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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
50/1287

嵐の前の

「アンちゃん。まだ防具は出来てねえからよ。人ん家のキッチンを使うのやめてくれねえか?」

「何故だ? 許可はさっき取っただろうが」

「そりゃあキッチンを貸してくれとか言って金まで出されたら無下には出来ねえけど」


 少年兵と別れた後、俺達は市場で大量に食材を買い。手ごろな知り合いである武器屋に押しかけ、キッチンを占拠して料理を始めた。

 安く武器防具を提供してくれている武器屋にも食い物をやろうと言う俺の真心が分からないのか?


「ごっはん! ごっはん!」


 さっきからフィーロが俺の作る合間の焼肉や串焼きをずっと食っている。


「匂いがすげえんだよ! さっきから入ってくる奴みんなが匂いに釣られて、覗き込むわ、市場に食い物買いに行くわで散々だ」


 ラフタリアがカウンターの方で俺の防具を作りながら接客する親父に出来上がった料理を運んで行く。


「しかも嬢ちゃんが持ってくる料理を盗み食いした馬鹿が、何処でこんな味が! ってさっきから騒ぎまくってる」

「盗み食いする奴なんて追い出せば良いだろ」

「盗み食いした奴が気前がよくて武器を買っていくんだ。アンちゃんの買い物以外で売り上げ記録が今月を抜きそうなんだよ」

「良かったな。俺のお陰だ」

「まあな。じゃねえよ! ここは飯屋じゃねえ武器屋だ!」

「だが、またバーベキューでは味気ないだろ。鍋物に挑戦しているのだが……」


 武器屋の奴、近所の金物屋まで兼任していて結構大きな鍋を持っていたのだ。

 だからその大なべを貸してもらって、この世界独特のカレーに似た料理をいま作っている最中だ。


「……」


 換気窓からなんか近所のおばちゃんらしき人が覗き込んでくる。他、冒険者っぽい奴が数名。

 バタンと換気窓を閉める。

 すると武器屋のカウンター方面に匂いがなおの事漂う。


「アンちゃん!」


 親父の声が大きくなった。

 まったく……。

 結局、鍋が完成した所で親父に追い出され、フィーロへの手料理は終わってしまった。

 フィーロもまだ食べ足りないのか不満そうだ。鍋の中身も半分しか平らげていない。

 後日、俺達が残していった鍋の中身を食いきれないからと来客に振舞った所為で武器屋は時々、メチャクチャ美味い飯を披露してくれる店という風聞が付くのは別の話。


「フィーロごしゅじんさまのごはん、もっと食べたかった」


 不満そうに頬を膨らませるフィーロに店で買った串焼きを渡し、町をぶらつきながら、手ごろな食材を物色する。


「ま、川辺で何か作ればいいか」

「またお肉?」

「ああ、飽きるだろ?」

「ごしゅじんさまの料理なら飽きないよー」

「はいはい」


 フィーロの返答に空返事しつつ、武器屋から拝借した鉄板をフィーロに担がせて進む。

 まあ、毎度お馴染みの川原でバーベキューが妥当な所だろう。

 材料を適当に買い占めて、川原でバーベキューを始める。

 フィーロは肉が足りなくなることを懸念して森へ走って行き、ウサピルを何匹か捕まえてくる。

 ひとしきりフィーロが満足するまでバーベキューをして、次は何をするかと考える。


「こんなゆっくりとした時間は初めてですね」

「そういえば、そうだな」


 殺伐とした時間の中で過ごしていた異世界での日々、空を見上げると青くて、とても平和だ。

 厄災の波が数日と迫っているとは思えない。

 ふと、ラフタリアを見ると俺が昔渡したボールを跳ねさせて遊んでいる。


「それ……前に買ってやった奴だよな」


 俺が指差すとラフタリアは微笑む。


「覚えていてくださったんですね」


 まだ持っていたのか、何時の間にか無くなってしまったと思っていたのだが。


「ナオフミ様が初めて私にくださったものですよ」

「物欲しそうに見ていたら誰だって買ってやるさ」

「私はそうは思いませんけどね」

「んあ?」


 フィーロが、まだバーベキューの残り物を啄ばみながらこちらに振り向く。


「お姉ちゃんどうしたの?」

「フィーロが生まれる前の話をしていたのですよ」

「ふーん……」


 跳ねるボールを良く見る。

 所々擦り切れていて、ボロボロになっていた。おそらく、俺の知らない間にラフタリアはボールで遊んでいたのだろう。


「新しいのを買ってやろうか?」


