食べさせる罰
「アッサリと処理出来たみたいだが……」
「マルティイイイイ!」
クズが絶叫をしておりますな。あの時は虚ろな感じでしたが今回は虎娘が居るからか悲しみの色合いが強いように見えますな。
「ありえん! あってはならん! マルティ、なんでお前が! あああああああああぁあああぁぁぁぁぁぁ!?」
「一体何が……メルティちゃん。わかる?」
「えー……っと」
婚約者も困惑しているという様子でお義父さんの質問に答えようとしてますぞ。
「パーティーの準備をする前に少しだけ話をしようと母上に父上がお茶に誘う形で私やアトラちゃん達を交えて参加することになったんです。何でも姉上も反省しているだろうと父上も紹介を兼ねていたみたいでして」
まあ、罰が下された赤豚は特に何もしなければパーティーの食事の席で気に食わない相手であるお義父さんに毒を盛ろうとする頃合いですぞ。
婚約者の話ではクズも赤豚を虎娘に紹介するつもりだったようですぞ。
「ああ……マルティ……どうして、あの子と仲良くしたいと言ったのは嘘だったのか……」
クズがポツリと零しましたな。
「……やはりあの子があなたに提案したのですか。怪しいとは思っていましたが……あなたも少なからず疑っていたから念のために飲ませて、こんな事になるとは……」
どうやら赤豚がクズに虎娘とお茶を飲みたいとお願いしたみたいですぞ。
俺も赤豚が虎娘を見た時の反応から嫌な予感がしましたがこんなにもすぐに愚かな真似を……ですが赤豚が秘蔵にしていたウロボロス劇毒らしき瓶が本当にそうだったとは驚きですな。
そんな形で女王も参加した小さなお茶会をクズは開いて赤豚と、錬に化けたラフミ、婚約者、虎兄妹が参加した催しが部屋で行われていたのですな。
既に錬は婚約者と婚約関係になったという事で参加させられていたのですぞ。
「姉上も父上は元より母上に対して同情を求めつつ物分かりが良い態度では居たんです。なんか怪しいなと私も思ってはいたのですけど……」
「うん……それで?」
「姉上が城の使用人に命じてお菓子とお茶を部屋の入口まで持って来させて、ここからは血の繋がった者同士でやるからと言い張りながらお茶とお菓子を……」
怪しさ抜群ですな。
よく赤豚に配膳等、させられますな。
「もちろん私は絶対に手を付けるつもりは無くて、不安に思っていた所で……」
「何か凄まじい物が入れてあるのはわかっていましたわ」
「気づかなかった……」
「お兄様も気づけない程の巧妙な何かでしたわ。あれは一体……? もちろん注意をしようと思っていましたわ」
虎娘が察して絶対に手は付けないつもりだったらしいですな。
赤豚がみんなにお茶と茶菓子の乗った皿をそれぞれの前に置いたそうなのですぞ。
そこで反省して率先してみんなの為に動く様を見せている赤豚に虎娘に配った皿を指さしてクズが命じたのですぞ。
「マルティ、心をすっかりと入れ替えたのじゃな。じゃが妻は疑って居る。このお茶と皿の物はお前が食べなさい」
改名したはずなのに前の名前で呼ぶクズに女王が眉を寄せて注意しようとしましたが、クズの様子に一端は無視したそうですぞ。
「ブヒブブブ!」
赤豚は言い訳をしていた様ですぞ。
「うむ、信じておる。だから食べなさい。お前の無実をこうして証明するのじゃ」
クズが言わなければ女王が命じる所だったそうですがな?
「ブヒィイイイ!」
で、ここぞとばかりに赤豚は絶対に食べないと喚き散らしたそうですぞ。
ははは、バレバレですな。
「はあ……まったく、舌の根も乾かないうちに何をしでかそうとしたのか……」
「妻よ! どうか、この子が自身の用意した物で少しばかり苦しむだけで許してやってくれ!」
赤豚の出荷を阻止すべくクズが女王に提案したそうですぞ。
クズも信じたかったからこそ話に乗って……最後は赤豚を裏切ったのですな。
しかし……これまでの世界のクズならば食べさせる様な罰にしなかったのですはないですかな?
