しているだろ。魔物は主に手を上げちゃいけないんだ」

「うー……」


 第二王女の奴、妙にフィーロの事を気にかけているな。

 やはり話が通じる友達だからか?


「とりあえず、軽く変装して大丈夫かどうかだな」


 今までだって、聖人として隠して居た訳だし、どうにかなるだろう。


「ラフタリアは……少しみすぼらしい格好にでもして帽子を被ればどうにか……なるかなぁ」


 そんな訳で俺と第二王女は馬車に隠れ、変身したフィーロと変装したラフタリアで村を通り過ぎる。


「あ……」


 ラフタリアが村人と目を合わせる。


「……」

「……」


 無言で通り過ぎていく。


「……」

「……」


 兵士が見張る村の中を金属製の馬車は通り過ぎていく。


「待て」


 呼び止められた。

 事前に見つかった場合の準備もしているし、この村にいる連中程度なら対処できるはず。


「は、はい。なんでしょう?」

「妙に羽振りの良い馬車だな。悪魔の鳥はいないな……」

「え、ええ。私は商売人でして」

「ほう……少し中を確認させてもらって良いか?」


 やばいな。

 兵士の奴、馬車の扉に手を掛けている。

 どうする。俺は地味な服を着て、盾をブックシールドに変えているから誤魔化せるかもしれないが第二王女は誤魔化せない。


「あ!」


 先ほどラフタリアと視線を合わせた村人が大きく声を出した。


「どうした!?」


 兵士が顔を村人の方へ向ける。


「さっきあっちの方に盾の悪魔がチラリと見えた気が」

「本当か!?」


 その村人達は全員頷いている。

 ワラワラと兵士達は最初に声を出した村人の指し示す見当違いの方向に走り出していく。


「こっちです」


 トントンと馬車を叩く村人。


「今のうちにこちらへ」


 どうも乗っている俺達に隠れ場所を提供するつもりらしい。

 どうする……これで騙されて兵士のいる真っ只中に連れて行かれたら目も当てられないぞ。


「行ってください。ここは私が誤魔化します」


 村人が決断に迷う俺に指示を出す。


「しかし――」

「騙すつもりなら最初から叫んでいます」


 それもそうか。

 俺はマントを第二王女に被せて一緒に、馬車から静かに下りて村人の案内する家に早足で着いていく。


「何も居ないじゃないか」

「あれ? 違いました?」

「いや、ちゃんと証言を述べているので、もしもでも見つけたら言ってくれ」

「はい」


 村人は誤魔化しを終え、兵士は馬車の中を確認する。


「ふむ……雑貨と素材ばかりだな、後薬剤か」

「ええ、冒険者に頼まれたものを搬送中なのですよ。あはは」


 苦笑いを浮かべて変装したラフタリアは答える。


「そうか、足止めさせてすまなかったな」

「いえいえ」


 兵士は馬車から離れて見回りを始めた。

 村人はラフタリアに村の宿屋で止めるように指差し、ラフタリアは素直に応じる。


「ふう……」


 その様子を民家の窓から覗いていた俺達。

 凄く緊張した。

 かなり危なかった。村人が助けてくれなかったら一騒動あったな。


「大丈夫ですか? 聖人様」

「あ、ああ……というか」

「ええ、聖人様に村を救ってもらった後、実は聖人様が盾の勇者様だと気付きまして」

「俺を糾弾しないのか?」

「糾弾!? 滅相も無い。聖人様はこの村の人々を救ってくださったのですよ。恩を仇で返すなんて事は出来ません」

「……安全なの?」


 第二王女が心配そうに俺に尋ねる。


「悪魔の味方をして良いのか?」

「三勇教会は受けた恩は返せというモノがあります。剣の神が起こした災いを盾の悪魔が救ってくださったのです」


 ここでの戦いは厳しかった。俺も色々と学ぶことの多かった村だ。

 まだ復興には程遠いけれど、疫病は沈静化したようだな。


「確かに悪魔かも知れませんが、恩に報いなければ悪魔以下です。何か事情があるのですよね」


 第二王女を指差し、村人は尋ねる。


「ちょっとした陰謀にな」

「王女様が素直に同行しているとなると、何かあったのですね」


 王女は村人の問いに頷く。


「国内に巣食う、わたしの命を狙うものがいるの。盾の勇者様はそれから救ってくださっただけ……」


 王女の返答に村人は納得する。


「分かりました。ですが私達の中にも恩知らずが居るかもしれません。足早に逃げた方が良いかと」

「……分かった」

「裏に藁を満載した荷車があります。数名の村人が運びますので、宿の倉庫で待機している仲間と合流してお逃げください」

「感謝する」


 兵士の目を盗み、俺達は村人の運ぶ荷車に隠れてラフタリアたちと合流した。


「やはり金属製の馬車だと目立って危険だ。乗り捨てて行くしかあるまい」

「グエエ!?」


 変身中のフィーロが奇妙な声を出す。

 そしてブンブンと首を振る。


「グエ! グエ!」

「しょうがないだろ! お前は見つかって捕まりたいのか? そうなると第二王女は、メルちゃんは殺されるぞ」

「グ……」


 フィーロの奴、第二王女の命の危険に渋々、黙り込む。

 あんなに大事にしていたのに……やはり友達の方が大事だよなぁ。


「偉いぞ、フィーロ。お前は物と友達……人として大切な方を選んだんだ」

「グエ?」


 そう言って優しく撫でる。

 意味を理解していなくとも、フィーロの選択は決して間違っていない。


「事件が解決したら絶対に取り戻してやるから」

「グエ!」


 絶対だよ。って言ってるのが分かるな。


「すまない。馬車をここで預かってくれ、そして荷車を譲ってくれ」

「……はい」


 村人の奴等も事態の大きさに素直に了承してくれる。


「この礼はいずれする」

「既に支払っていますよ」

「そうか。よし、第二王女、この際だ。別の服に着替えろ、じゃないと一発でばれる」

「う……うん」


 第二王女は安物の服を着るのに若干抵抗があるのだろうが、事態が事態なので素直に頷く。

 村人が持っていた子供服で、随分と年季の入った品だ。

 この家には子供がいない様なので、家主が子供の頃着ていた服だろう。

 少々ボロイ事もあって、第二王女は外見こそ今まで通りだが、村人と言えば納得される程度にはみすぼらしい姿になったと思う。

 唯普段から良い物を食っている所為か育ちが良いのと、珍しい青髪が相変わらず第二王女を高貴な生まれと自己主張している。遠目ならごまかせるが、近くで確認されればバレてしまう。かと言って捨てていく訳にもいかない。

 中々うまく事が運んでくれないな。


「他の雑貨は袋にでも詰めておけ」


 持ち運び出来そうな奴だけを軽くまとめて藁の中に隠す。

 かさばって持っていけない物は村人達に渡しておいた。

 順当に行けたとしても2週間以上は掛かる道のりだ。保存するよりは復興に役立てた方が良いだろう。


「よし、では行くぞ」

「はい」


 見送る村人達を背に俺達は足早に村を後にした。

 やはり簡単に誤魔化せるものじゃないようだ。村人の奴等に一発で見つかったし。

 これからは出来る限り町や村を避けて行くしかない。

 ゴトゴトと音を立てて藁を乗せた荷車は北東へ向けて走り始めた。

 できれば、この村の連中が罰せられない事を祈る。

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