 そんな高い品ではない。ボールで遊ぶのが趣味ならラフタリアの息抜きの為に買っても良いとは思う。


「いえいえ、これは私の思い出の品なので、代わりはいりませんよ」

「そういう意味じゃないのだけど……」


 大切な思い出だと思ってくれているのなら割れたりしたら困るだろうに……本人がそれで良いのならあえて強要はしないが。


「俺も一緒に遊ばせてもらうかな」

「え!?」


 ラフタリアが意外そうに俺を見る。


「どうした?」

「いえ……ナオフミ様は玉遊びをするような方とは思っていなかったので」

「俺をなんだと思っているんだ……まあ、そう思われてもしょうがないが。こんなゆっくりとした日くらいは遊び位するさ」


 二人で遊べるボール遊びというとバレーボールか……まあ、ただボールを相手に落とさずトスするだけの遊びだが。

 トンっと俺の方へ飛んでくるボールを跳ね上げてラフタリアに返す。

 意外と難しいなぁ……ビーチバレーとかもあんまりやった事がないので思い通りにあまり行かない。


「ごしゅじんさまとラフタリアお姉ちゃんが遊んでるー! フィーロも混ぜてー」


 しばらくトスを繰り返していると鳥が食事を終えて人型になって騒ぎ出した。


「一緒に遊んでも良いが、ボールは割るなよ。後、力を入れないこと」

「はーい!」

「ふふふ」


 ラフタリアはとても楽しそうにトスをする。

 やはり見た目は大きくても中身は子供なのだろう。


「次の波を超えたらクラスアップの為に別の国へ行こうと思う」

「はい。どこまでも着いて行きます」

「フィーロもー!」


 ボールが俺、ラフタリア、フィーロへと飛んで行き、俺に戻ってくる。


「あ」


 ボールをラフタリアの後ろへ飛ばしてしまった。あれでは振り向く前に地面に落ちてしまうだろう。


「えい」

「何!」


 尻尾で器用にボールを弾いてフィーロの方へ飛ばす。


「わぁ……フィーロもー」


 フィーロも背中に生えた羽でボールを弾く。

 お前等……普通の人間には無い部位を使うなよ。


「ナオフミ様」


 なんだろう。変な限定条件の入った勝負になりつつある。

 しょうがない。


「エアストシールド!」


 空中に現れた盾を使い、ボールをバウンドさせる。


「あ、ずるーい!」

「ずるくない!」


 まったく……完全に子供の遊びだ。

 クールタイムの所為で、結局俺が負けた。その後は普通にバレーをやっている。


「さてどうするかな」


 更に強くなる為にはラフタリア達がクラスアップするのは必須だろう。

 また波が来たらどうせ召喚されるんだ。その間は行った先の国で金稼ぎとLv上げをすればいい。


「まだ時間に余裕があるな。ラフタリア、フィーロ。何か欲しいアクセサリーはあるか?」

「アクセサリーですか?」

「ああ、細工でお前達の装備品ぐらいは作れるだろうからな」


 これはここ最近、頑張っているラフタリアとフィーロへの褒美として前々から決めていたことだ。


「ラフタリアもそういうのを欲しがる年頃だろ?」

「え、ええ……」

「フィーロも!」

「分かってる。だからお前達に何が欲しいか聞いているんだよ」


 ラフタリアは若干呆気に取られたような顔をしていた。

 そんなに珍しい事だろうか?


「えっとねーフィーロはヘアピンが欲しーい」


 フィーロはヘアピンか……手綱とか鞍が欲しいとか言うかと思ったから意外だ。


「ヘアピン? なんでだ?」

「変身しても肉に食い込まないからー」


 まだ気にしてるのか。まあ、頭に付ければ良いからなのかもしれないが。

 フィーロの人型時の外見年齢から察するに妥当な所か。


「ラフタリアは何が欲しい?」

「私ですか? そうですね……」


 しばし考えたラフタリアは俺を見て答える。


「腕輪が欲しいですね。重要なのは付与効果です。これがダメでは意味がありません」

「は?」

「能力の上昇が期待できる物が望ましいです、ナオフミ様」


 なんだろう。ラフタリアの返答が想像の斜め上を行っていて理解が追いつかない。

 指輪やイヤリングとかネックレスとかを欲しがると思ったのに腕輪、しかも付与効果重視って。

 脳筋に育ててしまった俺が悪いのか?


「わ、わかった。善処する」

「フィーロもー」

「はいはい」


 こうしてその日は日が暮れるまで草原でゆっくりと遊び、俺達は波に備えて早めに宿に戻ったのだった。

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