「ブヒャアア! ブヒャブヒャ!」
「姉上、父上を罵倒する前に自身の行いを恥じて下さい。父上は信じたかったのですから」
「ふん、それが良いだろう。自業自得<人を呪わば穴二つ>にふさわしいな」
ラフミは何を言っているのですかな?
便乗するなですぞ。
「……良いでしょう」
女王もため息をしながら手を叩いて兵士たちを呼んで赤豚を抑え込ませたのですな。
「解毒の準備もするのじゃぞ!」
クズが出来る限りのフォローを交えつつ命じたとかですぞ。
「ブ……ブ……ブブッブブブブブブ――ぶひゃあああああああああああああああああAAAAAAAAAA!?!?!?」
赤豚は兵士の拘束を振りほどき、喉を掻き毟りながらのたうち回り始めました。
「マルティ……どうしてこの子に毒を……そんな事をせずともワシはお前を愛しておるというのに」
「愚かな……やはり毒を盛ろうとして……ッ!?」
この辺りで雲行きが怪しくなった様ですな。
過去に起こった出来事を知っているクズと女王はすぐにその毒の正体に気付いたとか。
「そ、そんなバカな!?」
「これは!? 緊急事態<エマージェンシーコール!>急いでこの場から離れる<ジャストアウェイ>しないと被害増大<感染拡大>からの侵食汚染<ミアズマフィールド>となるぞ!」
「AAAAぁあああああ――」
と、まあ……赤豚がウロボロス劇毒の症状を見せながら絶命したのですな。
「こ、これは!? 急いで蘇生処置を――」
「何人たりとも触ってはいけません! 総員! 急いでここから逃げなさい!」
と女王が即座に判断してその場から急いで離脱した所で絶命した赤豚がウロボロスの使徒と化して変化し始めたという事のようですぞ。
「マ、マルティ! マルティイイイイイイイイイイイ!」
そうしてクズの絶叫が響きました。
「後は駆けつけた皆様の判断した通り……なのですが……」
「つまり……処分された状況なのに堂々とアトラちゃん達をその場でなんか凄まじい毒を使って殺そうとしたって事だよね……? 疑われるのは自分だろうに、頭いかれてるな……それとも誰かに責任を擦り付けて逃げれる算段でもあったんだろうか?」
お義父さんが思わずつぶやくように答えましたぞ。
「疑われているからこそというのに期待してという事でしょうかね。それでも愚かですね」
で、なぜか俺に周囲の視線が集まりますぞ。
「俺じゃないですぞ!? なんで俺なのですかな!?」
「あなたは既に色々とやらかしているからでしょう」
樹はうるさいですぞ。
「まあ……元康くんは一緒に居たしねぇ……出来事も規模から思わず視線が行っちゃっただけかな」
とても心外ですぞ。
今回は俺ではありません。
「話は戻って……」
「大方運んできた使用人やシェフが犯人とでもいう気だったのでは?」
「その可能性が非常に高いでしょう」
「ち、違う! そいつらが犯人なのじゃ!」
クズが藁にもすがるような顔で使用人共の犯人説を推そうとしてますぞ。
「無いとも言い難いけれど……」
「クズ、マル……ビッチの抵抗具合からして、その可能性が非常に低いのはあなた自身も分かっているでしょう? 自業自得で手打ちにしようとしたのですから」
「うぐぐ……」
使用人犯人説はクズ自身が赤豚を信用できずに毒を盛った赤豚自身に服用させたのですぞ。
なので根本的に破綻している流れなのですな。
そもそも虎娘に持っていく段階で怪しんでいた所で完全に黒では無いですかな?
異議を唱えようとクズが頭をフル回転していたようですが、やがてがっくりと肩を落としました。
「すまぬ。取り乱した」
そうして使用人に謝罪しました。
使用人達も事態が事態なだけに困惑の方が強そうですな。
う~む、やはりクズはどうにもこれまでと違いますな。
「私がもっと早く注意をすれば……」
虎娘が嘆くように呟くとクズは首を横に振りましたな。
「いいや、君が注意しようとワシはあの子への罰と思って続けたはずじゃ……気にせんでくれ」
より老けたような顔つきでクズは虎娘と虎男に悲し気な声音でフォローをしていました。
しかし、以前の世界とは違った威厳の様なモノは感じますな。
赤豚を注意した位ですからな。きっと多少なりとも覚悟はあるのでしょう。




